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第48話

「クライ・インパクト!! ステップ!!」


 父上の合図の直後、僕は魔法を放ちながら全力で後退した。

 グラン殿はこの国で最も有名な騎士の一人だ。その戦い方を僕は知っているが、その上でグラン殿相手に一番やってはいけないことは、距離を誤ることだ。ある一定の位置をキープし続けなければ、まともに攻撃することすらできないだろう。逆に言えば、それができれば、僕にも勝ち筋が見えてくる・・・・と思う。


「フンっ!!」


 僕が後退した直後、僕がいた場所には大剣が突き刺さっていた。僕の放った魔法を切り伏せながら突っ込んできたのだろう。その体にはすでに赤、黄、緑、紫の魔力を纏っていた。グラン殿の得意とする、複数属性の同時展開、それも詠唱をほとんど気取られないほど素早く唱えている。

 10メートルなど、グラン殿にとっては一瞬で縮められる距離。近づかれれば、あの虹天架による剛剣が襲い掛かってくるだろう。魔力による強化と、属性魔法による強化が重ねられた剣戟は、一撃受けるだけでもこの鎧が砕けかねない。さらに言うなら、強化魔法の恩恵か、近づいてくるスピードも尋常じゃない。距離を取らないと、こちらは防御の姿勢を取ることすら難しい。

 僕は足に魔力を巡らせつつ、グラン殿の「射程距離」から逃れつつ移動する。


「・・・・・私の戦い方を知っているようだな。だが・・・・」


 僕は距離を取り過ぎないように走っていたが・・・・・


「そこは「こっち」の間合いだ。・・・ミド・アレク・ウェーブ!!」

「!?」


 しまった、距離を取り過ぎたか!!

 やはり、伝聞だけの知識では無理があった・・・・そう思った、次の瞬間、僕の視界は水の壁と稲光で覆われた。


「くっ!! ショック・ブラスト!!」


 僕は尚も後ろに下がりつつ、自分の周りに強い衝撃波を発生させる。ショック・ウェーブの強化版であり、近づく者に衝撃を浴びせつつ身を守る攻防一体の魔法だ。おかげで、雷を帯びた水の壁も吹っ飛ばすことに成功したが・・・


「ミド・フレアスド・ウェーブ!!」

「またか!!」


 今度は火と土と風の複合だ。炎を纏った岩が雨あられのように降り注ぐ。しかも、風によって炎の勢いと岩のスピードも上がっていた。まるで火山の噴火が起きたようだ。だが、これはさっきの攻撃よりも対処は簡単だ。


「ミド・ショック・アブソーブ・・・跳甲!!」

「・・・・・アド・アイク・ブラスト」


 僕は自分の体だけに衝撃耐性の魔法をかけつつ、盾を大きくかつ軽くする。そして飛んでくる岩を盾で斜めに受け止め、その衝撃を強化して、僕自身を弾き飛ばす。頭上ギリギリを巨大な氷塊が通り過ぎていくのを感じつつ、僕は蹴とばされた石ころのようにその場から大きく移動し、着地した際の衝撃をさらに強めてグラン殿の方にはね跳んだ。跳甲は相手から与えられる衝撃を地面に流して移動に使う魔技だが、今のように緊急脱出する時にこそ輝く技だ。ただし、相手側の力があまりに強い場合はどこまで自分が飛ばされるか分からないので注意が必要だし、空中にいるときは衝撃の逃げ場がなくなり使えない。


「土を混ぜたのは失敗だったか」


 氷塊が砕け、僕のすぐ後ろの地面まで真っ白に凍り付いたのを尻目に、グラン殿がぼそりと呟く声を聞いた。3種類の広範囲にわたる複合属性魔法を撃った後、間髪入れず動きを奪う上級魔法まで使ってくるとは・・・・ああして僕の移動に利用された以上、もう盾で弾ける遠距離攻撃は撃ってくれないだろう。だが、遠距離攻撃を行うであろうおおよその距離は掴めた。後は、間合いを今より縮めるだけなのだが・・・それが難しい。


