プロローグ
新しい小説となります。
よろしくお願いいたします。
勇者ーー正義であり、平和の象徴であり、世界の希望である。その身に宿すは聖なる光。浄化の力を持って数人の仲間達と、世界の平和を取り戻す運命にある者。
魔王ーー悪であり、破壊と絶望をもたらす者であり、世界の敵である。その身に宿すは邪悪な闇。破壊しか生まない力は大地から命を奪い、その地に住まいし者達が全て消滅するまで、殺戮と略奪を止めない存在。
遥か昔からそう言い伝えられ、幾多の時をまたいでも、消滅と再生を繰り返して戦い続けた。時代や世界が変わろうとも、勇者と魔王の運命は変わらない。
……誰が決めたのか、勇者が白で魔王が黒であると。
その疑問さえよぎる事なく、この世界もまた廻り続けているーー。
………………。
…………。
……。
何も見えない暗闇の中で体の感覚はなく、聴覚だけがやけに冴える。
辺りに意識を集中させると、ほんのり暖かい何かを感じた。
目の前は相変わらず何も見えないが、柔らかい何かに包まれるような感覚があった。
『ごめんなさい……奪われてしまった』
女のか細い声が聞こえる。何かに耐えているようにも感じるその声に、意識を集中させる。
『聖域が穢されてもう、力が残っていないの。あの子を止められない……』
その声に“何を奪われたのか”と返事をしようとしたが、声が出なかった。聴覚はあるのだから、声も出せるとばかり思っていたが、上手くいかないらしい。それだけでなく、だんだん意識が遠退いていく気がした。
『このままでは、器を持たない貴女は消えてしまう……』
その言葉が、自分を指していると分かったと同時に、意識が闇に溶けていくように、何も考えられなくなる。
『ごめんなさい……今度の生は……きっと、辛くなるはず。どうか、聖なる加護だけはありますようにーーーー……』
女の声はそれ以上聞こえなくなり、自分の意識もまた、完全に暗闇に包まれた。
………………。
…………。
……。
“トクン、トクン”
次に意識がはっきりした時、身体の浮遊感と、暖かさに包まれていた。
「サラ……可愛い私のサラ……」
「楽しみだな、早く会いたい。私とシェリーの子だ、絶対に可愛い」
「もう、ゼーレったら、今から親バカね。でも、私も早く会いたいわ……」
心臓だと思われる音と、優しげな男女の声が聞こえてくる。しかし、水の中にいるような感覚のせいか、その声は少し遠い。
「サラが産まれたら、三人でどこか遠くに行こう。……ーーでは、生きにくいから……」
「……そうね。その方がこの子にとっても……」
しばらく会話が続いたかと思うと、そのうち歌が聞こえてくる。
(私は……サラ?)
だんだんと状況が分かって来ていたが、あやすような歌声に抗えず、またゆっくりと意識を手放した。




