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 彼女には体の右半分がない、それにも関わらず彼女は生きている。

 それは幸せと言えるのだろうか。



 人通りの多い街中で小さな女の子と男が歩いている。


 女の子の名前はシェリル、さらりとした銀色の髪をなびかせ色白の肌に藍色の瞳を持つその姿はまるで人形のような美しさを放っている。

 男の名はケイ、若々しさをまだ残す顔立ちをしていながらも隣のシェリルと比べれば明らかに大人という印象は存分に持っている。


 そんな二人はお互いに手を繋いで歩いており、ときおりシェリルがケイの方へと顔を向けてはにっこりと笑みを浮かべ、受け取ったケイは慈愛に満ちた表情でそれに答えていく。


 とても仲睦まじそうな雰囲気を持っている二人へと向けられるのは大小さまざまな奇異の視線。

 二人は兄弟というには余りに歳が離れており、親子というには余りにも歳が近すぎるのだ。


「…………」


 そんな視線には慣れているケイは気にしない素振りでそれに答える、だがそれでも内心では様々な感情が湧き上がってきているようでありそれを完全に抑える事は出来ずほんの少し体にも力が入ってしまう。


 と、その時ケイは自分の手に外側からの微かな力が加わっている事を感じ、そちらへと目を向けた。


「お、に……ちゃ……」


下を見るとシェリルが心配そうにケイの右手をきゅっと握り占めているのが見え、その視線も何処か潤んだような煌めきを放っている。

 ケイの体が微かに強張っていることに気が付いていたシェリルが何かあったのか心配しているのだ。


「大丈夫だよ、心配してくれてありがとう」


 その姿からシェリルが自分の事を心配してくれている事を読み取ったケイはその場にしゃがみ、シェリルと目線を合わせた上で言った。

 そしてケイは左手に下げていた荷物を肘の方へと掛けて左手を開け、そのままシェリルの頭を優しく撫で始める。

 ケイの手からはシェリルのさらさらとした長い白髪の感触が伝わって来る。


「ふにゅ……」


 ケイに頭を撫でられているシェリルは声にならないような吐息を漏らしはじめ、次第にその透き通るような白い肌がほのかに赤く染まり始めていく。


 これはシェリルが嬉しさを感じている時の癖だ。

 シェリルは撫でて貰って嬉しいと感じてくれている。


「よし、じゃあご褒美に抱っこしていこうか」


 どのみち施設まではもうすぐである、少しぐらいならば大丈夫、そう判断したケイはシェリルのわきに右手を入れて持ちあげ、左手をおしりの下に入れて胸の前で支えた。


「さ、帰ろうか」


 シェリルにそう告げながらケイはシェリルを抱っこしたまま再び街中を歩いていく、もちろん先ほど以上に奇異の目線が増えたのは言うまでもない。


 幼女と二十代の男が手を繋いでいたかと思えば抱っこし始めて歩き始めるという光景は奇異な光景と言えるだろう。

 だがこの時向けられていた視線は成人男性が幼女を抱っこしているという状況に対しての視線ではないと百パーセント断言できる。


 その奇異の目線、差別や嘲笑も少ならず含まれているであろう視線の全てはケイではなくその腕の中にいるシェリルの方へと向けられているものなのだ。



 街中から離れていくにつれて人の数は減り始めそれに沿って目線の数も徐々に減り始める。


 向けられる視線の重圧が減り始め気も少しずつ楽になり始めてきた頃、ケイとシェリルの前方に大きな建物が見え始めてくる。

 高さとしては三階建て程度であるが敷地の面積はかなりの物であり遠目から見ると何かの研究所の様にも思えてしまいそうなほどである。


 門をくぐり中に入ると大きな広場が広がっておりどこか学校のような雰囲気も持っている。

そのまま広場を横切っていき、ケイとシェリルが建物の入口付近に近づいて行った時、建物の入り口付近に掃除をしている一人の女性の姿があった。


「ぅあ! たっ……らまぁ!」


 それを見た途端、ケイの腕の中のシェリルがその女性の方へと手を伸ばしながらバタバタと動き始める、どうやらそっちへ行けと言っているらしい。


「分かった分かった、あんまり暴れるな!」


 ケイは腕の中でもがいているシェリルを落とさないように注意しながらその女性の方へと向かって行く。

女性の方も二人の姿を見つけたのか二人の方を見ると優し気な笑みを浮かべながら手を振り返してきた。


「シェリルちゃん、おかえりなさい」

「た、だまっ!」


 女性に声を掛けられたシェリルは再び元気よく声を上げる。


「シェリル、お話するのは一回お部屋の方に入ってからだぞ~」

「ぁい」


 ケイはそう言ってシェリルを抱えたままその場を離れていく、抱きかかえられたシェリルもケイのいう事を素直に聞いて暴れたりすることもなく大人しくなっている。


「またね、シェリルちゃん」


 そんなシェリルに向かって女性は手を振って見送る。


「ば、ばぁい!」


 それが見たシェリルも手を振り返す。

 そこには小さなシェリルを中心とした穏やかな光景が広がっているように思える。


 だがシェリルには体の右半分がない。

 もちろん右半分がなくては生きていられるわけがないのは当然である、それなのになぜ彼女は生きているのか。


 それは彼女が「サイボーグ」だから。

 シェリルは体の右半分が機械、左半分は生身の体という機械と生物の組み合わさった体を持ったサイボーグとして生活をしている存在なのだ。


改造人間サイボーグ

 それは事故などによって失われたり老化などで機能が衰えた人間の身体部分を機械部品によって補うことによって元の機能に近い性能にまで戻すサイボーグ手術を受けた者の総称。


 発展した科学によって完成されたその技術は多くの人間の命を助け、人らしい生活を送る上での大きな助けを生みだした。


 しかし、その恩恵を受けるために使われた代償がどれほどの物だったのかを正確に知る者は少ない。


 ここは人間が多くの恩恵を受けるためにその犠牲となった子どもたちが住む場所の物語である。


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