「だが、これならどうだ?・・・ミド・アース・ソーン」

「うわっ!?」


 再び土属性の魔法。しかし、今度の魔法は僕の足元から襲い掛かってきた。大人が二人がかりで抱えられるくらいの岩の円錐が僕を弾き飛ばそうと迫ってくるが、僕は地面から伝わってくる振動を頼りに回避する。盾で防げないなら回避しかないが、これではこの場から動けない・・・いや、待てよ?


「アド・アース・ソーン!!」


 中級魔法から、上級魔法に手が変わった。上級魔法など、喰らえば一巻の終わりだ。だが、これはチャンスでもある。

 このようにグラン殿が地面からの攻撃に集中している間は、前方からの攻撃は薄くなるはずだ。なにより、僕は岩の槍が出てくる場所とおおよそのタイミングを察知できるのだ。


「ここ!!」


 地震でも起きたように辺りが揺れる中、僕は一際揺れが激しいポイントのわずか前方を踏み込む。


「ハイ・ステップ!!」


 次の瞬間、地面から突き出してきた円錐の側面を蹴り飛ばし、次々と生えてくる岩のランスの先端ギリギリを掠めて一気に魔法の攻撃範囲から抜け出す。

 よし、これで一気に近づけ・・・・


「その魔法をそんな避け方をしたのは君が初めてだ・・・・・アド・アーク・ウェーブ!!」

「ちょっ!?」


 岩の林を抜けた僕に襲い掛かるさらなる魔法は、土と水の複合魔法、それも3回目の上級魔法だった。岩をいくつも抱えた濁流が、僕の足元を目がけて流れ込んできた。岩の格子で動きを制限したところに水攻めって、これ、今みたいにジャンプしてなかったら詰んでたじゃないか?

 えげつないコンボに戦慄しつつ、僕は流れてくる岩に飛び移ろうとしたが・・・・


「ミド・アイクド・ウェーブ」

「!!?」


 続いて放たれた凍てつく風によって、僕が飛び移ろうとした岩の動きが止まり、僕は氷の上に不時着する。その勢いのまま、氷の上でツルツルと滑り、転がる岩に強かに背中をぶつけた。僕はその衝撃を弱めよとしたが・・・・


「大断ノ弐式・琥翠」

「・・・くっ!?」


 ゾッと背筋に悪寒が走り、咄嗟に僕は衝撃を強めた。

 岩に弾かれたように跳ねる僕とタッチの差で、轟という空を切る音とともに大剣が振り下ろされ、大岩を落としたようなズドンという衝撃が走り、風が辺りを駆け巡った。

 その風に押され、僕とグラン殿の距離が開く。


「おおおおおおおお!!」


 衝撃耐性を付与してるのに、飛んでくる礫がやけに重く、ビシバシと当たってかなり痛い。しかし、体ごと吹き飛ばされながらも、僕は剣を思いっきり地面に付きたててこれ以上吹き飛ばされまいと抗う。盾も限界まで大きくした上で重くする。ここでさらに距離を放されれば、さきほどの焼き増しになるだけだ。


「くぅぅぅう!! インパクト!!」


 地面に突き立ったまま、僕の剣はガリガリと音を立てて大地を削って、僕を運ぼうとするが、塚頭に魔法を当ててさらに深く突き立ててやると、ようやく動きを止めた。同時に、吹き荒れていた風も止む。

 見れば、グラン殿の大剣が振り下ろされた場所は転がっていた岩も氷もすべて払いのけられ、平になっていた。グラン殿はさきほどの強力な魔技の反動か、未だに剣を振り下ろした体勢のままだ。今が好機とばかりに、僕はおおまかにグラン殿と自分の距離を測った。


