第二話 側妃様(ミーシャ視点)
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さて、そろそろ再会をば……と思ったけど、実際に会話するのは次回?
それでは、どうぞ!
お姉様が居ない日常。いや、イルト殿下が居ない日常になって、一つ、大きく変わったことはあった。イルト殿下の母親である、スーリャ・ラ・リーリス様が塞ぎがちになってしまったのだ。
昔は、赤いドリルヘアにしていたスーリャ様は現在、その髪を自然に下ろしている。元々、タレ目で優しそうな、イルト殿下に良く似た顔立ちだった彼女は、その方がよほど似合っていたが、イルト殿下に向ける視線は、いつも厳しいものだったと知っている。リーリス王国で、側妃として望まれ、数々のライバルを蹴落として唯一の側妃となったスーリャ様。黒目黒髪という、忌むべき色を持ってイルト殿下が生まれてしまったがために、散々に周りから非難され続けてきたスーリャ様。そのせいで、スーリャ様がイルト殿下を憎むのは、ある意味当然の流れと言えた。
ただ……きっと、それは本当の姿ではなかったのだと、今なら分かる。昔、お姉様にスーリャ様は悪いお方ではないと聞いたことはあったが、当時はそれに疑問しか抱けなかったが、イルト殿下の安否が分からない状態であるとの報告で失神してしまったスーリャ様を見れば、お姉様の言葉が真実なのだと分かる。
「えっと……アルト。スーリャ様のご容態は……?」
「あまり、思わしくないとのことだ。ユミリア嬢であれば、きっとイルトを助けてくれるとは思うが、もう、一生会えないかもしれないとなれば、当然なのかもしれないがな……」
お姉様達が消えて三年が経った今、スーリャ様の容態は急変していた。もしかしたら、もう、長くはないかもしれないなんてことも囁かれるくらいだ。
「そっか…………」
スーリャ様は、イルト殿下をとても愛している。だからこそ、気鬱になって、今、その命を散らしかねないところまできているのだ。
「……早く、帰ってきてくれるといいけど……」
それが簡単ではないことくらい、私も理解できている。だから、そっと窓の外へと視線を移した私が、思わず目を疑ったのは仕方のないことだろう。
「? ミー? どうした? そんな、あり得ないものを見たような顔をして」
そう言いながら、アルトは私が見ているものを見ようと、同じく窓の外に視線を移すも、首を傾げるのみ。それもそうだ。彼女達は、神でもない限り見つけることができないように、その気配を遮断してしまっている。彼女達が……お姉様達が、故意に私に見つかるように神力を高めたりしなければ、全く分からなかっただろう。
「ちょっと、迎えに行ってきます」
「えっ? 誰を??」
お姉様の側には、イルト殿下とルクレチア、そして、お姉様に良く似た女の子と、なぜか、鎖の束が背後で引きずられている状態だった。
(まずは、無事を確認して、根掘り葉掘り問いただして、あの女の子のことも問い詰めて、スーリャ様のところに連行しなきゃっ)
淑女としてははしたないものの、思いっきり駆け抜けていった私は、いつの間にかアルトをも振り払い、ようやく……お姉様の笑顔を目の前で見ることとなった。
よーしっ、感動の再会シーン演出準備、オーケー!
それでは、また!