表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
<R15>15歳未満の方は移動してください。

幼馴染に嫌いだと言われ、同級生には、ふられた俺。でも再会した幼馴染は、俺にデレデレ、甘々、ラブラブになっていた。

「好きです。付き合ってください」


俺は海木海忠うみきうみただ。中学校三年生。


卒業式を間近にした日、放課後の屋上。人生における大イベントがやってきた。


「そんなことを急に言われても」


「池森さんを初めて見たときから、好きになったんです。一目惚れしたんです」


「一目惚れって……」


俺が告白している彼女、池森康菜いけもりやすなさんは同級生。俺のいる中学校の中で、三本の指に入る美少女だ。


つややかな長い髪。きりっと引き締まって端正ではあるが、かわいらしさもある顔立ち。成績は常に十番以内。有名な進学校への進学も決まっている。


そんなスペックの高い彼女に、告白をする男子生徒が出てきているという。


しかし、全部断っているという話で、まだ彼氏はいないままだということだ。


それならチャンスはありそう。


ただ俺は普通の男だ。彼女とのつり合いは取れないのではないか、とも思う。


つり合いが取れそうもないのに、告白するのは、最初から負け戦に行くようなものだろう。


それでも俺は彼女にトライをしていく。


「好きなんです。この気持ちを康菜さんに伝えたいんです」


「好きだって言われても……」


容貌が俺の好みということが一番大きい。


また、意外といえば失礼だが、彼女には優しいところがあり、俺も何度か親しく会話をしたことがある。


少なくとも俺が嫌いということではなさそうだし、好意を持っていそうな笑顔を向けてくれたこともある。


その好意を持っていそう、というところに、チャンスがあるのでは、と思う。


そして、高校が別になってしまう為、チャンスは今しかない。ここで告白しなかったら、一生の後悔になるだろう。


だから、俺は今日、人生においての大勝負に出ている。


「お願いします。付き合ってください」


そう深々と頭を下げる俺。


どうか、俺のこの「好き」という気持ちが通じますように。


しかし……。


「わたし、付き合っている人がいるの。その人以外のことは考えることができないの」


俺にとっては、とても意外な反応だった。


好意を持っていたように思えたのは、単なる俺の錯覚だったということなのか……。


「彼氏がいるってことなんだ……」


「そうよ。ついこの間、付き合うことになったの」


今まで持っていた情報はいったいなんだったんだろう、彼氏持ちだなんて聞いてない。


この一週間ほどで、大きく形勢は変わってしまったということだろう。


三月の初めぐらいに告白していれば、俺にもまだチャンスがあったかもしれない。いや、なかったかもしれないが、今よりはチャンスが少しはあっただろう。


一月頃から告白を考えていたので、今思えば、その時にしておけばよかった。


「だから、あなたの言うことは聞くことはできない」


「そ、そんなあ」


絶句する中、


「ごめんなさい」


と言って、足早に去っていく康菜さん。取りつく島がない、とはこのことだろう。


どんよりとした雲の中から、冷たい雨が降ってきた。


「雨まで俺に追い打ちをかけるのか……」


俺はただ立ち尽くすのみ。


春休みの間は、心が沈んだままだった。


友人の井東唯七郎いとうゆうしちろうが、遊びに誘ってくれたりしたのだが、結局のところ心が明るくなることはなかった。


俺はゲームが好きなのだが、ゲームをしていても気がまぎれることはなかった。


心の打撃は大きい。


入学式の日。


桜がせっかく咲いていてきれいなのに、意気揚々とはいえない状態。


それでも新しい出会いがあるかもしれない、と思って学校へ行ったのだが……。


そんなのあるわけはなかった。


ドラマみたいな展開はそうそうあるわけじゃないだろう。といいつつも、ついつい期待してしまった。恥ずかしい。


また気分が沈んできた俺は、遊びに行こうという唯七郎の誘いを断って、家路についた。


唯七郎は、俺を励まそうとしていたのだろう。申し訳ないとは思うが、気分がのらないのでしょうがない。


入学式から一週間ほどが経った。


今日は日曜日。ずっとベッドに横たわったまま。気力がでない。


俺は康菜さんに告白してよかったのだろうか。告白しなきゃ、ここまで傷つくことはなかったのに。


そういう思いで心はぐちゃぐちゃのままだ。


もう夕方。今日は朝も昼も食べていない。


彼女のことだから、高校生になったら、その彼氏と両想いになって、ラブラブな高校生活をおくるんだろうな。ああ、うらやましい。