「ここなら・・・」


 図らずも僕がベストポジションにいるのを把握するのと同じく、グラン殿と、剣にしがみつく僕の目が合った。


「インパクト!!」

「む・・・」


 開幕の一撃以来の、僕からの攻撃。

 特化型の下級魔法は並の中級魔法にも迫る威力があるが、グラン殿は剣で僕の魔法を弾き飛ばす。

 その隙に、僕は剣を置き去りにして再び移動する。ただし、後退も前進もせず、グラン殿を中心に円を描くようにその場を離れる・・・・・・偶然とはいえ、この位置につけたのならば、その利点を最大限に使うしか勝ち目はない。


「やるか・・・」


 武器を手放しても、その時点で負けにはならない。僕にはまだ槍があるし、今は腕に着けた盾があればいい。


「・・・・・」

「インパクト!! インパクト!!!」

「ぐ・・・」


 僕の動きを目で追っていたグラン殿が口を開こうとしたが、その前に僕は魔法を連発して妨害する。

 僕のインパクトは下級防御魔法くらいならば容易に貫通して内臓にダメージ与える。トロールのように分厚い脂肪のない人間にとっては完全に無力化することは難しい魔法なのだ。

 そんなことを考えながらも、僕は足を止めずに走り続ける。


「・・・ならば」


 グラン殿は一瞬、足に力を込めると、一足跳びに僕の方に突っ込んできた。

 魔力による強化と、火属性の筋力強化、雷属性による神経の伝達速度の強化、風属性による移動速度強化によって文字通り一瞬で僕の目の前に大剣の切っ先が現れる。だが、距離を取っていたおかげで、僕もその行動に対応する準備ができていた。さっきと違って、動き回る僕を捉えるために放つ魔技。素早くかつ僕の動きを封じる効果を持つ魔技が来るはずだ。


「断ノ弐式・紫翠」

「反甲!」

「むっ!!」


 紫電と疾風を纏った刃を、僕は構えた盾で受け止め、その衝撃を跳ね返す。

 純度の高い魔鋼は特別な術式がなくとも、それそのものが電気や熱に対して強く、雷属性を受けても即座に感電することはない。シルフィさんが改造した盾は、元々僕の使っていた盾を取り込んでいるが、その盾も魔鋼と化していたおかげでこの盾も100%の純魔鋼製だ。

 魔技を跳ね返したことで、わずかの間僕は固まってしまったが、剣を握る手に自分の力と僕の力を跳ね返されたグラン殿は、僕よりもほんの少しだけ長くその動きを止めていた。未だに剣を手放してはいないが、かなりの痺れが走っているのは間違いない。僕は盾を小さく、かつ重くする。


「打甲!!」

「くっ!?」


 先に体勢を立て直した僕は、グラン殿の剣に最大まで重さを増した盾で魔技を放つ。

 反甲には耐えられても、裏拳のように打った二発目の魔技には耐えられなかったようだ。

 グラン殿の手から剣が離れ、最強の騎士は丸腰となった。


 今が最高のチャンスだ!!


「打甲!!」

「ウィンド・ステップ!!」


 三発目の魔技を放ったが、当たる前に魔法で逃げられた。だが、まだ魔法は撃てる!!


「クライ・インパクト!!」

「アースド・ウォール!!」


 追撃のために撃った魔法は、風を纏った岩壁に阻まれた。渾身の力で放ったクライ・インパクトはその防御魔法を粉々に砕いたが、グラン殿との距離が大きく開いてしまった・・・・しょうがないのでグラン殿が落とした剣に全力で振動のエンチャントをかける。これで魔法の効果が切れるまで、僕以外にこの剣を持つことはできないだろう。

