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 それからしばらく経って。

 結論から言うとエマは何かとうまくいっていた。

 ケイを呼び出す回数も明らかに減っているだけでなく顔が綻んでいるというか柔らかな雰囲気でいることが多くなったように思える。

 ケイもそんなエマの変化には嬉しさを思いつつ日々を過ごすのであった。


 そしてそんなエマがそんな変化をしたという事が段々と定着し始めた頃、まるで見計らったかのようなタイミングで大事というか事件が発生することとなる。


 その日、ケイとエマはたまたま一緒の作業を割り当てられる事となり、キッチンで二人きりとなっていた。

 だからと言ってこの時点では特に何かがあったわけではない、二人でそれなりに会話を交えつつてきぱきと食事の準備に勤しんでいただけである。


 キッチンでの食事の準備と言っても一般的に想像されるようなまな板やコンロのような調理器具は一切置かれていない。

 代わりに置かれているのは大量の棚。

 出入り口のある面を除いた残りの三方を埋め尽くしているその棚の中にはおよそ食事には似つかわしくない注射器のような物体や透明なビニール製のチューブ、食欲をそそらない見た目の液体などが所狭しと並んでおり、その光景はまるで怪しげな研究室のようにも見える。


 だがここにあるのは全て子供たちの「ご飯」なのだ。

 サイボーグももちろん生体の部分が少なからずある以上食事によって活動の為のエネルギーを摂取する必要はある。


 だが人間とは異なりは毎日の食事は必要としない、体内に貯蔵用のタンクがありそこに入った食事を必要な分だけ少しずつ消化するためである。

 例えは悪いが原理としては動く分だけ消費する燃料のようなものである。

 よって食事の準備と言ってもその子供にあった栄養素の含まれてた栄養剤やナノマシンの入った注射の準備であり食事と言うには程遠い。


 そんな部分も改善していきたいと思っているのだが人工臓器を子供たちに移植するためには予算も技術もまだまだ不足しているのが現状なのだ。


「今日って昼の食事は誰だっけ?」


 棚に入っている液体類の種類を見ながらケイはエマに尋ねる。


「えっと……『ヘレン』と『エステル』です」


 聞かれたエマは壁に掛かれた予定表を見ながらそう答えた。


「じゃあ今日は見た目の統一はできそうだね」

「そうですね、あの子達は臓器がありますから……人工ですけど……」


 生体の臓器が残っていれば通常の人間と同じ食事は出来る。

 だが中には全て人工臓器に置き換えられてしまっている子やそもそもそれすらもない子もいるのだ。

 そんな子は科学的に合成されたタンパク質性の肉やビタミンなどの栄養素だけを抽出して難消化性糖質で固め着色料で色を付けた野菜などで出来た「サイボーグ食」、単にナノマシンを体内の管に通すだけと言った物が食事となってしまう。


 そんなものは人間の味覚にしてみればマズイ以外の何物でもない。

味など全くないに等しいうえに風味も触感もないので「食べられる食品サンプル」みたいな状態となっている。


 だが、それでも今回の二人ならば取りあえず見た目を同じように調節する事は出来る。

 昼食のメニューであるご飯に汁物、白身魚の煮物に人参とほうれん草のソテー、デザートにはゼリーが付いており二人とも子供の給食としては申し分ない見た目となっている。


 最悪なのは一人が生体の臓器があってもう一人は臓器がないという状態の時である。

 湯気が立って美味しそうな香りを放ち、実際美味しいと断言できる料理を食べている一方でもう一人は注射をして終わりというのはかわいそうを通り越してなんとも言えない無情な気持ちになってしまう。


「サイボーグ食の方は見た目は悪くないんだけど味がなぁ……」


 食器に綺麗に盛り付け終わった後でケイがそう呟く。


「そうですね……」


 ケイの呟きにエマも同調したように言う。

 以前、ケイが試しに食べてみたことはあるが味すらしない完全な無味無臭の物体だった、これを食事と言い張るのは流石に無理があると言わざるを得ない。


「……子供達的にはどうなんだろうな」

「サイボーグは味を感知できないって言われてますけど……」


 味覚というのは人間の五感の中でもかなり複雑な部類に入る、サイボーグ手術を受けただけで味覚が全く変わってしまったという事例も珍しくないほどにデリケートな感覚なのだ。

 ましてや半分以上機械化しているのが当り前のここの子供達からしてみれば味という感覚自体がないと考えるのが自然である。


「味が分からないっていうのもなぁ……」

「ですね……」


 味が分からないのならいくら見た目が良かったとしてもそれはただの栄養補給という行為に過ぎない。

 その辺りも改善していきたいとケイとエマは切に願っているのであった。




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