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その時彼女が現れた。


「何を騒いでいるんですか!」


 金属音と動揺の声で収拾がつかなくなっていた室内の空気がその一括で静まり返り、全員の声がその源の方へと向けられる。

 そこにいたのはエマであった、その手には個室へと運ぶ途中のヘレンが抱きかかえられており、ちょうど運んでいる途中で騒ぎを聞きつけ訪れたのが見て取れる。

 エマの一喝を聞いた途端、打ち合っていたアマンダとドナは一瞬で大人しくなる。


「エ、エマお姉ちゃん……」

「えふぁ……ぐっ……ひっく……」


 そして二人とも、特にアマンダの方は罰が悪そうに下を向きながら大人しくなり、ドナはその場で泣き始めてしまう。


「う、ぅぅ……」

「ぇーん……」


 そんな二人と合わせるようにして室内にいた別の子供達も一喝で驚いたのか泣くような声が聞こえ始める

 それもそのはずである、今までもエマがこんな風に声を出して怒ったことなど一度もなく子供達からしてみれば「優しいお姉ちゃんが怒った」という状態になっているのだ。


 そしてエマはシェリルを抱きかかえたままアマンダとドナの方へと近づいていく。

 エマの着ている防護服は服の下の簡易的な物だけでありアマンダやドナの改造からすると危険なのだがすでに場の空気を掌握しているエマにとっては問題にすらならない。


「アマンダ、こっちにいらっしゃい」


 一喝とは一転、エマは優し気な声でアマンダに向かって言った。


「ちっ……ちがうもん……私……」


 するとアマンダは下を向いてぼそぼそと言い訳を始める、怒られると思った子供の反応としては当然のものだ。

 そんなアマンダの態度に対してエマが取ったのは。


「大丈夫、怒らないからお話だけ聞かせてくれる?」

「ほ、ほんとに……?」

「ただし、ちゃんとアマンダからお話ししてね」

「……うん」


 そしてエマはそのままドナの方へと近づいていく。


「ドナちゃんも後でお話をしてくれる? 怒らないから」

「……(こくり)」


 ドナは少しの沈黙ののちに黙ってうなずいた。


「ちゃんとお返事してくれないと約束できなくなっちゃうかも?」


 だがそれだけではなくエマは少し意地悪気にしっかりと返事をするように促した。


「……はぃ」


 するとドナは小さな声で俯きながらもそう返事をした。


「はい、分かりました、じゃあ後でお話を聞かせてね」


 返事をしたドナに対してエマもしっかりと返事を返しながら戻っていく。


「じゃあ、アマンダちゃんこっちにおいで」

「う、うん」


 そう言ってエマはヘレンとアマンダを連れて部屋を出て行った。

 先ほどまでの大騒ぎから一転、エマはたった一人でその騒ぎを沈めたのだった。


 そしてヘレンを部屋まで送り届けたエマは空いた部屋へと映って二人きりで対面していた。

 どちらかというとアマンダの方が本当に怒られないのか内心びくびくしているようにも見える。


「アマンダちゃん、何があったのか教えてくれるかな?」

「……うん」


 返事も怯えているのか短絡的な物ばかりである。


「ごめんなさい……」


 アマンダが最初に言ったのはその言葉であった。

 それも当然である、「怒らない」などと言ったところでどうせ怒られるのは目に見えておりしかも明らかに自分の方が悪いという自覚をアマンダは持っているのだ。

 それならば最初から悪いと認めてしまった方が良い、そう考えるのは子供心ながら当然の摂理である。


 だがエマが聞きたいのは謝罪の言葉ではない。

 アマンダがどうしてドナをいじめるような事を言ったのか、その理由なのだ。

 今までエマはいう事を聞かない子は話を聞かないとばかり思っていたが、ケイの話を聞いて改めて良く考えなおしたらアマンダは素行自体は悪くない子であると気が付いたのである。