 そこで、後退していたグラン殿は不意に立ち止まると、口を開いた。


「・・・見事だ。まさか武器を手放すことになるとは思わなかったよ・・・改めて、君に言った言葉について謝罪する。 君は、陛下が注目するだけある」

「あ、ありがとうございます!!」


 今まさに戦っている最中とはいえ、憧れの騎士にそんなことを言われて嬉しくないわけがない。

 僕は深く頭を下げた。

そんな僕を見て、苦笑してからグラン殿は続ける。


「しかし、君、中々いやらしい手を使うな。 私の戦い方を知っているようだが・・あのレオルの弟子とは思えん。レオルのヤツは策を弄するより、とにかく突っ込んでみるというタイプだからな」

「ははは・・・僕の師匠は二人いますから・・・・それに、実戦でモンスターと戦うのなら、弱点を突くのは当然だと思ってますし」

「ククッ、そうだな。実にその通り、正解だとも」


 グラン殿の表情が苦笑から、本当に可笑しそうな笑顔に変わる。

 グラン殿は策を弄すると言っていたが、僕のやろうとしていたことはそんなに大したことではない。グラン殿が、近距離は魔技、遠距離は複合魔法で戦うというのは有名な話であり、ならば魔技を打つにも魔法を放つにも中途半端な距離にいれば判断を鈍らせることができるのではないかと思っただけだ。

 魔法を使おうとしたら詠唱を終える前にタメのほとんどない下級魔法で妨害し、剣で来るようならば待ち構えてカウンターを叩きこむ。この国で音魔法特化型なんて僕ぐらいしかいないだろうし、僕はグラン殿の戦い方に関する知識があるが、グラン殿は僕の特性をよくは知らないだろう。故に、最初の一回が成功する可能性は高いと踏み、事実、それによってグラン殿のメインウェポンを奪うことができた。これで僕は近距離戦において大きなアドバンテージを手にすることができたということになる。

 だが、一度見せてしまえば、盾によるカウンターはもう通用しないだろう。これで、「打たせて取る」戦法は使えなくなった。いや、それよりもむしろ・・・


「さて、武器はなくなってしまったが、試験はまだ続いている。 少々大人げないが、私も本腰を入れさせてもらおう!!」 






「デュオさん、スゴイです・・・・」

「当然です。 デュオ様は、あの騎士のことをよく知っていますけど、デュオ様の戦い方を向こうは知らないでしょうから」


 結界で仕切られた外側、演習場で戦う騎士を見下ろすようにある観客席で、赤髪の少女と銀髪の少女がお互いの顔も見ずに言葉を交わしていた。二人の仲があまりよろしくないというのもあるが、今は眼下で戦う若者に集中しているからだった。シルヴィアは自分が改造した盾が使われていて嬉しそうだったが。


「っていうか、現役魔装騎士に一杯食わせたんだし、もう合格でいいんじゃないですか?」


 そこで赤髪の少女、リーゼが振り向いて、後ろに座っていた監督役、アインシュに物申した。

 銀髪の少女、シルヴィアも追従するようにコクコクと頷いている。仲がいいのか悪いのかよくわからない二人であった。


「・・・・私はあくまで不正を見極める監督役であって試験官ではない。ヤツの合否を決めるのはグラン殿の仕事だ。 見ての通り、まだ続けるつもりのようだがな」

「・・・・あの人、デュオさんの全力を見たいって思ってますね・・・・」


 アインシュにそう言われ、心を読んでみた結果、グランから見ればまだデュオは全力を出していないと思っているようだった。よくわからないチカラがデュオに悪影響を与える可能性もあり、リーゼは咎めるような目でシルヴィアを見つつ口を開いた。


「まあ、確かにデュオ様はまだ全力は出してませんけど、それはペース配分みたいなものですし。それに、向こうだって力を出してないのは同じ、いや、向こうの方がずっと手を抜いていたでしょうに」


