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(2)


「よいしょっと……」


 施設へと戻ってきたケイは玄関の前で抱きかかえていたシェリルを下ろす、その様子からはかなりの疲弊した様子が見て取れる。

 サイボーグは機械という立派な金属の塊が体と一体化しているためその重量はかなりのものとなっている。

技術の進歩と共に比重の軽い金属が使われるようになったとはいえ単に抱っこするだけでも十分な力仕事になる。


 下ろされたシェリルは機械の右足と生身の左足というアンバランスな体によって若干不安定な立ち方をしてはいる物のしっかりと二本足で立って歩き始める。

 そのまま施設の入り口の方へと向かってよちよちと歩くシェリルと並んでケイも歩幅を合わせて歩いていく。


 そして入り口に入る直前でシェリルは立ち止まって元気よく答えた。


「た、だまぁ!」


 シェリルの改造は身体の中心を境にして右が機械、左はそのままという形状になっている、もちろんそれは顔も例外ではない。

 シェリルの白い肌もさらさらとした白髪もあるのは左半分だけであり右半分には光沢を持った人工皮膚と繊維状の人工頭髪に置き換えられている。

 その左右非対称のアンバランスな改造によってシェリルは歩くこともしゃべることも苦手としている。

 その結果、今のように発音も活舌も悪い声となってしまっているのだ。


「はい、よくできました」


 それでもそれがシェリルにとっての「普通」である、それを分かっているケイは何も言うことなくただいまを言えたことをほめる。


「さ、じゃあお部屋に行って先生に検査をしてもらおうね」

「ぁぃ」


 ケイにそう言われたシェリルは一人で廊下を歩いて行って検査機器のある部屋の方へと向かっていった。


 ケイが働くこの施設「改造児保護施設」にはシェリルの他にも数多くの子どもたちが暮らしている。

 その全てに共通しているのが「全員の身寄りがない」ということ。


 改造人間サイボーグの技術が世の中に出回り始めるのとほぼ同時にそれを悪用しようとする輩もまた世の中に現れ始めた。


 彼らが目的としているのは「新しい改造技術」の開発。

 既存の医療では絶対に不可能であった、新しい手足を取り付ける、弱った臓器を機械で代用する、人工筋肉で筋力を取り戻すなどの発明は多くの人間の生活を助けることを可能とした。

 同時にそれによって発生した莫大な利益もまた無視できないほどになる事も容易に想像できる。


 新たな方法が生み出されるにつれてそれを求める人間は必ず存在し、考案した人間は一瞬にして救世主の存在へと成り上がる。

 そしてその地位は正しい方向ではなく、負の方向においても存在する。


 改造人間サイボーグの技術が広まり始めた頃から裏社会においては、皮膚の下に鉄板を埋め込む、既に大量の筋肉を保持している物に余剰な人工筋肉を与えるなどの違法な手術が蔓延し始めるようになる。

 現在は改造人間サイボーグ用の防衛機関さえも発足されているほどに社会問題と化してしまっている。


 だがその違法な改造も明確な理論の元で作られた物であり、明確な技術開発の過程が必ず必要となる。

 だがもちろん社会から逸脱した技術開発が公に作ることは出来るわけもなく違法な技術を完成させるために「人体実験」と呼ばれるものが繰り返されている。


 いくら改造の理論が完成したところでそれを実際に試してみなければ成功なのか、あるいは何かしらの欠点があるのかの判別は出来ない。

 その為に人身売買や誘拐などによって無理矢理に人間に手術を行うという行為が社会問題となっているのだ。


 中には子どもに対して手術を無理矢理に行い、人ならざる姿にしてしまうような輩さえも存在する。

 そのような行為は「改悪」と呼ばれ最も忌み嫌われている行為。

「保護施設」とはそんな人身売買などの被害にあった人たちを保護し、生活を送れるように支援する施設なのである。

 中でもケイが所属するこの施設は「改悪」だけに限定して保護しているという極めて珍しい施設なのだ。


 先ほどのシェリルは自分の両親がどんな人だったのかほとんど覚えていない。

 本当に小さい頃に誘拐されたのか、あるいは両親に売られたのか、それすらも今となっては分からない。

 いずれにしてもまともと言えるような人生を送ることが出来なかったのは確実である。


 シェリルが受けた「改悪」は左右非対称の改造。

 身体検査を行った結果、脳も臓器なども含めた全てが右半分だけ取り除かれており、代わりに機械で置き換えられていることが判明している。

 もちろん常識的に考えて、縦に半分機械にするという行為はありえたものではない。

 改造の理由は恐らく単に縦半分に機械化したらどうなるのか、という欲求を満たすためだけに行われたのだ。

 そんな子どもたちに人らしい生活を送ってもらいたい、そんな気持ちでケイはこの施設に勤め日々を過ごしているのだ。


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