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そして今度は茫然としているだけだったエマに向かってケイは同じような事を語り掛けた。


「エマさんは何でこの仕事に?」


 いきなりの質問に戸惑う可能性もあるかもしれない、そう思ったケイだったがそれとは裏腹にエマは答えていく。

ケイは知る由もないがそんな質問はエマは既に答え慣れているのだ。


「……私、元々はサイボーグの技術開発者を目指してたんです」

「はは……本当に優秀だったんだね」


 サイボーグの職種には破損時の物理的な修理を行う修理師、人間の医者と看護師を合わせたような仕事をサイボーグに行う技師、そして義手や義体などの開発を行う開発者に分かれる。


 元々、サイボーグが病気や怪我をした際には既存の医師や看護師、義肢装具士などがそれぞれの知識を活かして対応を行っていたが時間と共にサイボーグの絶対数もその仕組みも複雑化の一途となったためサイボーグ専門の資格が作られた経緯がある。


 中でも義体と人間の神経を繋ぎ合わせる設計を一から考案する技術開発者はサイボーグの職種の中で最も高度であり現代のサイボーグ分野の根幹を担っていると言っても過言ではないほど存在として知られている。

 まさに技術開発者は超エリートだけが慣れる職業なのだ。


 単純に考えても人間を知り尽くした医師と機械を知り尽くした技術士の免許を両方持っているような物である。

 その膨大な知識を物にする必要があるため資格の取得年代はほとんどが四十代過ぎとなっており、それを飛び級かつ二十歳で取ったエマがどれほどの頭脳の持ち主なのかケイには想像すら付かない。

 そんなケイの驚愕を他所にエマはどんどんと言葉を吐き出していく。


「当時の私は新しい技術を作るんだ、道を切り開くんだ、ってまぁ夢ばかり言っているような人間でした」


 ケイと同じく自分の過去を語り始めるエマだがその口調はケイとは逆に後悔を告白するかのような物であった。


「でも現実は違った、新しい技術を作るなんて言っても膨大なお金と時間は当然必要になりますし思っていた様にいかない事だってたくさん……結局私は自分の思っていた事なんてただの夢物語だったって事にようやく気が付いたんです」

「……それで?」

「それで私が目を付けたのはこの子供たちを保護している施設でした」


 エマのその言い方は明らかに自分を下卑たような言い方であった。


「私自身も裏社会で実験台として扱われている子供達の存在は知っていました、それはもう口を酸っぱくするほど教育課程で言われましたからね」

「………」


「私はここならば私の知識を活用できるんじゃないかと思っていました、私は技術分野における知識を持っていますし公にされていない違法な改造についても文献で読んだことがありますから」


 ケイはエマが何を言いたいのかが段々分かりはじめる。

 エマは今、自分の罪を告白しようとしているのだ。


「でもここは……ここは私が来るような場所じゃないです……」


 そこでエマの目じりから再び涙が伝い始める。


「なにやってるんでしょうね……私、こんな、所に来ていい人間な訳ありません、子供たちに自分の知識を活用したいとか言っちゃって……そんな、使いたいとか言って……」


 エマの言葉は途切れ途切れで支離滅裂になりかけていたもののケイにはその言いたいことは十分に伝わっていた。

 裏社会で違法な改造に手を染めている人間は大抵がエリートと呼ばれるような知識と経験を積んで来た者達である。

 そんな者達は自分のやりたいことをやって周囲に称賛され、さらに高みへと昇ることを望むようになる。

だが表の世界ではそう上手くいくことは少ない。

 資金、時間、倫理、様々な理由によって欲求は妨げられ、それを不服と感じて自らの可能性を掛け、行き過ぎた一部の者達が裏の世界へと足を踏み入れる事となる。


 エマはもしかしたらその場所へと行きかけていた人間なのかもしれない、だがエマの生きてきた環境は余りにも綺麗だった。

 エマはきっと自分の目でそれを見るまでその世界そのものが存在するという事すら予想もしていなかったのかもしれない。

 育ってきたエマにとって自分のやりたいことをやる為ならば犯罪にすら手を染めるような思考はそもそも生まれることがなかった。


 だからこそ表の世界ではその欲求を十分に満たせないと知った彼女は現実に対して失望したのだった。

自分が本当にやりたいことは生涯叶う事はないと絶望した。

 何故ならば自分がやりたいことは犯罪であったのだから。


「…………」

 そこまで語り終えるとエマは何も言わなくなった。


 ケイに返答を求めるように目を向けることも、席を立とうともせずただどこを見るわけでもなく虚空を見つめているだけで淡々と時間だけが経過していく。



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