 チカラの影響か、リーゼが暗に言わんとすることを悟って、シルヴィアは縮こまったが、リーゼもリーゼで気にはなっていたようである。

 実際、ハンデありとはいえ、グランほどの騎士ならばデュオを倒すことは造作もないだろう。デュオも体質上、かなりの戦闘経験を積んではいる。しかし、デュオが生まれる前から、騎士団でシークラントには現れないような凶悪なモンスターひしめく第一線を戦い抜いてきた経験には到底及ばない。

 グランは試験官であり、受験者であるデュオの実力を測るという義務がある故に、デュオは未だに立っていられるのである。もっとも、手を抜いた状態でも、並みの魔装騎士と同等の実力がありそうなのだが。


「相手も本気になるでしょうし、ここからは厳しそうですね・・・」

「デュオさん、頑張って・・・」


 二人の少女は祈るような目で盾を構える若者を眺めるのだった。







「ミド・エレクド・ショット!!」

「おわっ!?」


 今までの会話は魔力を溜めるための時間稼ぎだったのか、飛んできたのは雷、水、風の複合魔法だった。ショット系の魔法は威力はやや低いが、その分、魔法のランクが上がっても発動と攻撃速度が優れたままだ。僕は回避が間に合わず、咄嗟に盾で受け止めた。


「まだまだ!! ミド・エフレド・ショット!! ミド・エレクド・ショット!!」

「ぐぅぅ!! ミド・ショック・シールド!!」


 火・雷・風、水・雷・風・・・属性攻撃の嵐が襲い掛かり、たまらず僕は後退する。後退しながら防御魔法を放ち、僕の魔法とグラン殿の魔法が衝突して相殺される。その隙に、僕は走り出した。折角武器を使えなくしたのならば、近づいて接近戦を挑むべきだ。そのためにはこの魔法攻撃の嵐を凌がなくてはならない。

 グラン殿は、どうやらさっきまでのように範囲攻撃で攻めるのではなく、速さに重点を置いたピンポイント攻撃に切り替えたようだ。しかも、その攻撃のすべてが盾で跳ね返すことのできない無形のものばかり。幸い、素早く放つことを意識しているのか、威力はさほどでもないが、それでも下級魔法のように何発か喰らっても平気と流せる攻撃力ではない。というか、一体どんな魔力量と詠唱スピードをしてるんだ。早口言葉選手権とかあったらグラン殿は優勝間違いなしだろう。

 そんな下らないことを考えつつ、僕はハイ・ステップで一気に目的の場所まで飛んだ。


「ミド・エレド・・・・む」


 グラン殿が、一旦攻撃を止めた。

 僕が飛び込んだのは、さっきグラン殿が上級魔法による濁流を出した辺りだ。

 上級魔法だけあって、僕の背丈ぐらいの岩がいくつか転がり、さらにはその後放たれた氷の魔法で氷塊まで突き立っているような場所だ。しかも、濁流が放たれる前に上級魔法と中級魔法の地属性魔法が使われたのもあり、どこに出しても恥ずかしくない立派な岩場となっていた。威力を抑えた中級の単体狙いの魔法ならば凌ぐことができるだろう。魔装も、魔武器もないのならば、いかにグラン殿といえど上級魔法を乱発することはできないだろうし、この辺り一帯をまとめて吹き飛ばすような魔法を撃てば、流石に魔力を使い切るのではないだろうか。まあ、グラン殿がなんとかできるにしても、時間稼ぎはできるはずだ。本当にやばい攻撃が来そうならば、すぐに逃げよう。


「・・・ちょっとでも休みたいっていうのもあるけど」


 僕は転がる岩の一つにもたれて一息ついた。

 さっきから連発されている魔法は、ほぼすべてに雷属性が混ざっていた。しかも、スピードを上げる効果のある風属性とセットだ。あの速さで撃ち込まれたらいくらかは取りこぼすし、いくら大きくしたといっても、盾で受け続けるのも限界がある。おかげで、腕が若干痺れてしまっていた。おまけに、散々魔法や魔技を撃ったせいで魔力の減りもマズい。