彼女のことを考えれば考えるほど無念さは大きくなる。


この家には、俺一人しかいない。


父は、去年の九月から国内の遠い場所に赴任している。母は、父のところへときどき行っていたが、この春休みからは、入学式前後以外、ずっと父のところにいる。


父は、母がいないとなにもできないようなのだ。


仲のいい夫婦でいいとは思うのだが、俺の方も家事は大変だ。


家事は、全部一人でやらなければならない。炊事に掃除に洗濯に、やることは多い。


いつもだったらそこまで苦ではないが、この春休み以降はつらくてしょうがなかった。


俺の好きな恋愛ゲームだと、かわいらしい幼馴染がいて、その子が主人公の世話をしてくれる。選択肢を間違えなければ、その子とのラブラブな人生をおくることができる。


でも現実の俺は、この家で一人ぼっち。


俺にもそういう幼馴染がいたら、と思うことは多い。


あこがれてしまう。


幼馴染の女の子自体がいないわけではなかった。


幼稚園から小学校五年生まで一緒にいた水島紗百合みずしまさゆりちゃんだ。


彼女は、髪の毛を短くしていて、傍から見ていると男の子みたいだった。


いや、外見だけではない。


元気で活発で、俺よりも、よっぽど男の子らしい。


そして、既に小学校一年生の頃から、凛々しさと頼もしさというものが彼女にはあった。


俺は幼いながらも、それを感じていた。


活発な姉とおとなしめな弟というよりは、活発な兄とおとなしめの弟という表現がぴったりではないかと思う。


でも、別にそれが嫌いだったというわけではない。


異性として意識をすることはなかったので。むしろ気兼ねすることなく遊ぶことができた。


俺の方でも、彼女にとって頼もしい人になれるように努力をした。


彼女と競争する意識もあった。しかし、それよりも、まだ恋という意識はなかったけれど、彼女に好かれたいという気持ちはあったからなのだろう。


しかし、それも小学校三年生の頃までだった。


小学校四年生になると、次第に疎遠になっていく。


俺が異性に対して意識をし始めたことが、大きく影響していると思う。


俺は髪の毛が長く、スカートをいつもはいている子が好みになっていった。


ところが、彼女は、小学校四年生になっても五年生になっても、髪は短く、いつもズボンをはいていた。


もちろん、それは個人の自由だけれど、俺の好みとは違っている。


今思えば、なにをやっていたんだろう、と思う。外見がどうだろうと、一番好きなのは彼女だったはずなのだが、当時の俺は外面に心を奪われ、彼女を遠ざけるようになってしまっていた。


彼女と疎遠になった理由は、それだけではない。


彼女は、成長するとともに、凛々しさと頼もしさが増していった。


いわゆる男装の麗人というタイプで、女の子の間での人気は高くなっていった。


女の子から結構な数のラブレターをもらったりしたという話も聞いている。


男の子の人気の方も、俺からすると意外に高く、クラスだけでなく同学年の人気者になっていったことが、俺が彼女を遠ざけるようになった理由の一つだ。


そうして、いつの間にか、話すことも少なくなった小学校五年生の頃。


俺は彼女に呼び出された。


「久しぶりだね」


「そうね」


なんだか様子が違う。いつもの元気で凛々しい紗百合ちゃんじゃない。


「海忠ちゃん」


いつになく悲しそうな表情。


「ど、どうしたの?」


「わたしね。引っ越すことになったの」


「それって、転校するってこと?」


「そうよ」


最近話す機会が減ったとはいえ、衝撃は大きい。


「それは残念だよな」


「本当? そう思ってる?」


「もちろんだよ」


「そんなことはないでしょ」


「なんで?」


「だって、海忠ちゃん、飯田池いいだいけさんのこと好きみたいだし」


飯田池さんというのは、髪の長い子。タイプ的には俺の好み。しかし……。


「そ、そんなことはないよ。別になんとも思っていない」


「だって、この間、昼休みの時、飯田池さんのことずっと眺めていたし」


そう言われてみると、好みのタイプなので、いいなあ、と最近彼女のことを眺めることが多くなってたっけ。


「わたしのこと嫌いなんでしょ。こういう髪が短くて、ズボンをいつもはいているような子だから」


「ど、どうしてそういう風になる。き、嫌いだなんて」


「だって、わたしと全然話してくれないじゃない」


「それは、たまたまじゃないのかなあ」


「そんなことない。わたしのこと、嫌いになったのよね。あんなに昔は一緒に遊んでたのに。遊べないどころか。話もロクにできなくなって、わたしがどれだけ寂しかったと思ってるの」


