第六話 すれ違えない親子
ブックマークや感想をありがとうございます。
すれ違えないなら良いことじゃないか、と思いますか?
でも、これはちょいとばかし大変かもしれないです。
それでは、どうぞ!
……現在、私はある場面を観察している。謁見の間での用事を終わらせて、どこへ向かおうかと考えている中、足が向いたのは、イリアスのところだった。
本来ならば、イリアスとなる前のイルト第二王子だった頃の母親と、二人で話せるように気を利かせて退出したはずが、どうにも無意識にイリアスの姿を求めてしまっていたらしい。
「まぁ、遠くからの観察なら許されるよね?」
さすがに、イリアスと同じ空間に行くわけにはいかないため、イリアスに持たせている盗聴器、及び監視カメラを作動させて、三百六十度のどこからでもイリアスを観察できる準備を整える。もちろん、そんなイリアスの姿を別の人間に見せるつもりは微塵もないため、私自身も、簡易的なドームを歩いていた庭に設置して、しっかりと観察させてもらうことにする。
「さて、と。………………うん……中々に、大変な状況かもしれない」
椅子以外は全て、イリアスを写した画面が設置されているドームの中。当然、イリアスの心の声も、イリアスの精神制御が甘ければ聞こえる仕様で、現在、珍しくイリアスの心の声はだだ漏れになっていた。
「…………(え? いや、え? 厳しい母上は、どこに?? えっ? 本当に、本物??)」
「…………(どうしましょう。イルトに情けない姿を……。あぁっ、でも、本当に無事で良かった! 生きてるかどうか分からないと聞いた時は、生きた心地がしなかったけど、無事な姿を見られて、本当にっ、良かった!)」
イリアスのみならず、当然、読心術に対処する術を持たないスーリャ様の心の声までだだ漏れになってはいるのだが……イリアスをスーリャ様も、無言のままだ。
「…………(不味い、本物だ。じゃあ、今までが偽物? いや、そんなわけは……)」
「…………(あ、あ、どうしましょう。今までが今までだったから、どう声をかければ良いのかしら? あ、いえ、イルトにとっては、私は嫌な母親だったのだから、話したくもないのかも……? うぅ、せっかくなら、色々と話をしたいのに……)」
必死に無表情を取り繕うイリアスと、取り繕う余裕もなく百面相をするスーリャ様。
「ここは、助け舟を出すべき? でも、せっかく親子で和解できる機会なわけだし……もうちょっと、見守ってみようか」
イリアスは、スーリャ様の心を読んでいるため、すれ違いはあり得ない。となれば、このまま静観していればなんとかなるはずだと見守ることにする。
「………(母上が、僕に、話をしたい……? っ、不味い、どんな話をすれば良い?? 母上と普通の会話? 普通の会話ってなんだ!?)」
「………(イルトは、こんな母親の前に居たくなんてないわよね……? でも、せめて、もう少しだけ……あぁっ、やっぱり、話をしたいっ! でも、何を話せばっ、普通の親子の会話ってどういうもの!?)」
面白いことに、二人して同じ思考に行き当たっている。そして、イリアスは、スーリャ様の思考から普通の親子の会話を導き出そうとするも、その思惑が外れて密かに愕然としている様子が見て取れる。
「…………これ、本当に、見守ってて解決する、のかなぁ?」
だんだんと不安になってきた私だったが、それでも、二時間ほどは観察を続け……そこで、ようやく、進展をみることができた。
心を読んでいるばっかりに、母親の真意が分かって動くに動けないイリアス(イルト)君(笑)
え?
お母様はもちろん、心の声なんて聞こえないまま、一人で奮闘してますよ?
それでは、また!