 この盾に仕込まれていた属性耐性か状態異常耐性のどちらかでも機能していればもっと有利に立ち回れたのだろうが・・・ない物ねだりをしても仕方がない。僕がピックの魔法を使い、強力な魔法が来ないか、聞き耳を立てつつ腕をもみほぐし・・さらに、残り少ない魔力を使ってもたれている岩に仕込みをする・・・・武器を手放させたときのように、僕の情報を持っていないグラン殿だからこそ、通じる手がもう一つある。ジョージさんと戦っているときに思いついた対人戦用のやり方だが、それをやるにはタイミングが肝心であり、その機会を呼び寄せるための下準備だ。


「アース・ハンド」

「おっと!」


 魔力を込めていると、小さな声で詠唱とズズッという音が地面から聞こえ、僕は慌ててその場から飛びのいた。僕がその場から離れてすぐに、岩でできた腕が僕のいた場所から生えて、何かを握りつぶしたような形になっていた。


「これも躱すか」

「昔から、鬼に見つからないように隠れるのは得意なんです!!」


 先ほどの魔法は僕を見つけて、捕えるためのものだったのだろう。

 僕が岩陰から飛び出すと、グラン殿は僕から20メートルほど離れた場所で地面に手をついていた。さっきよりも近い位置にるのは、この即席の砦を攻略するためか、あるいは僕の位置を正確につかむためか。

 僕は転がる岩の上に跳ね上がって、かかとで岩を軽く叩いてから、飛び石を渡るように全力で岩を蹴って、グラン殿と僕の間に岩場となったエリアを挟むように移動する。


「・・・あった!!」


 探し物を見つけた僕は大急ぎで駆け寄る。

 僕は地面に突き刺したままだった剣のところまで行くと、引き抜いてしっかりと柄を握った。

 グラン殿相手に接近戦を挑むのならば、例え向こうが素手でも武器は必須だろう。それに、あの大剣をエンチャントで使えなくした以上、僕の剣を回収しようとしたかもしれなかった・・・いや、流石に試験でそこまでしないか? 僕が思案していると、トンッという足音と、濃密な魔力を感じた・・・これは、受け止めてはいけない!!


「アド・エレド・スティング!!」

「ミド・ショック・シールド!!」


 岩の上から、閃光が迸る。

 僕を追いかけている間に詠唱を済ませていたのか、いきなりの上級魔法だ。僕は中級の防御魔法を展開したが、光の槍は魔法の壁を紙切れのように貫いた。


「くそっ!?」


 僕は咄嗟に盾を外しサイズを大きく、軽くする。そして魔力の気配がする方に投げつける。盾はまばゆい雷と風の塊にぶつかり、派手にスパークした。その間に、僕は剣でガードしつつハイ・ステップでグラン殿の方に大きく近づく。


「ミド・エレド・ショット!!」

「クライ・インパクト!!」


 再び僕の魔法とグラン殿の魔法がぶつかり合い、相殺。

 目もくらむような光で一瞬目をつぶりながらも、僕は大地を蹴って前に進み、グラン殿との距離を縮める。視界を封じられても、僕にはまだ耳がある。先ほどまでグラン殿がいた位置に感覚を集中させれば捉えることは・・・・


「あれ?」


 グラン殿が乗っていた岩の上に、気配がない。地面に降り立った感じもしなかったから、まだ岩の上にいるはずなのだが、そこは無音であった。

 目を開いてみるが、人影もない。


「デュオさん!!」

「デュオ様!!」


 二人の少女が、思わずというように叫ぶ声が聞こえた。僕は声の主の方に顔を向けたが、そのとき、自分の方に降りてくる影に気づいた。


「蹴ノ壱式・翠」


 一体いつの間に上空にいたのか。

 いや、これでは魔技も間に合わな・・・・


「がぁっ!?」


 文字通り落下してきたグラン殿の踵落としを僕はかろうじて手甲でガードした。しかし、魔技の領域にまで高められた技をそれだけで凌ぐことができるわけもない。衝撃を弱めたのでダメージは削れたが、僕は地面にめり込むように倒れこむ。


