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盗賊と突入

「誰かに誘拐されたってことか。確かに珍しい服装をしていたし、隙が多そうだもんなオトヤ。だが、ここで見捨てるわけにもいかねぇわな。ありがとう、坊や」


 ヴァンは男の子に感謝を伝えると、男の子に教えられた路地に飛び込んだ。

 もちろんそこに音也の姿があるわけはない。

 周囲を見渡し何か証拠を見つけようとしたが、何も見つからなかった。


「何も残ってねぇか。珍しい服装のオトヤを誘拐したってことは金目当ての可能性が高い、か」


 冷静を保ち状況を整理するヴァン。金目当てに過激な行動を起こすとすれば盗賊の類なのだが、盗賊は街の結界に入り込むことができない。

 しかし、例外があることをヴァンは知っていた。


「この街で生まれた者が盗賊に協力していれば、街の中で誘拐することができる。だが、その身柄を街の中に隠すのはリスクが高ぇ。そうだとすれば、盗賊のアジトに連れて帰るはず・・・・・・」


 ヴァンはそこまで推理してから動き出す。


「盗賊のアジト・・・・・・そういう噂は酒場に集まるはずだ」


 そう呟きながら門番からもらった街の地図を開き、酒場の場所を確認した。

 大通りに面して建ち並ぶ店の中に酒場はあり、ヴァンがいた場所からそう離れていない。

 急いで酒場に向かったヴァンは酒場のマスターらしき男に話しかけた。


「マスター、ちょっと聞きたいんだが」

「ちょっと、お兄さん、酒場で話を聞きたいんなら酒を注文するのがルールだぜ」


 マスターはグラスを磨きながらヴァンにそう言い返す。

 しかし今のヴァンにとってお酒を飲んでいる状況ではないし、時間も惜しい。


「分かってるんだが、時間がない。これで、話を聞かせてくれないか」


 ヴァンはそう言って自分の懐からいくつかの銀貨を取り出した。

 その銀貨を受け取ったマスターは満更でもない顔をして、ポケットに仕舞い込みグラスをカウンターに置く。


「・・・・・・で、何が聞きたいって」

「この辺りにいる盗賊のアジトの場所を知らないか」


 ヴァンがそう聞くと、マスターはぎょっとした顔で声の音量を落とした。


「お兄さん、滅多なこと言うんじゃない。盗賊の仲間がどこかにいるかもしれないんだ」


 マスターからそう言われたヴァンも声の音量を落とし、身を乗り出す。


「頼む。知り合いが拐われたかもしれないんだ」


 そう話すヴァンの真剣な眼差しにマスターはしばし沈黙し、ゆっくりと口を開いた。


「・・・・・・ここで聞いたって言うなよ?モルト平原に出て南に進むと誰も寄り付かない洞窟がある。魔物が巣にしていると言われているんだが、実はそこが盗賊のアジトだって噂がある」


 そうマスターが伝えると、ヴァンはありがとう、と静かに言い残し酒場を走って出る。


「くそっ、やっぱり街の外か。しかし、そう離れちゃいないはずだ。アジトまでたどり着かれてしまってたら相当厄介だぜ、こりゃ」


 走りながらヴァンはそう呟いた。

 

 汗を垂らしながら必死に地面を蹴り、南へと進むヴァン。

 大通りを辿り、門を通り抜け、モルト平原を駆け抜ける。


「生きててくれよ、オトヤ」


 祈りにも似た言葉を吐息とともに吐き出しながらヴァンは走り抜け、教えられた洞窟の前までたどり着いた。

 洞窟というよりは地下へと繋がる穴のようにも見える。


「ここまでの道のりで盗賊に遭遇しなかった、ということは推理が外れたか、中に入ってしまったか・・・・・・」


 荒れる息を整えながらヴァンは状況を整理した。

 ここから先は何が起きるか、何人の盗賊がいるのか、そこに音也がいるのか、何もわからない。

 つまり命懸けということだ。


「でも、見捨てらんないよなぁ」


 自分のお人好しさに呆れながらヴァンはそう呟く。

 今日出会ったばかりの男を救うために盗賊と戦おうというのだからお人好しなんてものではない。

 だが、ここで戦えない男が傭兵になれるのか、と自問自答しヴァンは強く剣を握った。


「飲みに行く時はオトヤの奢りだからな」


 そう言いながらヴァンは洞窟へと足を踏み入れる。

 薄暗い洞窟を警戒しながら進んでいくと、奥に光が見えた。

 松明に火が着いているようで、影が揺れている。


「火があるってことは魔物じゃない、盗賊のアジトって話は本当のようだな」


 小さな声で呟きヴァンは奥を慎重に覗き込む。

 そこには意識を失い倒れている音也とそれを取り囲む盗賊らしき男たちが十人程立っていた。

 音也の姿を確認し声を出しそうになるヴァンだったが、ぐっと堪え耳を済ませると盗賊の会話が聞こえてくる。


「これが他国の貴族だってか?確かに見たことない服装をしているが」

「金目のものは持ってなかったのか」

「ああ、だが服装があまりにも清潔だったものでな。貴族じゃねぇかと思ったんだが」

「貴族だとしてもどこから金を引っ張るってんだよ」

「そうだぜ。どこの人間か分からなきゃ、金にならねぇぜ」

「なんだよ、うるせえな。いらないなら奴隷商人にでも売っちまえばいいんだ」


 そんな盗賊たちの会話を聞きヴァンは勢いよく飛び出した。


「返してもらうぜ!オトヤを」


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