45話 人見知り、はまる。
午前中の授業は滞りもなく終わった。特に何か言う程のことすらなかった。強いて言うなら、シルヴィが結構ギリギリだったくらいだ。
「えっと、イネスは生徒会室に行くんだよね?」
「まぁね。生徒会長に呼ばれたから」
シルヴィの質問に答える。
「じゃあ私達も行って良い?」
「ん〜…………どうかな?分かんない」
会長さんからは昼食時に生徒会室へ来いと言われているだけなのでそこのところはよく分からない。まぁシルヴィ達が付いてきた場合に会長が駄目って言ったら帰らせるだけだけどね。
「分かんないって……………じゃあ行っていい?」
「た、多分……………良い筈」
連れて行ったからと言って怒られることはないと思う。それは詳細を説明しなかった会長さんの責任だ。僕たちは悪くない。
「やった!じゃあ購買で何か買ってこようよ!」
「………購買って、どこにあるの?」
「え?えぇと………分かんないや。皆な分かる?」
頭の中でこの第五学園の地図を広げる。この普通棟は真ん中辺りにあるのだが、購買は図書館がある特別棟と呼ばれるところにある。
「分かるよ」
「わ、私も覚えてます」
僕とイヴがそう答えると、シルヴィが叫んだ。
「ホント!?」
「………………」
「は、はい………まぁ」
彼女の問に僕は頷き、イヴは肯定した。
◆
あれから購買でサンドイッチを買い、足速に生徒会長を目指す。と言ってもこの特別棟の最上階にあるんだが。数分歩いたところでその生徒会室の前に立った。
ここで僕は大きく深呼吸をする。こういう場面は本当に苦手なのだ。何か変なことをして迷惑をかけたくないし、僕がイジメの標的にもなりたくない。
「………イネス?どうかした?」
振り向くとシルヴィ、クレア、イヴの全員が不思議そうな顔をしていた。それもそうだろう。ずっとドアノブに手を伸ばし、触れそうなところでまた引っ込め………それを数回繰り返していた。
「イネス?まずはノックだよ?」
あぁ、そういえばそうだった。僕としたとこが完全にうっかりしていた………………
コンコンっとリズム良く扉を叩く。すると、扉の中から声が聞こえてきた。
「入ってくださって大丈夫ですよ」
その声が聞こえたのでドアノブを掴み撚る。そしてドアをガチャッと開けた。
「来てくださいましたかシルフィードさん」
僕に続いて入って来たシルヴィ達を見ると、会長さんは驚いた様な顔になった。
「確か、1年3組の教室でシルフィードさんと一緒にいた人たちですよね?一人だけ知らない人がいますけど……………」
それはシルヴィのことだろう。あの時は忘れ物を取りに行っていたのでいなかった。
「シルヴィア・インフォルトです。よろしくお願いします」
「………クレア・ウォルクス。よろしく」
「イヴ・ディスリートです。よろしくお願いしますリルシャールさん」
みんなちゃんと挨拶した。え?まともに挨拶出来ないのってもしかして僕だけ?
