70話 影星、局員達と会う。(2)
……………え?今なんて言った?ふ、服を脱いで?いきなり何言ってんですか!?
と言うのが、前世で見た所謂ラノベのハーレム系主人公の決め台詞の様なものだ。だが僕はラノベ主人公でもなければ、ハーレム主人公でもない。そして僕はあんなに女子を引き連れていい顔をしているイケメンとも違う。ちゃんと考えて物を言う。だからこれまで失言や間違いが少ないのだ。
今回も特に驚くことはない。リックスさんが言っているのは恐らく採寸をする為だろう。僕としても服やその他諸々を見繕ってくれるので「い、いきなり何言ってんすか!?」などといきなり大声を出す様なクソ迷惑なことはしない。いつもそういうことをする主人公をちょっと疑問に思いながら言葉を出そうとする。
「えぇ!?何でですかリックスさん!?」
念の為言っておくけどこれは僕じゃない。シルヴィが言った。採寸をする為だよシルヴィアちゃん。
「ん?採寸をするためだよ?シルヴィアちゃん」
「え?さ、さい…すん………………」
それを聞いて一気に顔を赤くしてしまったシルヴィ。確かにあれは恥ずかしいと思う。自分の勘違いで大声を出してしまったからだ。いつもながら大声をだした主人公が恥ずかしがっていないのがちょっと疑問。ハーレム系だからそういうことにも鈍感なのかな?
「あはは〜、いいよいいよシルヴィアちゃん。そこの綾桐ちゃんも大声を出して真っ赤になった経験ありだからね〜」
ちゃっかりバラされた秘密。そして後ろで「な、なんで言っちゃうのよー!」と声を荒げる綾桐。だが彼女は女性、言わばヒロインである。ヒロインは難聴最低鈍感主人公とは格が違うのである。つまり何が言いたいかと言うとヒロインが出す大声はただのご褒美です本当にありがとうございました。
「す、すいません大声出しちゃって……………」
「気にしてないって〜。それじゃあまずは女性陣からやっていこうかな〜。男性陣は外に出ててね。もし覗きでもしたら……………ふふっ」
リックスさんは最後にそう言った。その時の笑顔はマジでヤバかった。具体的に言うと顔は笑っているのに目が全く笑っていないのだ。そんなもの無いだろ〜と思っていたのだが今その存在に気が付いた。これはヤバいね。もう見たくないです。
「じゃ、速く出てってね〜」
レックスさんはそう言うと後ろにある机から採寸用のはかり?の様なものを持って来た。そろそろ出ていかないと迷惑かと思い唯守さんと外に出た。
「いつ見てもあのエコー君の笑顔は怖いよ………」
あ、いつも見てるんだ。それはご愁傷様です。
「それはそうとイネス君、君は上級魔法を使えるそうじゃないか。新しい魔法や魔法技術を思いついたりしたらいつでも言ってほしい。それに分からない事があったら何でも聞いてくれ。分かる範囲で答えようと思う」
唯守さんはそう言った。さっき言ったことから考えるにこの人は魔法研究や魔法技術の開発もしているようだ。
「じゃ、じゃあ……その………」
言うんだ僕!丁度今聞きたくなった事を素直に口に出すんだ!この人なら教えてくれるはず!
「ど、どんな魔法を研究してるん………ですか?」
よし言えた!良くやったぞイネス・シルフィード!自分をよしよししたくなったけど我慢。
「そうだね…………今の研究課題は高速移動魔法と超至近距離攻撃魔法ってとこかな。本当はもっと長いんだけど、要約するとそんなところ」
それを聞いて頭の中のスイッチを入れる。どうせ聞いたのだから自分でも少しは考えてみたい。
(高速移動魔法…………自分自身を加速・加重させて無理矢理速度を出すか、強化魔法で自身の身体能力を上げるか、風属性魔法で体を押すか……………まぁそんなところか。もう少し考えればある程度は出来る。問題はもう一つの超至近距離攻撃魔法だ。そのタイプが分からない。派手にやるか静かにやるか。一対一か一対多か。身体能力重視か魔法力重視か。それを聞いてみないと)
「超至近距離攻撃魔法………どんなものなんですか?」
「えっと…………ウチに暗殺をする部隊があることは知っているよね?」
そう問われたのでコクっと頷く。
「その部隊の暗殺っていうのはその字の通りとても静かに、素早くやるものなんだ。今までは短剣やナイフ、仕込み武器とかでやってたんだけど、今は怪しい物は没収されるらしくてね。持ち運びの必要ない魔法が良いってことになったんだ」
「………実体物じゃないと?」
「あぁ、そういうことになるね」
つまり武器に属性を付与する付与魔法はダメな訳だ。そして静か………魔力隠蔽魔法を掛けやすいものになると複雑な魔法陣じゃダメ。それと素早い………単純な魔法陣で、使用者の腕次第で発動を速くできる魔法が良いってことになる。それはを満たすものとなると………………一個しかないね。
「………か、考えてみます」
もう魔法陣は頭の中で組み立てられた。あとは実際にやってみるだけだ。
「無理がない暇なとき程度で大丈夫だよ。中々難しいお題だからね。僕もかなり難航してる。だれかアイデアが欲しいものだよ」
難航してる?さっきあなたが言った条件を並べて簡単にして、自分が知ってる魔法全部に当てはめたらすぐ思い付く筈ですけど?でも僕は押し付けるようなマネをしない。僕はあくまで僕でしかない。唯守さんは唯守さんであって僕じゃないからね。
「………お?唯守さん。扉の前でどうしたんすか?それとそこのちっちゃいのは?」
考えに浸っていると通路から二人組の男性が歩いて来た。あとちっちゃいのってそりゃあなた方に比べたらチビだろうけど、何かと便利だから!