涙声? 俺の前ではいつも元気だった紗百合ちゃんが……。


「ごめん。別に嫌いとかそういうわけじゃないんだけど」


俺はどう対応していいかわからない。


「もういいわ。わたしがいなくなったら、わたしのことなんか忘れてしまうんでしょ。わたしも海忠くんのことが嫌いになったわ」


「嫌いになったって……」


「そうよ。わたしは、海忠くんのこと好きだったの。好きだったのよ」


その言葉を聞いて、俺はとても驚いた。


俺のことを好きって……。


しかし、次の瞬間。


「でも今は嫌い。嫌いよ。さよなら!」


そう言って彼女は、涙を流しながら、走り去っていく。


そんな、俺のことを嫌いにならないで……。


彼女にそう言われて、俺は、初めて彼女のことが、恋という意味で好きだったんだと思った。


俺も彼女が好きだって言いたい。でも嫌われちゃったんだ。


俺はなにも言えずに、ただその場に立ち尽くすだけだった……。


嫌い、と言われたのは、俺にとって大ショックだった。


俺に好意を持っていたと思っていた相手に言われたのだから、その打撃は大きい。


普段は、穏やかな方で、怒るということは、今までほとんどなかったのだが、さすがに怒りが湧いてきた。


なんで、俺が嫌われなくちゃならないんだ。好みの子を眺めるくらいいいじゃないか、と思った。


しかし、彼女が去って少し経つと、今度は自分の情けなさで心が沈むようになった。


俺は彼女に何と言われようと、結局のところ彼女のことが好きだったんだ。


でも何も言えなかった。俺の方から「好き」と言っていれば、こんなに苦しむようなことにはなってなかったんじゃないか、と思う。


連絡先の交換ができていれば、後からそう言うこともできたかもしれない。


だが、それさえもできなかった。情けない。


もう彼女は俺の届かないところに行ってしまった……。


その後、俺は、彼女のことは、なるべく思い出さないようにしようとした。


思い出す度につらくなってくるからだ。


しかし、それでも時々思い出しては、心がキリキリと痛んでしまう。


できれば、もう忘れたい。


今回康菜さんに告白したのは、彼女のことを忘れようという意味もあった。


康菜さんと付き合うことが出来れば、この心の痛みも癒されるだろうと思ったからだ。


でもその告白も失敗した。


康菜さんは俺の好みだ。それは間違いない。


しかし、俺が一番好きな子は紗百合ちゃんではないのか。


それなのに、なぜ康菜さんに告白したのか。


紗百合ちゃんのことを想い続けるべきではなかったのか。


心の痛みが、康菜さんへの告白以前よりも増した気さえする。


ベッドの中で、改めて紗百合ちゃんのことを想う。


彼女はあの時、俺のことを嫌いだと言った。


でも俺のことを本当に嫌いだったのだろうか。


嫌いだと言う直前に、彼女は俺のことを「好き」だと言っていた。


最後に言った「嫌い」という言葉が長年俺の心を苦しめてきた為、その言葉は単なる飾りではないか、と思ってきたのだ。


もしかすると、彼女が本当に言いたかったのは「好き」ということではなかったのか?


「嫌い」というのはその場の雰囲気で出ただけだったのでは?


改めて彼女の言葉を思い出すと、心がぐちゃぐちゃになる。


俺は長年、彼女の想いがわかっていなかったということなのかもしれない。


だとすれば、彼女と会い、今度こそ相思相愛になりたい。


でも彼女の連絡先はわからない。彼女の引っ越しの時、連絡先の交換が出来なかったからだ。


会いたい。会いたい。でもこのままじゃ会うことはできない……。


こんな状態で、高校生活をおくっていくことができるのだろうか。


でもなんとか希望を持ちたい。俺にとって、明日以降がいい人生になることをお願いしたい……。




四月中旬。


家の近くにある公園の入り口。学校への帰り道。俺は今ここを通っている。


この公園で紗百合ちゃんとよく遊んだなあ、と思う。当時は、無邪気に遊んでいたものだ。


まだ恋というものは知らなかったが、当時から彼女に好意は持っていた。そうでなければ、毎日遊ぶことはなかったと思う。


あの頃の状態が続いていればよかったのかなあ、とも思う。


楽しい時代だった。


好きとか嫌いとかじゃなくて、お互いに好意が続く世界。


それは、友情というものなのだろう。でも小学校四年生からのことを思うと、彼女の転校ということがなくても、いずれは好きか嫌いか、のどちらかになっていたのだろうと思う。


