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(5)


「ふぃ~……」


 無事にアマンダを置く届けたケイは防護服を脱ぎケイはため息を付く。

技術の発展で防護服を長時間付けていても中の温度がとんでもないことになったりすることはないもののやはり生身の体と比べたら違和感は当然ある。


「あの……」

「うん? 何?」


 ケイが防護服を脱いで一息ついているとエマが話しかけてきた。


「その……すみませんでした」


 エマは頭を下げる、理由はもちろん先ほどのアマンダの事に付いてだろう。


「大丈夫だよ、まだエマさんは慣れてないんだし……」


 ケイはそう言って気にしないように促したのだが。


「私もうここに来て三か月目になります!」


 生真面目なエマはそう言ってかたくなに反論する。

 ケイはエマの上司である以上指導的な部分も担当しているのだが確かにエマは現在においても上手く対応が出来ていないことが多いように思える。

 だがこの施設自体がかなり特殊な方であり、慣れるのも時間がかかるとケイは考えていた。

そのため以前このようなことがあった時も気楽にいけと毎回言っているのだが、エマはそうもいかないらしい。


「私いつも呼び出しをしてばっかりで……ケイさんもお忙しいのに……」

「でも無理に解決しようとしないで呼んでくれるのはありがたいよ」


 もしアマンダの暴れ方によってはエマが大けがをしてしまっていた可能性もある、そう考えると即座にケイを呼んだエマのやり方は決して間違ってはいない。


「そんなに気にしなくて良いから、次の子のところに行ってあげて」

「はい、分かりました……」


 そう言ってエマはケイと別れた。


「思い詰めてるなぁ……」


 ケイはエマの指導役としてそれなりに目配せはしているのだが確かにエマは失敗をしてしまうことが多いとは感じていた。

 とはいってもそれは話を聞かないとか覚えが悪いという事ではなくどうもこの施設の仕事そのものとズレたことをしてしまっている様に思える。


 客観的にみればエマは知識はある、それこそケイが知らないようなことまで即座に答えることが出来るようなことが可能でありケイよりもずっと優秀なのだ。


 だがこの仕事、つまりは子供たちと直接かかわる部分においてはエマは全く出来ないのだ。

 何と言うかどうにも子供達からも一歩引いたような態度を取られて、悪く言えば警戒されている部分があるらしくエマが近づいただけで機嫌を悪くしてしまうような子供もいるほどとなってしまっている。

 ここの子供たちが普通の子供以上に感情的に不安定というのもあるのだがそれにしてもその状態は不自然であるとケイは思っていた。


 エマの生真面目な性格も合わさって最近はあまりにも思い詰めてしまっているようにも見える。

 上司としてはその辺りのストレス管理も必要なのかもしれないが仕事以外の時はいまいち話す機会もないのでなかなか難しい部分もある。


「(何かできればいいんだけど……)」


 そう思いながらケイもまた次に自分の担当となっている子供の所へと向かうのであった。




 そしてそれから時間が経った夜。


「(……寝たかな?)」


 ケイはある子供の室内でそう一人づく。

 ベッドでは一人の男の子、『エステル』が安定した寝息を立てて眠っている。


「(おやすみ)」


 それを見たケイは起こさないようにそっと椅子から立ち上がって部屋を後にする。


「さてと、戻るとするか……」


 すでに消灯時間となった施設内でケイは一人自室に向かって歩き始める。

 ケイは一日の最後の作業である消灯後の施設内の見回りを行っていたところであった。

 いつもならばとっくに見回りは終わり施設に併設された宿舎の自室へと戻っている時間帯なのだが今日は上手く時間通りに事が運ばなかったのだ。


 消灯後の見回りとしてケイが子供たちの部屋の方を見ているとすっかり暗くなったはずの室内でエステルがまだ起きているのを発見した。

 理由は分からなかったが部屋の中は暗いのにケイの姿を見るとやたらと遊びたがり、精神的にも興奮している様子が見えた。

 そんなエステルに付き添ってしりとりやらなにやらをしているうちにいつもよりもかなり遅れた時間帯となってしまったのだ。


 自動で消灯された廊下はすでに薄暗くなっており、病院の廊下のような少々恐怖を煽る雰囲気を醸し出している。

 そんな中を一人で歩いていたケイの耳に何かが聞こえて来る。


「(……なんだ?)」


 見るとホールへの扉から微かに灯りが漏れているのが見えた、誰かいるのだろうか。

 だがすでに夜も深まり始めるような時間であり、ボランティア職員は既に帰宅しているだろうし施設内には出入口の警備員と正職員ぐらいしかいない。

 だがケイのような一般職員はほとんど宿舎へと帰っているだろうし、緊急時の為に待機している夜勤の専門職員も異常がない限りはこっちの棟へ来ることはない。

 扉の方へと向かって行くとその何かが段々とはっきりと聞こえて来る、どうやらそれは女性のすすり泣く声の様だ。

 それによって段々とそこに誰がいるのかの予想がケイに付き始めていた。


「…………」


 少し迷ったものの一応先輩という事もありある程度の事情を把握しておく必要があるだろうと思ったケイはホールの入り口をノックする。

 すると中から驚いたような声が聞こえたのちにバタバタと何かをしている音も聞こえて来る。

 そのまま少し待ち、音が鳴りやんだのを確認してからケイは中へと入った。




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