「おや、エクザ君とベスタ君。局長室や影村さんのデスクは三階ですよ?」
「今日はちげーっすよ。剣が鈍ってきたから研ぎに来ただけっす。それよりなにしてんすか?」
今喋ってる人は紫色の髪をした若い男の人だ。オレンジの瞳もめっちゃ綺麗。対してもう一人の男の人は銀髪をしていて赤い目をしている。紫色の少年は元気なタイプなのに対して銀髪の少年は静かで大人しいタイプの様だ。多分っていうか絶対年上だと思う。
「エコー君が新人たちの装備を作る為に採寸をしているんだよ。男性陣は外で待ってる」
「新人たち?そこの人以外にもいるんすか?」
3人全員の視線が僕に集まった。
「あぁ、彼はイネス・シルフィード君だ。中に新人の女性隊員が3人入っているよ」
「4人か………なぁシルフィード、どこの学園?」
「だ、第五学園に在学中……です」
「第五学園か。ってことは例の『サテライト』に入ってるってことか?氷冴か綾桐とかと一緒に」
「は、はい…………」
「ハァ、遂にあの二人はソロじゃなくなったのか………」
え?何そんなに有名なのあの二人って。実力はかなり高いけど素行が悪いとか?え、まさかヤンキー?そっちの方々だったの?
「お前が心配する事じゃないと思うけどな」
銀髪の人が初めて口を開いた。
「そうかベスタ?聞けよイネス、あいつら実力が高すぎて周りと全く合わせられないんだ。こっちが向こうに合わせたらこっちの実力が出し切れないし、逆もまた然りだろ?」
それは僕も思った。綾桐の試合しか見てないが彼女のスタイルは一対一か一対多向けなのだ。それが2人や3人になると動きを制限することになってしまうと思う。
「だから、2人とも良い奴なのに勿体ないんだよなぁ。まぁそんな訳だから頑張ってくれよな」
「あ、ありがとうございます」
「構わねぇよ。じゃ、俺らは行くな」
と言って2人は歩き始めた。結局自己紹介してくれなかったね。誰だったんだろう?考えていると唯守さんが教えてくれた。
「紫髪の人はエクザ・バーラル。第三学園卒業生で最終序列は2位、二つ名は『爵漸』。バックソードを使った素早い斬撃が得意だったかな」
そういえば腰にバックソードを下げていたな。防具は革の装備だったし実力者なんだろう。バックソードってのは片手用で峰が厚い刀剣だ。サーベルみたいなガードが付いてるのが特長かな。
「そして銀髪の人がベスタ・ドーン。エクザ君と同じで第三学園卒業生、最終序列は1位。二つ名は『帝刃』ロングソードを使った重い一撃が強力だね。学園時代二人はライバルだったんだって。今は仲いいみたいだけど」
そ、そうなんですか…………でもその人も背中にロングソード背負ってたな。普通に考えたら重いけど、鍛えてるから重くないっぽい。
「二人共本当に強いよ。それはもう水也君や綾桐君、氷冴君にも並ぶくらい」
あ、やっぱり氷冴と綾桐すげぇんだ。もう氷冴狐を撫でたりするの辞めよっかな。え?綾桐はって?綾桐にはまだ特に怒らせた覚えはないよ。