どちらにしても彼女とは付き合えなったのかなあ……。


だんだん寂しい気持ちになりながら歩いていた時。


「海忠くん」


かわいい声が聞こえる。


俺の名を呼ぶような女の子がこの世に存在するのか、と思ったが。


「海忠くんですよね」


「はい、そうですが」


「ああ、やっと会えた」


後ろを振り返ると、そこには俺好みのかわいい子がいた。


同じ学校の制服。ストレートヘア、背は高からず低からず。きめの細かく、柔らかそうな肌。凛々しさもあるが、優しそうな微笑み。


でも誰だっけ?


「あの、どちらさまでしたっけ?」


今まで会ったことはない気がする。


「わたしのこと忘れちゃったの?」


「忘れるもなにも、初めての出会いじゃないのかなあ」


「そんなあ。昔はあんなに仲良く遊んでいたのに」


最初は笑みを浮かべていた彼女だったが、次第に悲しい顔になってくる。


「うーん、誰だったのかなあ。会ったことがない気がするんだけど」


「まだそんなこと言ってる。わたしはあなたのことを忘れたことはないのに」


「そう言われてもね」


「会えばすぐに思い出してもらえると思ったのに」


「ごめん。こんなかわいい子が今までの知り合いにいたかなあ、と思って」


「まあ、かわいいだなんて」


彼女の頬がちょっとだけゆるんだ気がした。


「小学校五年生の時のこと覚えていない?」


「五年生の時?」


「そう」


「その時、転校した少女がいたでしょ」


「転校した少女って、水島さんのことかな?」


「そうよ。その子のこと」


「水島さんは、俺の幼馴染だよ。彼女と知り合いなの?」


うーん。どうして彼女は紗百合ちゃんのことを知っているのだろう。


こんな子、五年生の時、同じクラスにいたかなあ、と思った。


飯田池さんという好みの子はいたけど、こういう顔はしていなかったと思う。


他の子のことも思い出してみるけど、違うよなあ。


とすると誰だろう。紗百合ちゃんだろうか? でも昔の彼女と今ここにいる女性は、違い過ぎる気がする。


「まだ思い出せない? 海忠くんと別れるときに、涙を流した少女のことよ。海忠くんのことが大好きなのに、『嫌い』と言ってしまった少女は、転校した後も、そのことを海忠くんに謝ろうと思っていた。初恋の幼馴染のことが忘れられない少女は、その人の好みの女の子になろうと努力してきた。そして、今ここにその少女がいるのよ」


涙声になり始めた彼女の言葉が俺の心を打つ。


「そ、それって、紗百合ちゃん、紗百合ちゃんだよね」


「そうよ。やっと思い出してくれたわね。うれしいわ」


紗百合ちゃんは、俺に抱きついてきた。


「ごめんなさい。ごめんなさい」


彼女は、俺の胸で泣き出した。


温かい体温。いい匂い。


「あの時、嫌いだなんて言って、本当にごめんなさい」


この瞬間、今まで俺の心の奥底に残っていた彼女への怒りは、無くなっていった。


「ごめんなさい」


涙を流し、一生懸命に謝る彼女。


「もういいんだ。今は紗百合ちゃんに会えてとてもうれしい」


「本当?」


「本当だ。海忠ちゃんとまた会うことができて本当によかった」


今日はまだ離れたくない!


