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童話 

五月萬月 金平糖(さつきまんげつ こんぺいとう)

作者: くろたえ
掲載日:2021/06/14

黒森 冬森さま企画「劇伴企画」参加。


ドビュッシー「月光」から

チャイコフスキー「くるみ割り人形」の「金平糖の精の踊り」と共に。



 気付いたら夢を見ていた。

夢なのに、今夢を見ているって、しっかり分かっている不思議。


 衣装ケースの奥から何か声がする。

女の人の泣き声かな。

ちょこちょこと、衣装ケースの奥に行くべく、隙間を通る。

えっちらおっちら。

あれ?

当たり前に受け入れていたけれど、私、凄ーく小さくなっている。

10センチ?5センチくらいかもしれない。


 それでも、私は奥に進む。

泣く人を探して。


 そして、見つけた。

赤い髪の褐色の肌のきれいな女性。


 座り込んで泣いている。


「どうされました?」


 私は声を掛けた。

顔を上げたその人は、銀色の瞳にいっぱいの涙をためては流れるままにしていた。


「私、ご主人様の鞄から落ちて、ここで寝ていたのです。

毎年、いえ、毎月満月の夜は窓辺で水晶の寝床で月光浴をさせてもらっていました。

しかし、ここ何ヶ月か月の光を浴びれないばかりか、楽しみにしていた五月萬月の光を浴びれなかったのです。

もし、五月萬月の光を浴びれたら、私はきっと強い守護者になることが出来たでしょう」


「5月の満月って、そんなに大事なの?」


「あら。人の世界でも「ウエサク」と呼んで、5月の月の光を崇めるじゃないですか。

月が大きな力を持って、地上のモノたちに力を分けてくれる日です」


「そうだったの‽知らなかったわ」


「私は、70年前に産まれました。そして、私の抱く石は深い海の底から月を求めて山の上に上がりました。

なので、私の心が月を求めてやまないのです。

なのに、もう何ヶ月も忘れ去られて、とうとう特別な5月の満月さえも見送ってしまったのが悲しいのです」


「うーん。先月の満月の時に、アクセサリーを水晶の上に置いて窓際に置いておいたから、水晶にその力が入っていないかしら?」


「はい。いつもは私達を浄化してくれていますが、きっと水晶が5月の月の力を吸収して、寝かしてくれたものに与えてくれると思うのです」


「ならば、行こうよ。小さい棚の引き出しがアクセサリー入れで、下には水晶のサザレが敷き詰めてあるのよ」


「私は自分では動けません。ご主人様。私を探し出して、5月の月の光を食べた水晶まで連れて行ってくださいね」


 褐色の肌の赤髪の女性が遠くなる。最後に闇の中に銀色の瞳がとろりと溶けて消えた。


 私は後ろ向きで引きずられて歩く。

押し入れの下の衣装ケースの間をぬって、後ろへ後ろへ。


 衣装ケースをぬけて、もっと後ろへ。

パソコンデスクの横を通る。あれ?私だんだん大きくなっているわ。

本棚の前を通り、あ、もういつもの視界かな?少しだけ小さい?

