第百五話 嫌がらせの日々5(ピンク頭視点)
ブックマークや感想ありがとうございます。
今回は……ちょいと普通とは違う嫌がらせパターンをお送りいたします。
それでは、どうぞ!
教室に入った直後、私は、強制的に思考停止させられた気分に陥る。いや、きっと、こんな光景を見て、動じないでいられるのは、余程の神でなければあり得ないだろう。
「ギギャアァァアッ!」
「ゴゲエェェエッ!」
「アギャアァァァアッ!!」
その場所は、不自然なほどにポッカリと開いた空間だった。教室の机はそれなりに近い距離で密集しているというのに、今はたった一つ、その席だけを残して、全ての机や椅子が避難させられている。……そう、それは、避難だ。
「な、に……これ……」
たった一つの席。それを、他の神々は遠巻きに見つめるだけで、決して近寄ろうとはしない。そして、その席は、まごうことなく、私の席なのだ。
嫌がらせを受ける日が来ることを期待して、私は確かに、ある程度の私物をその席に置いていた。もちろん、私物とはいえ、そこまで思い入れのあるものを置いておくわけがない。せいぜいが、母親の形見だと偽った、普通のブローチとか、教科書とか、体操着とか、その程度のものしか置いてはいない。ただ……現在、それらのモノが、醜い悲鳴をあげて、壊れては修復される、というのを繰り返していた。しかも、その側には、真っ黒なスライムのような存在が、明らかにニタニタとした笑みであろうものを浮かべて机の上に鎮座している。
「なぁ、クゥガがどこに居るか知らないか?」
背後で、脳筋な攻略対象者が別の攻略対象者のことを誰かに尋ねている様子ではあるものの、正直、予想外過ぎてどう反応するのが正解なのか分からない。
(誰が、私物を拷問にかけられるとか想像するのっ)
普通は、服やら教科書をズタズタに、とか、形見のなんちゃらを壊されて、とか、そういうのがよくある嫌がらせのはず、なのだ。それなのに、今、目の前では、意識を持たないはずの道具達に、まるで意識があるかのように悲鳴をあげさせ、何度も何度も、壊れては修復するのを繰り返している。怖いといえば怖いが、それ以上に、ヒロインとしてどういう反応をすべきなのか、全く分からない。
「だ、誰が、こんな、酷いことを……」
とりあえずはショックを受けるのが正解だろうかと演じてみせるものの、周りの神々の視点は拷問される道具達に向かっており、ちっともこちらへ移ってはくれない。と、いうか……。
(あ、あのスライム、何か、イライラするんだけど!?)
私が思い通りに周りを動かせない状況を、ソイツはニタニタと悪意に満ちた笑みで対応する。
バキ、バキ……ビリッ、ビリリッ。そんな音が発せられ、折られ、引きちぎられ、悲鳴があがる。恐らくは、拷問官役があのスライムなのだろうが、とにかく現状をどうにかしないことには、出席日数を稼げないし、好感度も上がらない。と、いうわけで、私は覚悟を決めて、スライムを排除すべく、一歩、足を前に進めた。
元は、私物の破壊から派生した嫌がらせですが……まぁ、当然、これで終わり、何ていうチャチな嫌がらせではないんですよねぇ。
それでは、また!




