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異世界と出会い

 声が聞こえる。

 どこか遠いところから声をかけられていた。

 その声に向かって進むように音也は意識をたぐり寄せる。声が近くなるにつれ瞼越しに光を感じた。


「大丈夫か、おい」


 意識がはっきりすると遠かった声がしっかりと音也の耳に飛び込んだ。

 声に反応した音也が目を開くと目の前には、単発の青年が心配そうに音也の顔を覗き込んでいる。


「良かった、生きていたか」


 青年はそう言って安堵の表情を浮かべた。

 一瞬何がどうなってこうなったのかを失念していた音也は周囲を見渡す。

 そこは広い広い草原の真ん中だった。

 日を遮るものはなく光は降り注ぎ、爽やかな風が自由に駆け抜けていく。

 周囲を見渡している音也に青年は更に語りかけた。


「こんなところで倒れてどうしたんだ。魔物にでもやられたか?それとも盗賊か?見たところ怪我はないようだが」


 青年にそう言われ、ようやく音也はこれまでの経緯を冷静に思い出す。

 父の実家の蔵を片付けようしたところ、元異世界転移者の父である琴也と間違われこちらの世界に転移してきたという経緯。

 だがそれをそのまま説明したところで伝わるわけもない。そう思った音也はとっさに納得させられる理由を考えたが思い浮かばなかった。


「えっと、魔物でも盗賊でもなくて、気づいたらここにいたというか。自分でもよくわからないと言うか」


 歯切れの悪い音也の言葉に青年は首を傾げるが、なるほどといった顔をして頷く。


「訳ありってことかい?それなら深くは聞かないが。人に言えないことってのは誰でも抱えてるもんさ。ただこの辺りはそこまで治安のいい場所じゃないから移動したほうがいいぜ」


 うまく説明できていない音也に対し親切な言葉をかけていることを考えるとこの青年は悪い人間ではないらしい。

 青年の人柄の良さに安心した音也は思い出したかのように自己紹介をする。


「ありがとうございます。あ、僕は大泉 音也と申します。本当に気づいたらここにいて・・・・・・ここはどこですか」


 音也がそう尋ねると青年は爽やかな笑顔を浮かべた。


「俺はヴァン・フォックスだ。オーイズミって珍しい名前だな。ここはモルト平原のど真ん中さ。ほらあっちにハオ帝国が見えるだろ」


 そう言ってヴァンと名乗る青年は音也の背後を指差す。

 差された指の先をよく見ると、遥か遠くに小さく何かの建造物が確認できた。


「あれがハオ帝国・・・・・・」


 そう呟きながら音也は父親のノートを思い出し、手元のノートを開く。

 〈ハオ帝国での記録〉と書かれている。

 つまり遠くに小さく見えるあの国は父親が訪れた場所だということだ。

 音也がノートの文字を読んでいるとヴァンは更に言葉を続ける。


「気づいたらここにいたって、そんな軽装でか?この辺の魔物はそこそこ強いんだがな。傭兵である俺でもこんなところで寝たりはしないさ」


 そう言われヴァンの服装を確認すると、腰には剣が装備され腕や胸、足には薄い鉄板のような者が巻かれていた。軽さと防御力を兼ね備えた装備、という感じである。

 ヴァンと比べ音也は安く売っていたパーカーにジーンズ。持っているものといえばノート一冊。

 おおよそ、魔物や盗賊が出る場所に居てはいけない装備である。


「これは軽装すぎるなぁ。せめてかわのたてくらい持たせてくれよ、女神様」


 そう苦笑気味に呟く音也。

 そんな音也を心配に思ったのかヴァンはこう提案した。


「ここで見捨てて言っても明日の目覚めが悪そうだからな、一緒に行くかい?ちょうど俺もハオ帝国に行くつもりだったんだ。ハオ帝国に行くなら、だけどさ」


 ヴァンの親切な提案に音也は即座に頷く。


「え、いいんですか?是非お願いします」


 音也がそう言うとヴァンは音也に右手を差し出した。


「じゃあ、ハオ帝国までだけどよろしくなオーイズミ」

「あ、オーイズミは苗字・・・・・・ファミリーネームなんです。名前は音也で」

「へぇ、そうなのか。じゃあ、よろしくなオトヤ」


 そう言って笑顔を浮かべるヴァンの手を握りながら音也は立ち上がる。

 立ち上がると世界はより広く感じ、改めてここが異世界であるということを音也に感じさせた。


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