「はい。アストリア・リルシャールです。こちらこそよろしくお願いしますね」
と言って会長さんは微笑んだ。
それから僕たちはまぁまぁ座ってくださいと言われたのでそれぞれソファに座った。入り口から見て僕が左側端。僕の左がシルヴィ、前がクレア、彼女のとなりがイヴだ。そして、僕の左斜め上に会長さんが座っている。
「お話は昼食を摂ってからにしますから、お昼頂きましょうか?」
みんなそれに同意したので僕たち4人は購買で買ってきたサンドイッチを出した。それに対して会長は弁当だ。
「では、いただきます」
「「「「「いただきます」」」」」
と言ってサンドイッチに齧り付いた。因みに僕のは卵サンドだ。卵好きだからね。
と言っても2つしかなかったのですぐ食べ終えてしまった。正面のクレアを見るとまだ1つ目を食べているところだった。ならば!と思い、もう一つ買ってあるものを取り出した。それは………………
(揚げタコくん…………たこ焼きだよね?」
商品名は『揚げタコくん』だ。めっちゃ簡単に言うとたこ焼きをカリッと揚げたもの。気になったからつい買っちゃった。
紙の箱を開けると丸い揚げタコくんが6つ入っていた。その上にソースとかつお節?が振りかけられており、食欲を非常にそそってくる。あぁ勿論爪楊枝も入ってたよ。
もう待ちきれないとばかりに爪楊枝を摘み揚げタコくんの一つに刺した。そしてそのまま口へ運ぶ。
「んっ……………」
結論から言うと、滅茶苦茶美味かった。たこ焼き内部のトロトロ感に加え、外の皮はパリッとしている。そして中にある歯応え抜群のたこ。やはりたこ焼きを揚げるのは間違いではないみたいだ。
1つ食べただけなのに僕はもう揚げタコくんの虜になってしまった。残りは5つもあるのだ!最後と形容せざるを得ないだろう。
「…………っん」
2つ目を口に入れた。この丁度いい熱さと食感。美味い、美味すぎる。いや、旨すぎるだな。
2つ目を食べていると左から視線を感じた。左にいたのはシルヴィだ。だが僕はシルヴィに怒られるようなことをした覚えはない。
「……………?」
2つ目を食べ終えてからチラッと横目で確認すると、シルヴィがこちらを…………いや、揚げタコくんを凝視していた。その目はただ純粋に揚げタコくんが気になっている目だ。腐っても濁ってもいないキレイな目。
(気になるのかな?まぁ良いけど)
特に気にすることもなく3つ目を口に入れた。美味しい!たまらない!どうしてこんなに美味しくできるのか謎である。もう僕はこの食べ物にはまってしまった。間違いなくだ。
「イネス、それなに?」
左のシルヴィが話しかけてきた。
「購買で買った揚げタコくん」
「購買で?売ってたっけ?」
それはシルヴィがサンドイッチ選びに時間が掛かっていたから急いでたんだろう。間違いなくカウンターの隣にあったのだから。
「売ってたよ。じゃないとどこで買ったっていうの?」
「まぁそれもそっか。それ食べていいかな?」
まぁ分からないでもない。見た目からして美味しそうなのだから。それにファンである僕からしたら気になるのは仕方のないことだと思う。
「別に良いよ。でも沢山食べないでね」
と言って箱ごとシルヴィに渡した。4つ目も食べるつもりだったから棒が刺さったままだが……………まぁ別にいっか。
「それじゃあ…………はむっ」
棒が刺さった4つ目を口に運んだ。すると……………
「んん〜〜〜!」
食べる前は少し疑っている様な顔をしていたのだが、食べた瞬間に歓喜の表情へと変わった。
「美味し〜!!イネスこれ美味しいねっ!」
「そうだね」
「そんなに美味しいんですか?シルヴィア殿」
シルヴィの表情の変化が気になったのかイヴはシルヴィに聞いた。
「勿論だよイヴちゃん!これを不味いっていう人がいたら、許さないかと知れないくらい!」
おぉ。いつも優しく温厚なシルヴィがそんな事を言うとは。余程揚げタコくんのことが気に入った様だ。
「そうなんですか…………」
「……あ!ならイヴちゃんも食べる?クレアもどう?」
「………そうね、少し気になるわ」
「私も食べてみたいですかね……」
こうしてイヴとクレアも食べることになった。最初に回ったのはイヴ。食べた瞬間にめっちゃ笑顔になった。まぁ美味しいんだろうね。そして次にクレアだ。あまり悪く言うつもりはないが、クレアはとても悲しそうな目をしているから、少しは良い表情をしてほしい。
「……………っんく」
ゆっくりと味を確かめる様に咀嚼するクレア。あんまり表情の変化はない。流石にシルヴィが許さないことはないと思うけど………………
「………これ、とっても美味しいわね」
と言った。そして僕たちはしっかりとこの目で確認した。クレアの口の角が、僅かに上がった事を。




