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第20話

 モーレイ鉱山には現在も使われている坑道と魔鉱を掘りつくした廃坑があり、廃坑の方にモンスターが多く生息している。しかし、この鉱山に生息する無生物型のモンスターというのは厄介なことにどこからともなく湧いて出るため、廃坑を完全に塞いでしまうと、内部でジャイアントスライムのような複合体とされるモンスターが発生する可能性が高いとされ、封鎖せずに定期的に討伐を行っている。そして、複数の廃坑と現在も採掘が行われている坑道の間にはそれらが合流する広間があり、大量にモンスターが発生したときは狭い坑道を通って出てくる少数のモンスターを広間に待機した多数の騎士で袋叩きにするという戦法がとられることがある。


「いやー、ダンジョンっていっても中々気が利いてるよな~。こうやってだらける場所もあるし」

「は、はぁ・・ロイさん、たくさん食べますね」

「ダンジョン歩いてたら腹減ってさ」


 ロイさんは串焼きを持ちながらそう言った。僕も手にジュースを持って返事をする。

 今、僕らがいるのは鉱山の入り口にほど近い広間である。入り口付近のここは大量発生時以外はモンスターが来ることも少なく、定期的に討伐に来る騎士のために休憩所のようなスペースが設けられていて、今もそれなりの数の人たちがいる。騎士試験間近で人がたくさん来るこの時期には、そういった人たち相手の屋台まである。僕らが持っているのもそこで買ったものだ。ちなみにリーゼロッテは他の人が連れてきたと思われる地竜たちと顔を見合わせていた。リーゼロッテが何か吠えるたびに、その地竜たちもチラチラとこっちを見てくる。


「やっぱなついてんなぁ、あんたの竜。他にも連れてきてるヤツはちらほらいるけど、なんかドライだぜ」

「僕とあいつは長い付き合いですから。これまでもたくさん助けてもらったし、大事な相棒ですよ」

「ふーん、相棒か・・・竜にそういう風に言うやつ初めて見たぜ・・・・ところで、こうずいぶんとお堅い感じだけど、もう少し砕けてくれてもいいんだぜ?」

「えっ、あ~、初対面の人に敬語使うの癖になってて・・・・うん、わかった、敬語は止めるよ。でも、呼び捨ては慣れてないからさん付けはしてもいいかな?」

「おう、そんくらいならいいぜ。オレ、敬語とか堅苦しいのは苦手でさぁ」


 たまにこうして敬語について言われるので、僕もすぐに口調を崩す。相手が苦手だと言っているのにわざわざ続けるほどひねた性格はしていない。


「それで、ロイさん、話って何かな?」

「おう、あんたは強そうな竜を連れてるし、奥まで行って帰ってきたんだろ? ちょっと試験に挑むものどうし情報交換でもどうかって思ってさ。オレ、王都出身だし、道具揃えるんならいい店知ってるぜ」

「情報交換か・・・」


 ふむ、さっきのソナーに反応しなかった倒し方といい、ロイさんも実力者なのだろう。実際、今も完全に気を抜いてるというわけじゃあないようで、串焼きを持ちつついつでも腰のダガーに手が届くようにして警戒を解いていない。ダンジョン内のモンスターを警戒しているのか、初対面の僕みたいな人間を警戒してるのかは分からないが・・・ともかく、これは案外有益な話かもしれない。それに、デタラメを吹き込まれたとしても、信じる信じないは僕次第だ。聞くだけなら害はないだろう。


「ま、持ちかけたのはオレだし、最初はオレが答えるよ。何が聞きたい?」


 うーん、そうだな・・・大体の目星はついているが、一応確認しときたい。


「それじゃあ、魔装騎士を目指すなら、ここでどのくらい倒した方がいいか、知ってる?」

「おぉ、あんたも魔装騎士目指してんのか? 確かにそういう情報は出回ってねぇからなんともいえないけど、この辺のスライムなら20匹、他のマタンゴやらゴーレムやらを10匹ってとこじゃねぇかな」


