第1話 こんにちわ
涙を流し続ける彼女に、
そっと唇を重ねた。
「これからもずっと大好き」
なんて言う僕の愛しい彼女。
どうかいつもの笑顔で笑ってほしい。
どうか幸せになってほしい。
たとえ、僕に関する
一切の記憶をなくしても。
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寒川さくら17歳。
母を早くに亡くし、男腕1つで育てられた彼女はそれはそれは面倒見の良い性格でみんなから慕われていました。しかし、ある日、彼女の父が交通事故に遭い働けなくなってしまった。
だから、彼女は父の古い友人の息子の家で住み込み家政婦として働くことになったのです。
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「さーくら! 聞いたよ! 今日から家政婦始めるんでしょー」
そう言って笑顔で私に寄ってきたのは親友の愛梨。彼女は授業が終わると、いつも話しかけてくれる。
「いいなぁ、さくら。なんか新しい恋が始まりそうじゃない!」
相変わらず脳内はお花畑のようだ。
「そんなことないよ、愛梨……。その人の名前、結構渋めだし。多分おじさまだよ」
こんな話をしていると隣の席の佐藤くんが目を覚ました。佐藤くんは授業中でも爆睡している変わった人だ。休み時間でも寝て、時々起きて何かメモして、また寝る。なのに、イケメンだからって女子からは、かなりの人気がある。そんな佐藤くんだけど、私たちが小説の話をしている時は必ず起きている気がする。というか今めっちゃこっち睨んでたような……? 気のせいかな? まぁ、何にせよだいぶ小説好きなんだろう。その点では同類だ。
私も小説は大大大大大好きだ。だから、今回の住み込み家政婦の話は実はとても嬉しい。なぜなら、私が働くのはなんと二郎先生の家なのだ!! 二郎先生とは「日向夏32」でデビューし、私の大好きな「#未来の話」「君に好きって伝えたら。」の2作品が同時に桜川賞に輝いた超売れっ子小説家。しかも、二郎先生のプライベートは謎に包まれていて、出版社にさえ顔を出さず、編集者さんとしか話さないらしい。
そんな二郎先生の家で働くことができるなんて……控えめに言って最高すぎる。
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そしていよいよ、帰りのSHRが終わって学校から二郎先生の家へ行く時間になった。
やっと先生に会える!! ウキウキしながら、自転車を加速させる。心なしか自転車のペダルが軽い。体もフワフワしている。どんな顔だろう。どんな声だろう。どんな人だろう! 料理美味しいって言ってくれるかな? 掃除でダメ出しされたらどうしよう……。緊張しちゃうな。髪の毛ボサボサになっちゃってないかな!? そんなことを考えているとあっという間に目的地に到着した。
1回深呼吸してドアの呼び鈴を鳴らす。ピーンポーン。
「どちら様ですか?」
男の人の声が聞こえる。低めの素敵な声だ。
「えっと、今日から家政婦として働く
寒川さくらです」
「あぁ、さくらちゃんか! 今開けるね」
さあ、いよいよ、先生とのご対面……!
ガチャ、
「こんにちは。いらっしゃい」
背の高い20代くらいの男の人がそう言って、はにかんだ。全然日焼けしてなくて、塩顔で、徹夜続きだったのか白い肌にクマが一際目立っている。これが、二郎先生……めっちゃイケメンじゃん!!!!
「これからよろしくお願いします!二郎先生! 」
さくらは勢いよく頭を下げた。
「あぁ、違う違う! 俺は編集者の篠原かずなり」
……へ????
「じゃ、じゃあ二郎先生は……?」
「先生はこっち!」
そう言って奥から手を引かれて出てきたのは、私ぐらいの身長の男の子!? っていうか、あれ、この顔どっかで……?
「よぉ」
聞きなじみのある声が響く。
……。
え???
さ、佐藤くん!?!?
そしてこの時、
さくらは思い出した。
佐藤くんの下の名前が、
“二郎”だったということに。