 最後は、私の足の上に乗っかり、足が馴染むと、そのまま枕に頭を乗せた。

というか、寝ている私に同化した。


 と、いう夢を見た。

私は思った。朝の陽の光の中で。

暫く寝床で唸っていたが、気になるから仕方がない。

起きてパジャマのままで、衣装ケースを引っ張り出してみた。


 ああそうだ。衣装ケースの間を通ったから、端のケースは除外ね。

そうして、3つ目の衣装ケースの奥に、最近は忘れていたけれど、20年位前に買ったインディアンジュエリーの珊瑚のネックレスがあった。


 なるほど。海の底から山のまで月の光を浴びたくて長い時間をかけて登ったのね。

海の珊瑚の化石で山から採れたものだ。

インディアンは海の珊瑚ではなく、山の化石珊瑚をジュエリーに使う。


 ホコリにまみれたネックレスを拾った。


「ごめんなさいね。なくしたと思っていたの」


 友人とスパに行きネックレスを外したら、家に着いて思い出した時にはなくなっていた。

お風呂屋さんに電話をしても、落とし物では出てこなかった。


「良かった。ここに居たの。ごめんなさい。きっと、鞄を衣装ケースに置いたときに落ちてしまったのね」


 ネックレスを流水で洗う。

小物入れの引き出しを開けると、底には敷き詰めた水晶のサザレに幾つかの若いころから集めたインディアンジュエリーが入っていた。

ターコイズのバングル。指輪。珊瑚の指輪。インディアンのナバホ族の作品が多い。

そこに、ネックレスを置いて、水晶を被せて埋めてみた。


「これで、5月の満月だったかしら?力が貰えるわよね」


 見ていても反応はない。

もしかしたら、あの女性が現れるかも知れないと思っていたのだが。


「ああ、時間だ!」


 慌てて仕事に行く準備をして、朝ご飯は食べる暇もなくて駅へと走っていった。


 仕事から戻り家でまったりとしていると、今朝がたの夢を考えていた。

 なんとなく、小物入れの引き出しを開けて見ると、記憶の通り水晶の中に珊瑚のペンダントが沈んでいた。

今頃、満月の力をたくさん貰っているのかしら?

と思っても、何かが起こるわけでもなかった。

 

 ネットで「ウエサク」を調べて見ると、お釈迦様の誕生日と悟りを開いた日、亡くなった日がヴァイサークの月で、ヴァイサークがウエサクへと日本では変化したらしいが、それにインディアンのネックレスがなぜ関係あるのか分からない。

 

 それ以上調べることもないので、その日は早めに寝ることにした。


 「お目覚めください。ご主人様」


 なんだか、雅な声を掛けられて、眠くはあったが目を開けるしかなかった。


 そこには、私と同じ身長くらいの奇麗な……昨日の女性が居た。

背は高く、私も縮んではいない。


「私を月の光をたっぷり浴びた水晶の寝床で休ませていただいて、本当に有難うございます。おかげさまで身体に力が漲り、またご主人様を護るお役目を全うできます」


「え?私を護るために、月の光を浴びたかったの?」


「そうでございます。特に五月満月は命の力を増幅してくれます。

人の偉い方が産まれて、人以上の思いを持つことが出来、また亡くなられたのも、5月の月の力によるものです。

私を作ったインディアンのナバホの種族も5月の満月を大事にします」


「死んだのも命の力?」


「はい。命を燃やして亡くなられて、次の次元へと月の力で送り出されたのです」


「そんなに5月の満月で特別な事は書かれていなかったよ」


「今の時代には多少の命の力よりも、お金や物の方が人を守るのかもしれませんが、私のような主人を守る「御守り」にとっては大事な事なのです。ご主人様が、私共ジュエリーと呼ぶ物を水晶の寝床にて月光浴をさせて下さるのも、私たちの力を引き出すためでございましょう?」


「うーん。力を引き出すかぁ。ちょっと違うかな。

何年か前にさ、ピアスから、ラピスラズリのキーリング、シルバーのストラップにコインのネックレスまで壊れたり失くしたりしてさ、友達に相談したんだ。それは私の厄を身に受けて壊れたり、私の元から去って行ったんだって。

それが、凄く嫌だったんだよね。

だって、私が好きで買ったものだよ。

それが、辛いを飲み込んで壊れてしまうなんて……

何かの災厄を、その身に背負っちゃうなんて。そんなのは嫌だよ。

だから、アクセサリーとか腕時計もね。ずっと身につけておくものは、ここに入れておくの。もう何年も失くしものはなかったから、あなたを見つけられなかった時は結構悔しかった。