しばらく抱き合った後、俺は彼女に言った。


「紗百合ちゃん、よかったら俺の家にこない。今、俺、一人暮らしなんだ」


断られるかもしれない。でも、いろいろ話がしたい。この長い間の空白を少しずつ埋めていきたい。


「ええ、いいわ。わたしも海忠ちゃんの家に行きたかったの」


「ありがとう」


俺と紗百合ちゃんは、俺の家へと向かった。


家に入ると、まず彼女にソファに座ってもらう。


紅茶を用意し、テーブルに置く。


言うもでもなく二人きり。勢いでやってきたが、いざ二人となると、胸がドキドキしてたまらない。


彼女も想いは同じなのだろう。顔を赤くしている。


俺は勇気を出して、彼女と肩を寄せ合うようにして、ソファに座った。


嫌がるかな、と思ったが、甘えるように俺の方に寄りかかってくる。


「会えて本当によかった」


「俺もだよ。会えるとは思ってなかったからね。それに、こんなにきれいになっているとは思わなかった」


「あ、ありがとう」


恥ずかしながら言う彼女。


「でも思い出すのに時間がかかったわね」


ちょっと頬をふくらませる紗百合ちゃん。そういうところもかわいい。


「だって、こんなに俺好みの子になっていると思わなかったんだもの」


「そう言ってくれると、イメージチェンジしてよかったと思うわ」


それにしても、幼い頃からの姿からは想像もできないくらいの変化だ。人間ってここまで変われるもんなんだね。


「それにしても、よくここに戻ってきてくれたね」


「お父さんの転勤が終わって、この一月にここに戻ってきたの。ただ、昔のマンションとは別の場所になっちゃたから、海忠ちゃんとは別の中学校に通わざるをえなかったの」


「そうなんだ。別のマンションだったんだ」


「わたしね、海忠ちゃんに、改めて謝らなきゃいけない」


「紗百合ちゃん……」


「転校する前、海忠ちゃんに、嫌い、って言っちゃった。本当は好きだったのに、あんなこと言っちゃって。あれから、わたしはずっと悩んでたの。なんであんなこと言っちゃたのかって」


俺はじっと彼女の話を聞いている。


「謝ろうと思ったんだけど、連絡先の交換ができなかったから、なにもできなかった。せめてあの時、連絡先を教えてもらえれば……」


なぜ連絡先を教えてあげながったんだろう、と思うと心が痛む。


彼女はまた涙を流し始める。


「でもわたし思ったの。今は会えない。会えないけど、きっといつかは会える。その時までに、海忠ちゃん好みの子になるんだって。そうして努力を続けていたら、お父さんの転勤が決まって、またこの街に戻ることになったの。その時はとてもうれしかったわ。それで、この街に戻ってきたのはいいんだけど、マンションは違っちゃって、同じ学校には通えない。まずここでかなり落ち込んだの。それに、そもそも海忠ちゃんは怒ったままじゃないかと思って……。会いたかったけど、我慢してたの」


「ごめん。もう怒ってなんかいない。そりゃ、嫌いって言われた時はショックだったし、怒ったけど。でも紗百合ちゃんと話さなくなった俺もいけないんだ。俺もそれで紗百合ちゃんを傷つけていたんだ。俺からも謝る。ごめんなさい」


「わたしの方こそごめんなさい」


「でも今日ここで会えたのは奇跡だね」


「そうね。もしかしたらこの高校だったら、海忠ちゃんがいるんじゃないか、と思って、選んだんだ。そうしたら、入学式の時、学校で海忠ちゃんの姿を見かけて」


「俺だってすぐにわかったの?」


「うん。成長はしているけど、雰囲気は昔のままだったからすぐにわかったわ」


「す、すごいね」


「もうすぐにでも声をかけたかったんだけど、やっぱりかけづらくて。学校では結局声はかけられなかったわ。わたしも勇気がないということよね。そうしている内に時間がどんどん経っちゃうし……。でも、これじゃいけないと思ったの。それで、海忠ちゃんと昔よく遊んだ公園の前で待って、今度こそ謝りたいと思ったの」


