9話 人見知り、宿を探す。
今日はもう昼下がり、今からクエストを受けるのは暗くなって危険だろう。なので、今大事なのは晩御飯と宿である。
「お金は稼げたけど…………………安い宿屋とかないのかなぁ………」
「まぁ無いことはないんだけどね。多分設備があんまり良くないと思うな」
まぁそれは一理ある。お金が稼げないから、良い設備が買えない。良い設備が買えないから、客が来ない。客が来ないから値段を下げるしかない。そういう悪循環なのだろう。
適当にまだ明るい石畳の道を歩いていると……………
「あ、お客様!今夜の宿に困っていないですか?私達【シルバーベル】っていう宿で働いているんですよ!どうです?今なら半額ですよー!」
………………む?半額?お値段が半分だって!?それは興味深い話だった。
「あ、あの―――――――――――――」
「――――――半額って、幾らですか?」
あぁ、そうだった……………僕人見知りな上にコミュニケーション能力障害略してコミュ障を患っていたんだった………………もう何も言わないや。
「ん?えっと確か……………1,000リルだけど、負けて900リルで良いよ。それに晩飯朝食付き!」
えぇ……………そこまでいてちゃったらなんだか怪しく思えちゃうじゃん。
シルヴィは少し考えて
「まぁ、付いてから考えよっかな」
と言ってその少女の背を追った。僕もシルヴィについていく他ないので後を追った。
少し歩いた先にあったのは、少しだけ古ぼけた感じがする宿屋だった。でも新しい宿屋よりも少し古い感じがする方が落ち着けるんだよね。
「ここですよお客様!」
「………………怪しいものはないんだよね?」
「なっ!?当たり前ですよお客様!」
まぁ怒るだろう。自分の職場をバカにされて、何も思わないのはその仕事になんの感情も抱いていないかつまらないかだけだ。まぁあれは冗談だと思うが。少女も流石に分かっている筈だけど。
「900リルなら私達でも足りるよね?それじゃあ泊まっていこうかな」
とシルヴィは人懐っこい笑みを浮かべた。
あ、正直に言うとめっちゃ可愛いです。
「あ、ありがとうございますお客ざまー!!」
街で連れてきてくれた少女は少しだけ泣きながらシルヴィに抱きついている。
「ううっ………それでは………ぐすっ………………こちらにぃ〜……、ズズッ…………どうぞ……………」
この子めっちゃ泣きながら言ってるんだけど。やけにオーバーな子なんだなぁ…………
その店【シルバーベル】に入ると、入り口の前のカウンターに女店主がいた。皿を洗っている。
「ん?なんだお客様かい?」
「そうっ!私が連れてきたんだよー!!」
連れてこられたと言うか付いていったと言うか…………まぁどちらにせよ今日はここに泊まる事になると思う。
「まったくこのバカアルリ!」
と言ってその少女…………アルリの頭をチョップした。鈍器で殴ったような音がする。そう言った後、こう言った。
「お客様は大切にしろってあれほど言ったでしょ?神様とおんなじことよ」
と言ってこちらに振り返った。
「はぁ〜…………あんた達もこの子の900リルと晩飯朝食に騙されたクチかい?」
「い、いえ…………騙されたというか…………自分から
この店を選んだというか………………」
まぁ確かに安すぎるし、詐欺かどうかといえば詐欺かも知れない。騙されるのは泊まってからだけど。
「ハァまったく……………この子のせいで収入が殆どないのよ。ま、お客が来るだけマシだけど」
収入がない?え?それ死活問題じゃない?
「それで、今日は宿泊かい?」
と聞かれたのでシルヴィが
「はい、1泊2日の晩飯と朝食をお願いします」
「あいよ、お代はいつ払うんだい?今でも良いしチェックアウトの時でも良いんだが…………」
「あ、なら今払いますよ。ちょっとイネス?これは割り勘だからね?」
まぁ、それはもちろん合意の上だ。
「あ、うん……………はい」
450リルをカウンターに置いた。