でも、もう大丈夫なんだね。良かった」


「そんなに思って下さり、冥利に尽きます。ありがとうございます」


「うん。元気になったなら良かった」


「今私は何千年も前の珊瑚の化石を心とし、70年前にをアクセサリーとして産まれ、20年をあなたの元で生きました。力は十分です。ご主人様にプレゼントがあります」


「ほえ?付喪神になるんじゃないの?」


「なっていますよ?なっているから、夢でご主人様を呼べたんじゃないですか」


「うわー。そうなんだ!びっくりだ。あんど光栄だ!」


「喜んでいただけて何よりです。元来、宝石を心に持つものは、宝石の歴史もありますので、心が宿りやすいのです。そして、力を得れば付喪神になるのではないでしょうか。

それで……贈り物は金平糖です」


「え?」


 意外に思う物だった。

浅草の金平糖とか好きだな。結構、買っていたな。


「はい。ご主人様がお好きなようでしたので。ぜひ、色々な色を楽しんでください」


「はあ」


 そんな朝だった。

 

 また夢を見た。しかも、付喪神様だった。

金平糖?

枕もとを見る。ない。

引き出しのアクセサリー入れを見る。ない。

どんな風に届けるつもりなんだろう?

小瓶に入れて?

瓶は……ない。


 その時、朝陽に照らされて、珊瑚のネックレスの周辺にいろいろな色が輝いた。


「えっ!」


 良く見ると、水晶のサザレの小石一粒一粒が様々な色に輝いている。

金平糖って水晶かい!

でも、色の付いた水晶をどうしたら良いのだろう。


 一粒持ってみる。

何も無し。

おでこに着けて見る。

何も無し。


 う~ん。

一つ、青く輝く石を口の中に入れた。

飲み込みはしない。

 

 すうっ。

潮の香り。

海の底。海底に居るのね。

頭上を泳ぐ奇妙な甲殻類。その後、大きな鮫にオオムガイ。

オオムガイが透明になって消えていった。


口から出した水晶は、透明に戻っていた。


 次はオレンジ色。

何かな。夕日にまつわる物語かな?

口に含む。

乾いた土の匂い。

太鼓の早いリズム。

男性になっている。踊っている。

男性の胸の重厚なネックレスの一つの石だったのだろうか?

男はジュエリーを幾重にもして、鳥の翼を背中から腕に着けて、大きなワシのよう。

男のダンスは太陽の恵み、大地の喜び、雨の優しさを表現している。

汗が飛び、その汗の一粒になって終わった。


そうか、色には物語があるんだ。

引き出しの水晶をよく見ると、珊瑚のネックレスの周辺が透明ではなく色づいている。

それを一つ一つ手の平に拾い集めジャムの瓶に入れた。


「わあっ!」


それは、本当に金平糖のようだった。

赤に緑、黄色、ピンクに白、青色もオレンジもまだある。

キラキラと陽に透かせてると、とても美しい。

ああ、これは夢見る金平糖だ。



私は、寝る少し前に一粒の水晶を口に含むようになった。

毎日、誰かの想いを夢を見せてもらっている。


そして、見終わった水晶を枕元のハンカチに置いて眠るのだ。



インディアンジュエリーは歴史が浅いので1950年代の作品でアンティークと言われている。


日中は主人の身を護り、戻っては水晶のサザレの寝床で休むのだ。


そして、宝石たちは夢を見る。


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― 新着の感想 ―
[一言] 宝石が人の災いを代わりに受けて壊れてしまう。 そんな考えがあるのですね。 でも気に入っていた宝石が、壊れてしまうのは残念。 付喪神様になった宝石と、それを身に付ける主人公の想いが微笑ましいで…
[良い点] 宝石ってこんなに素敵なんですね!曲とマッチしていい感じです。 [一言] 宝石、石を口の中に入れるという発想!そして味と夢と物語。なんて素敵なんでしょう!素敵なお話をありがとうございました!…
[良い点] なんとも彩り鮮やかで美しい、それこそ宝石店で言葉という名の宝石を見てまわるような、素晴らしいお話だなぁと感動しました(^^♪ 特にラストの金平糖の夢のような描写は、非常に幻想的で美しく、映…
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