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(3)


「(さてと……)」


 シェリルを見送ったケイは別の仕事に取り掛かるために他の場所へと向かおうとした。

とその時、ケイの手首に付けられた機器から小さな音が鳴った。

 それを聞いたケイは反射的にその装置に付けられているボタンを押す。


「ケイさん! すみません、今すぐこっちに来ていただけますか!?」


 するとケイの頭の中で女性の声が聞こえ始める、体内通信技術である。

 今の時代では通信のほとんどはこのような体内通信が主となっている。

 以前は耳小骨を振動させるなどと言った方法が取られていたのが、今となっては手首の装置から微量の生体電気を流すことによって聴覚を司る神経を直接刺激し音の振動を介さずに音を脳に発現させるという技術が主流となっている。


「エマさん、とりあえず落ち着いて下さい、一体どうしたんですか?」


その精度も非常に高度であり音だけながら目の前に相手がいてその動揺までもが伝わって来るように錯覚するほどである。


「あっ……すみません、慌ててしまって……」


 ケイの言葉を聞いた女性、エマはそれによって少しだけ落ち着きを取り戻したようであったが今だにその緊張したような雰囲気が伝わって来るのは変わらない。


「それで、何か問題でも?」

「あ、その……アマンダが駄々をこねてしまって……私の所為です……」


 そう言うエマの声は申し訳ないという気持ちがふんだんに含まれたものであった、三か月前にここに入って来たエマにとって三年目となるケイは上司である。

ようするに今のエマは自分では手に負えなくなった事柄の解決するためにケイに救援を求めているのだ。


「了解、今すぐ行きます」


 そんなエマに対してケイは冷静にそう答え、向かう先をアマンダの部屋へと切り替え足早に向かい始める。


「状態は?」


 足を進めながらケイはエマに様々な事を聞いていく。


「えっと……うずくまって手を振り回してます……」

「なるほどね……一応『スーツ』を着ていく、少し時間がかかると思うからそれまで声を掛けてあげてて、通信は繋ぎっぱなしね」


 ケイは頭の中で素早く情報を整理していきながら即座に判断を下していく。


「は、はい!」


 それを聞いたエマは上ずったような返事を返す、もちろんそこからは失敗しない様に心掛けているような興奮も感じられた。

 ケイは通信は切らずに会話を止めると通路の途中で動きを止めた。

 そこは一見何もないように見えるが小さなパネルのようなものが設置されており、ケイはそこへと指を乗せパネルを起動させる

 するとその瞬間、小部屋がぐるりと床ごと回転しちょうど百八十度回った所で動きを止め、ケイは通路の壁の内側へと収納された形となった。

 そして内側へと入ったケイの周囲にあるのは多数の機器。

機器の塊の中心付近に設置されている端末を操作し『防護服』の一覧を表示させる。


「えっと……アマンダだから……『衝撃吸収型』で大丈夫だな」


 そう独り言を言いつつケイはその文字列を選択する。

 その瞬間、周囲の機器の海の中から数多のアームが飛び出しケイの体を包み込む。

 ケイが廊下の壁の内側へと収納されてから数分後、再び床が回転しケイが元の位置へと戻って来る。 

 そしてその小部屋から出てきたケイの体には金属製の防護服が装着されていた。

 防護服と言っても見た目はそれほど頑強な物ではなく、全身にぴったりと張り付くように装着されたそれはどちらかというとライダースーツのような印象を受ける。

 だが、こんなものでは時速百キロ近い速度で物体がぶつかってきても内側にいる生身の人間は怪我一つしないほどの構造が組み込まれている代物だ。

 防護服を着たケイはその状態で軽く体を動かし、異常がないかどうかを確認し始める。


「さて、行くかな」


 一通り確認が済んだケイは足早にアマンダの部屋へと向かって行く、そして現状の確認のために通信機器へと意識を傾ける。


「エマ、アマンダの様子は……「うぎゃぁっ!」


ドンッ!


「ア、アマンダちゃん……落ち着いてぇ……」

「ぃやっ!」

「……了解」


 返信の代わりに聞こえて来るのはアマンダの叫ぶ声とエマの狼狽する声、そして壁を叩くような大きな音だった。


 ドンドンドンッ!


 中でも壁を叩く音はさらに強さも回数も増し始めているようであった。


「アマンダがまた壁ドンをやり始めたか……」


 そんな音を聞きながらケイは苦笑する。

 アマンダは機嫌を悪くすると大声で喚く、手を振り回し始めると段階的に動きが激しくなり始めその次になると振り回した手で壁をドンドンとやり始める。

 そんな事はいつもの通りの段階を踏んでいる事からどうやらエマはアマンダを落ち付かせるどころかますます機嫌を悪くさせていく一方であることが分かった。



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