「投ノ弐式・紫琥」


 倒れた僕とは対照的に、軽やかに着地を果たしたグラン殿が、僕の体を硬化した腕で掴みあげると、バチッという音がして紫電が迸る。


 猛烈に嫌な予感がした。


「ショ、ショックブラスト!!」

「何?」


 電流が流れる直前に、僕は全身から衝撃波を出す。無詠唱で放たれた攻撃に驚いたのか、拘束が一瞬緩んだ隙に、グラン殿の腕から抜け出した。地面を蹴って折角稼いだ距離を失いながらも後退する。下がる位置は、剣を手放させる直前と同じ、中距離を保つ。


「ハアハアハアハア・・・・」

「・・・・なんというか、君はずいぶんと独特な戦い方をするな。 レオルから聞いてはいたが、音魔法の特化型とは珍しい」


 グラン殿の方を見るが、僕の耳にはその声が少々くぐもって聞こえた。


「・・・風?」

「その通り。 音魔法の使い手ならば、耳がよさそうだと思ったのだが、有効なようだな」


 実を言うと、音魔法を扱う僕にとって天敵たりうるのは強力な風使いだ。

 水の壁は衝撃波をよく通し、土の壁は衝撃で砕け散るが、荒れ狂う風の防壁には音は門前払いを喰らう。

 かつて、僕がリーゼと出会った時、僕をつけていたジョージさんも風を纏うことで僕に気づかれなかった。この見通しの良い演習場ではお互いに相手を見失うことはないと思っていたし、さっき隠れた時もグラン殿の音は把握できていたから、今の今まで風による消音を失念していた。


「くぅ・・・!!」


 僕は再びグラン殿を中心とするように走り出す。

 今の僕に盾はないが、距離を取られて魔法攻撃の的になるのはごめんだ。しかも、武器を失っているのだから近距離ならチャンスがあるかと思ったが、向こうから近づかれた上に強烈な体術を浴びせられてしまった。下手に近づいても意味がないということがよくわかった。

 魔法、近接、ともに隙が無いし、メインウェポンを奪ったのに、ちっとも有利になった気がしない。


「これが、この国最強の騎士、虹天こうてんか」


 虹の名を冠するのは、それがあまたの元素エレメントに愛されているが故。

 僕の見てきたものなど、まだまだ片鱗に過ぎないだろうが、それだけでもその強さがわかる。

 グラン・ヘイラー殿は、僕のような「特化型」の真逆、あらゆる属性に適性を持つ、「万能型」の魔法剣士なのだ。万能型は特化型以上に珍しい特性であり、ほぼすべての属性を得手不得手なく扱えるが、それぞれの適正はさほど高くはない。しかし、グラン殿の場合、その欠点を異なる属性どうしを組み合わせた複合魔法で克服しているようだ。さらに、魔武器無しで上級魔法まで使えるところを見るに、血のにじむような鍛錬を積み重ねてきたのだろう。

 近距離では剣やその屈強な肉体による一撃、遠距離ではあらゆる状況に対応可能な複合魔法が飛んでくる。僕みたいな未知の戦い方をする敵にもすぐに対応して次の手段を講じる・・・実際に相手をしてもらってわかるが、つけ入る隙がない。


(さっき仕込みをした場所に行ければ・・・・いや、せめて盾があれば)


 僕のもう一つの手は、向こうにほんの少しでも隙を作らねば自分の首を絞めることになるものだ。だから、さっきの仕込みは奇しくもその隙を作るために用意したものだった。そこに行ければまだ目はあるだろう。それに、盾があればあの体術にも対抗はできるハズである。投げ技の魔技を喰らう前に抜け出せたように、武器の間合いすら超えた超近接戦闘は僕の魔法が最大限に活かされる。武器越しではなく生身にカウンターが入ればいかにグラン殿とて無傷ではいられない・・・と思う。


(けど、どうする?)