「もういいよ。紗百合ちゃんが俺のことを好きでいてくれた。それだけでいいんだ」


「海忠ちゃん……。ありがとう」


彼女はようやく微笑み始めた。やっぱり彼女には笑顔がよく似合う。


「海忠ちゃん、わたしのこと、好き?」


真剣な表情。その想いに俺は応えなければならない。


「もちろんだ。紗百合ちゃんが好きだ」


その言葉を聞いた瞬間、桜満開のような笑顔になる紗百合ちゃん。


「わたしも、いつも温かくて優しくて、いざとなる時に頼りになる海忠ちゃんが好きよ」


今まで聞いたことがないような甘い声。声だけでも心がとろけちゃう。


「俺も紗百合ちゃんのことが大好き」


「海忠ちゃん、好き。だーい好き」


俺と紗百合ちゃんは、抱きしめ合い、キスをしていく。


幸せの時間。うれしくて、うれしくてたまらない。


これからずっと一緒だ。もう離さない。


俺はそう力強く思うのだった。


それからの俺たちは、というと。


住んでいるところが違い、通り道ではない為、朝は彼女と一緒に登校することはできない。


学校ではクラスが違う。ということは、教室では一緒になれない。


恋愛ゲームだと、幼馴染が朝、主人公を起こしにきて、クラスも一緒で過ごすことが多いのに……、と思うとちょっと残念だ。


その分、昼休みは屋上で彼女と楽しい時間を過ごすことを心がけている。


紗百合ちゃんのお手製のお弁当が何といってもおいしい。


それまでの昼食は、パンと牛乳で過ごしていたので、とてもありがたい。


いや、ただ単においしいというだけではない。


彼女とおしゃべりしながら、そして、彼女の笑顔を見ながら食べるということが、どんなに素敵なことか。


今まで想像もしなかったし、できなかったことだ。


そして、彼女は、夕方になると必ず俺の家に来てくれるようになった。


自分の家に一回帰り、私服に着替えてから来てくれる。


俺の家に来た後、一緒に食材の買い物に行く。その後、晩ご飯も作ってくれる。


最初は、俺も遠慮して、


「紗百合ちゃん、負担になるようだったら、無理しなくていいよ」


と言ったのだが、彼女は、


「わたし、海忠ちゃんのことが好きで、その好きな人の為になるから、昼のお弁当や晩ご飯を作ってるの。毎日、楽しくて、うれしくてたまらないのよ」


と笑顔で言ってくれた。


そこまで想ってくれているのか、と俺は彼女のことがますます好きになる。


「ありがとう。でも無理だけはしないでね。紗百合ちゃんの健康が一番だよ」


俺は精一杯の感謝を込めて言った。


すると、


「海忠くん、優しい。そういうところが大好きよ」


と彼女は言ってくれる。


俺は褒められて、なんだか恥ずかしくなる。


「い、いや、紗百合ちゃんこそ優しいよ。大好き」


「海忠ちゃんたら……」


彼女は赤くなりながら、料理を続けていく。


それからずっと、彼女は俺の為に、昼のお弁当と晩御飯を作ってくれている。


制服姿の彼女もいいが、私服姿の彼女もいい。とても素敵な女の子だ。


そして、どちらもかわいいと思う。


白い服が好きなそうで、特に春夏は、いつも白中心の服を着ているそうだ。


俺はその姿を見るだけでも心がとろけてしまう。なんと魅力的なことだろう。


また、エプロンを着て料理をしてくれるのだが、エプロン姿というものが、これほど素晴らしいものだとは思わなかった。


いつもその姿に見とれてしまう。


それにしても彼女は料理がうまい。


小学校五年生の頃までは、料理というものをしたことはなかったはずなのに、と思う、それが今では素晴らしい腕前だ。


ここまで俺の為に努力してくれたんだ。これからは、俺が彼女を幸せにしていかなくっちゃ。


もう少しするとゴ-ルデンウィークだ。新緑の、爽やかな風の吹く季節。まだデートをしたことはないので、デートをしよう。


テーマパーク、映画、レストラン……。行きたいところはたくさんある。


そして、ロマンチックな場所で、キスを彼女としていくのが俺の夢だ。


夏は、やっぱり海だなあ。彼女と一緒に海水浴にいって、海で遊ぶ。海岸で寝転んでのんびりしたいとも思う。


彼女の水着姿、さぞかし美しいことだろう。


そのことを思うだけで、もうお腹はいっぱいだ。


そして、いずれは泊まりがけの旅行をしたいと思う。そして、素敵な思い出をいっぱい作っていく。


彼女と行動できるようになる、ということが、俺の気力をどんどん上げている気がする。


うれしいことだ。


今日も彼女は俺の家に来ている。


「こんなおいしい料理を作ってもらって、俺は幸せものだよ」


「そう言ってもらえるとうれしいわ」


満面の笑み。俺はこの笑顔の為ならば、すべてをささげてもいいと思う。


食事が終わり、後片付けが終わると、くつろぎの時間。


彼女はいつも俺に甘えてくる。


小学校時代の凛々しいイメージがあるせいか、甘えるとか、そういうことはしない人だと思っていたのだが……。


「好き、って言って」


「好きだよ。紗百合ちゃん」


「もう一度、好きって言って」


「紗百合ちゃん、好きだよ」


「わたしも好き」


「もう一度言って。何度も何度でもいって」


「好き、好き、大好き」


「わたしも、だーいすき」


抱きしめ合い、そして、唇を重ね合う。


「結婚しようね」


「もちろん。今でも幸せだけど、結婚してもっと幸せになろう」


「ありがとう。うれしいわ」


この幸せな時間を、これからも俺たちは続けていきたいと思う。


読んでいただきまして、ありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