(25)
「カルロさんは大丈夫でしょうか……」
失敗という二文字は少なからず大きな波紋を呼ぶこととなる。
明確な根拠なしにむやみな改造を行ったとしてサイボーグの人権を保障する機関から呼び出しを受けてしまった。
あくまでも合法的に許可を取って行ったのだから違法ではないし罪に問われることもないのだが風当たりと言う部分では決して無視できるようなものではない。
アラクネの手術を決行した背景にはアラクネに対するただならぬ思いがあってこその結城の決断に他ならない。
だがそんな勇気も第三者からすればただの無鉄砲で予知能力に欠けた判断という評価と一蹴される。
現在、カルロが施設の責任者として様々な団体の方へと足を運び、謝罪やら説明を行っている所である。
責任者としての役割は果たすと言ったカルロの言葉は本当に嘘偽りのない物であり手術そのものに問題は全くなく、その後を予測出来なかった自分に全責任があるとして奔走してくれている。
カルロには本当に頭が上がらない。
「やっぱり手術をするべきではなかったんでしょうか……」
だがもちろんそれをただ受け入れているだけでは終わらないエマはそう呟く。
手術に直接かかわったエマはその持ち前の思いの強さから責任感を感じているようであった。
「そんなことない」
それにケイははっきりと反論した。
手術をしたことが間違っているわけはない、生まれた瞬間に六本足での生活を余儀なくなれ言葉を発する事も食事をすることも剥奪された子供にせめて人間としての体を取り戻してほしい、そんな思いが間違っているわけはないのだ。
だが、現実問題として喜べるようなことが起きていないと言うことは事実であるという事は変わらない。
今後の目標としてはまずアラクネに新しい体での生活に慣れてもらう、その為にアラクネの精神を縛り上げている固定概念を取り去らなくてはならないのだがその方法が全く思い浮かばない。
アラクネは一般常識で通用するような方法は通じないのだ、それほどの環境に長年置かれていたせいで常識こそが非常識となってしまっている。
「一体どうすればいいんでしょう……」
ケイやエマ、もちろんカルロなども含めたあらゆる人物と意見交換を行っても一般的な考え方しか沸いてくることはなかった。
どれほど考えてもある一定以上の考えで止まってしまう。
アラクネが何を考えているのかが分からない。
表示される文字を見れば快適であり何一つ不自由はないと本人が表示しているという事になるがその状態を見ると一日中車椅子に座り体に力が入っていないかのようにだらりとしているだけであり憂鬱そうな感じに見えてくる。
表示される言葉が本心なのかそれとも今までの生活というフィルターを通された結果、その表示を行うようになってしまったのかが判断できない。
「どうすれば、本当の心を見せてくれるのでしょうか……」
「本当の心……」
ケイは改めて考えていた、他者を完膚なきまでに拒絶する人間が心を開くときは何があったのか。
原因があるのだとすれば原因を取り除くことが最も早いがアラクネの場合はそもそも今までの人生そのものが原因と言ってしまっても過言ではない。
それを取り除くなど不可能に等しい、アラクネがアラクネになってしまう前の生まれた頃のアラクネがどのような人間だったのかを知るすべがない。
「せめて……サイボーグ手術をされる前の記憶でもあればいいんだけどな……」
ケイがぽつりと言ったその言葉。
ケイにしてみれば自分の思う理想をなんとなく口にしただけに過ぎない、だがそれを聞いた瞬間エマが叫んだ。
「それです!」
ずっとうなだれるような状態だったエマがケイの呟きを聞いた瞬間、突如として歓喜したかのような声を上げてケイの方へと詰め寄って来る。
「な、何?」
ケイが驚いてしり込みする中、エマは言った。
「人間だった頃の記憶を思い出させればいいんですよ!」
アラクネがアラクネになってしまう前、人間だった頃の記憶を思い出させれば心の根幹部分の本心が現れてくる。
その考えには一度至ったことがある、だがそれは不可能という事で意見は流されてしまっていた。
「無理だよ、アラクネは恐らく生まれた瞬間に手術をされたんだ」
アラクネの神経系を調べた結果、誕生と同時に脳だけを取り出されそれ以来機械の体で生きてきたという結論が出されている。
アラクネは一度も人間の体という物を体験したことがないのだ、人間の頃の思い出など一切持ち合わせていない。
よって人間の頃の思い出はアラクネは持っていない、誰もがそう思っていた。
だがエマはその先の部分を見通していたのだ。
「アラクネは生まれてからの記憶は確かにないかもしれません、でも人間は生まれなくても人間の時期があるじゃないですか」
「……どういうこと?」
そしてエマはその意見をケイに伝え始めた。
それを聞いたケイも、そこから話を伝えられた各方面の人間もその常識の一歩先に踏み込んだ考え方に度肝を抜かれたのは言うまでもなかった。