「・・・・・・」


 グラン殿は、どうやら岩場に逃げ込まれることを警戒しているらしく、僕が向こうに行こうとすると、妨害するように立ち位置を変えるのだ。盾を取りに行こうと思った場合も同じだ。スタミナには自信があるが、このままでは膠着状態に・・・


「私相手に、同じ手が何度も効くとは思わんことだ・・・・遠当ノ壱式・紫」

「なっ!?」


 体術の魔技、それも遠距離用か!?

 グラン殿がこぶしを握り締めたかと思えば、雷の塊が飛んできた。僕は剣を抜いて攻撃を弾き飛ばす。

 拳や蹴りを使う魔技は魔法におけるショット系のように威力こそ控えめだが、発生は早い。


「フレア・ショット、エレク・ショット」

「インパクトっ!!」


 詠唱いらずの下級魔法を、インパクトで迎撃する。特化型の僕の魔法は下級魔法二発など容易く消し飛ばすが、ここで僕の足が止まってしまう。


「拳ノ参式・琥碧紫」

「ショック・ブラスト!!」


 琥珀のような輝きを帯びる拳に、激流と紫電がまとわりつく。

 盾を持っていない僕ではカウンターは不可能。苦し紛れに魔法を放つ。姑息な一撃だが、近づかれるのは避けられる・・・


「はぁっ!!」

「んなぁ!?」


 そんな風に油断したのが悪かったのか。

 あろうことか、グラン殿は目に見えない衝撃波を拳圧で吹き飛ばしたようだ。

 唖然とする僕の顔に、ガードする隙も与えないとばかりに、グラン殿の拳が迫る。その拳に宿るのは炎、土、雷、風の4属性。僕は・・・・


「剛拳ノ肆式・紅琥紫翠!!」

(南無三!!)


 半ば本能に従うように、その拳に、自分から頭を突っ込んだ。


「跳甲!!」

「なんと・・・」


 グラン殿の拳はいかほどの威力だったのか。


「うわぁぁぁぁぁあああああああああ~~~!!」


 僕は非常に頑丈だという兜でグラン殿の魔技を受け、その衝撃で自分の体を吹っ飛ばす。

 僕は、跳甲にせよ反甲にせよ、相手の衝撃を利用する魔技は必ず盾で行ってきた。何故なら盾は鎧より厚いし、そもそも鎧の上から腕に着けているか、しっかりと取っ手を手甲を付けた手で握って構えることができたからだ。盾に伝わってくる衝撃を消しきれずとも、鎧や服を挟むことで分散、緩和ができたし、それすらできなくとも、腕や手は折れたところで即死はしない。だが、今回は盾を使うどころか、最も重要な頭と接する兜で無理やり魔技を使ったのだ。当然、ただで済むはずがない。


「ゴフッ!?」


 僕の体は、一切の容赦なく岩に叩き付けられた。

 兜から伝わってきた衝撃を全力で逃がしていたせいで、背中を襲う衝撃は緩和できなかった。さらに、完全にグラン殿の魔技を殺せなかったのも相まって、鐘の中にいるように頭がガンガンして、視界がフラフラする。ヌルりと生暖かい何かが顔を伝っているが、これは頭を切ったのか、それとも鼻血か。体中のすべての空気を吐き出してしまったかのように、息が苦しいし、アバラもすごく痛い。ひびが入ったか、ひょっとすると折れているかもしれない。

 あのままあそこにいれば体技のラッシュを喰らう羽目になっていただろうが・・・


「やっぱ、無茶、だった、か・・・・・」


 ふらつきに耐えきれず、僕はその場で膝をついた。

 


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