フィナーレ(ロアナリーザ)
最終話です。
私は、かつて人間の男を愛し、それにより魔族を父を裏切った。
私に、その気がなかったとはいえ、魔族全体にかけてしまった迷惑は大きかった。あの国が滅んだあと、私はしばらくの間、他の魔族の長たちの元へ謝罪に赴く日々を過ごしていた。
そんな私を、依然と変わりなく、マリーシェルとゼルスエールは支えてくれた。
他の魔族の長も決して、私を否定しようとはせず、私の謝罪も受け入れてくれた。
おそらく、お父様の介添えがあったからだろうと思う。本当に頭が上がらない。
私のような不出来な娘を、愛してくれている人がこんなに近くにいたのに、人間の色恋に流されるなんて。
魔族の長たちの厳しいながらも、飾らない言葉に私の心は癒されていった。
そんな忙しい日のことだった。マリーシェルから、お墓の準備ができたと、話があった。
そう言えば、男を丁重に葬るようにと伝えていたことを思い出し、公務の間に、そのお墓に向かう。
「そう言えば、マリーシェル」
「何でしょうか?姫様?」
「もしなんだけど、あの時あなたを頼っていたら、私はどうなっていたのかしら?」
その言葉に、マリーシェルは、困ったような表情を浮かべる。しばしの沈黙の後、ようやくに口を開いた。
「きっと、違う未来がございました」
あまりよい声色ではない、その言葉だけで、私は察する。
「この顛末も、結局は、お互いの不運だったというわけね」
その言葉を、マリーシェルは、肯定も否定もしなかった。ただ、黙って私の後ろについた。もう、これ以上は、話題もなかった。
おそらく、私の中の小さな私が好きだった彼のお墓は小さなものだろう。わたしではない女神の元に帰っていった彼に、天界に知り合いのいない私が会えるはずもない。だから、せめてもの慰めを送ろう。
小さな彼のお墓には、小さな花を添えてあげよう。きっとシロツメクサなんかが似合うと思う。
お読みいただきありがとうございました。
少し補足を
Q.なんで、魔族はロアナリーザが人間の味方をした程度のことで敗れたのか?
A. 魔族全体に、魔王に対する攻撃への安全装置が掛けられています。それは、魔王の娘にも適応されるため、魔族はロアナリーザに攻撃することができません。
また、魔族は魔力を使いお互いを判別しています。
それを察察知した人間側が、ロアナリーザの魔力を武具に移したことで、攻撃の手段を封じられた魔族は、前回の闘いに敗れました。
Q.再び、ジャンの話で、ジャンの母親の発言は矛盾がありますが
A. 「ジャン。ロアナ様は、確かに魔族だけど、こんなことを望んではいないわ。どんなに憎まれていても、あなただけは助けてあげて。あなたは、ロアナ様が好きなんでしょう?」
と、母親は伝えようとしましたが、
「ジャ(ン)。ロア(ナ様)は、(確かに)魔(族)だ(けど、こんなことを望んではいないわ)。(どんな)に憎まれていても、忘れな(いで。あなただけは助けてあげて。あなたは、ロアナ様が好きなんでしょう)?」
()内は聞き取れなかったり、母親が力尽きて言葉にならなかった部分です。
これを、ジャンは、
「ジャン。ロアナは、魔女だから、恨んで、わすれなさい」と言われたと判断しました。
Q. 再びリリーアの話で、女神の武具や新しく作った武器、工房が砂になったのはなぜですか?
A. ロアナリーザの力です。自らの魔力の一部を封じ込めた鎧や、自らより抽出した魔力を、全て取り込みました。それにより、武具は300年もの間何のメンテナンスも受けていなかった状態になり、それと同様に武器も同じ結果になりました。
Q.ジャンが、マリーシやゼルスを頼って、ロアナを救い出していた場合どうなっていましたか?
A. 一時的には逃げ出せましたが、人間の世界から逃げ出すことができない、ロアナとジャンは、捕まるしかなかったです。ロアナは、魔王の娘の転生体であることがばれて、魔力を前回と同じように搾り取られ、今後転生した場合には、自動的に人間側が確保できるように処置を施されるというシナリオでした。この場合、ジャンは、魔族を匿ったとして、処刑される結末が待っています。本作は、大きな選択肢の中でも、比較的ハッピーエンドよりのバッドエンドにしてみました。
Q.ロアナリーザになって思い出をすべて失っていたはずですが、フィナーレでのまだ慕っているような感じがします。
A.ロアナリーザが捧げたシロツメクサが、再会の約束なのか、あの世での幸運を祈るなのかは、ご想像にお任せします。