 確かにアマンダは以前にも同じような事をしてエマが「今度からはやっちゃいけません」と叱ったことがある。

 だが夜中に勝手に歩き回ったり、何かをしましょうという時にはなから放り出すようなことはないのだ、アマンダが悪い子になるのは他の子に対してだけなのだ。


「どうしてドナちゃんをからかうような事を言ったの?」

「…………」


 そこを付かれたアマンダは大人しくなってしまう。


「…………」


 その沈黙の中でもエマは自分から掘り返そうとしようとはしない、よく見ればアマンダは視線を激しく動かしている。

 単に無視していれば視線は外れたままあらぬ方向を見続けるものだがアマンダの視線は何かを探しているかのように部屋のあちこちを飛び回り時にはエマと一瞬だけ目が合ってはすぐに逸らすという事を繰り返している。


 今のアマンダは言葉を探しているのだ。

 必死に自分の気持ちを言葉にして外へと出そうとしているのに自分からそれを無理矢理広げようとしたところで意味はない、自分から再び閉じこもってしまうだけだ。

 そして数分にも及沈黙ののちにアマンダはようやく口を開いた。


「いや……」

「嫌なの……?」

「……うん」


 アマンダが小さく言った言葉はそれだけだったがエマはそれを零さないようにして拾い集めていく。


「ドナが嫌いなの?」

「……だって、ドナちゃん、無視する……」

「そっか」


 そこでようやくエマはアマンダの心が分かり始める。

 アマンダは単にドナと仲良くしたいだけなのだ。


 だがドナは心を閉ざしてしまっており、周囲の人たちとも挨拶すらも全くしないほどの状態となってしまっている。

 それはきっとアマンダも例外ではないのだろう、アマンダが仲良くなろうといろいろとしたところでまるで無視するかのようにそっぽを向かれては気分がいいわけもない。

 それが長く続いた結果、アマンダの中では仲良くなれない自分への怒りや話を聞いてくれないドナへの怒りが蓄積され手が出るようになってしまったのだ。


「ドナちゃんもひどいね、せっかくアマンダがしてあげているのに」


 エマはアマンダの気持ちを受け止めるべくそう答えた、実際挨拶を全く返さないドナの態度の方が原因と考える事も出来る。

 エマは一旦アマンダの言っていることが間違っていないと認める。


「そうだよ……ずるい」


 するとアマンダは少しだけ緊張がほぐれたのか口調がいつものように戻り始め、さらに自分から言葉を口にし始めた。


「皆、ドナは静かでいい子だって……私ばっか……」


 アマンダはこの施設で一番自分勝手な子であると職員の間でも認知されている、それはアマンダがいう事を聞かないからである。

 だがたどたどしく語られるアマンダの訴えを聞いてエマは今まで自分が何も分かっていなかったことを自覚した。

 自分がどれほどまでに物事の表面しか見ることが出来ていなかったのか、改めて考えればそれは火をみるよりも明らかな物であった。


「アマンダ」

「えっ」


 エマは椅子から立ち上がると一通り語り終えたアマンダの隣へと向かい、その目をしっかりと見て言う。


「これから一緒にドナの所に行って仲直りをしましょう」

「……いや」


 エマの提案を聞いたアマンダは首を横に振る、喧嘩した相手ともう一度会うほど気まずく気の乗らないことは他にない。

 だがエマはこう諭した。


「謝るだけが仲直りじゃないの、相手と言い気持ち同士になれるのが仲直りっていうのよ」


 ただ誤った謝らない、どっちが悪い悪くないといった事をしたところでそれは表面上の解決にしかならないのは明白である。

 ならば最初からお互いに言いたいことを言ってすっきりさせた方がよっぽどいいのだ、特に子供同士の間ならばなおさら。


 もちろんサイボーグ同士という事はある為本当に好き勝手させるわけにはいかないがそれでもこの方法を使えばうまくいくのではないかとエマは確信していた。


 そしてしばらく嫌がっていたアマンダも折れ、二人でドナの所へと向かって行く。




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