やはり、ロイさんも魔装騎士を目指しているようだ。モンスター討伐数も大体予想通りだ。


「そっか。なら、ここで討伐するときに持ってた方がいいものってあるかな?」


 本を読むといろいろ書いてあるが、なるべく荷物は少ない方がいい。空間魔法の鞄を使うにしても、物がたくさんあると取り出しにくいのだ。


「答えになってるかは微妙だが、リーチの長い得物は持っておいた方がいいぜ。スライムを相手にするんなら、剣よりも槍だな。坑道ってもここの鉱山のは広いしな。あとは、スライムやマタンゴ対策の解毒薬とかくらいか。スライムをたくさん倒した後で乱入されると足場がなくて厄介だ。あれがあればただの水にできる。いろいろあるけど、商店街のトリス薬局って店がいいぜ。あそこはいい薬剤師がいるからさ」


 ジャイアントスライムを倒したときに後悔した僕には耳に痛い話だ。普通のスライムでも多くの個体と一度に遭遇したら似たような事態になるだろう。これまで、こんなにスライムが出る閉鎖空間に入ったことはなかったのだ。


「ふんふん、じゃあ鬼人の森でならどうかな?」

「あそこか・・・・俺も最近よく行くし、知ってると思うけど消臭ポーションか臭煙幕は合った方がいいかもな。奥地ならモンスターの数は少ないからいいけど、浅いところのオークは鼻がいいから、結構離れてても臭いをたどって追いかけてくることもあるし。それに、オーガやらトロールを相手にすんなら臭いを消した罠を使うのがいいぜ。金がかかるけど、あいつら馬鹿だから簡単にかかるしな。ちなみに罠ならトリス薬局の近くにあるトニル魔道具店ってとこが安くていいぞ」


 消臭ポーションはその名のとおり臭いを消す薬品で、臭煙幕は逆に悪臭をまき散らす道具だ。鼻のいいモンスターを相手にするときにはよく使われる。これまで僕は資金となにより体質のことがあってあまりそういう道具は使わずにいたから考えなかったがこう言われると・・・トロールの骨やジャイアントスライムの素材で臨時報酬が手に入りそうだし買ってみようかな。

 

「ありがとう。参考になるよ」

「そうか? お役に立てたんならいいが、本にも載ってるようなことだぜ? あんまりお得感ないだろ」

「いや、諸事情があって節約しててさ。お金を使う踏ん切りがついたって感じかな」

「おお、なるほどなぁ・・オレもあんまり余裕のある方じゃねぇけど、背に腹は代えられねぇしな」

「今度は僕が話すよ。あんまりいい情報は話せないかもしれないけど・・・」


 さて、どんな質問が来るか・・・


「おし、んじゃあ、あんたさっきは奥の方に行ってきたんだろ? オレ、浅いところは詳しいんだけど、奥の方はあんまり行ったことなくてさ、モンスターを取り合いにならないように楽して大量に狩るならどこがいい?」

「僕が行ってきたところだと、地底湖付近の坑道に行くとスライムやマタンゴがたくさんいるよ。ゴーレムは水気の多いところよりも奥に入って少し進んだくらいの場所の方が多いかな」


 実際、ジャイアントスライムが出る前にかなり大量に倒したし。ちなみに、スライムは水気のある場所だと非常に発生が早く、あそこでならば今この瞬間にも発生しているかもしれない。


「あそこか・・・・だが、あの辺だとはさばけないくらいモンスターに絡まれねぇか?囲まれて死ぬ気がするんだが」

「それは・・・僕、実は音魔法がすごい得意なんだ。その魔法でモンスターのいない場所を選んで通ったんだよ。それに、今はたくさん人がいて分散してるしね」

「音魔法? 珍しい魔法覚えてんなぁ・・・俺も風魔法で位置を探ってやろうと思ったんだが、洞窟だと使いにくくてさ。なるほど、音魔法か・・・」


 普通、索敵には風魔法による空間把握エア・シンクロが使われる。空間把握エア・シンクロは自らの感覚と大気を変化魔法で同調させて辺りを探る魔法だが、空気が淀んだ閉所では使いにくいのだ。その代り、広い平野や風の通る森などでは音魔法のソナーよりもはるかに優秀である。


「トニルんとこなら音魔法用の魔道具もあるかなぁ・・・ま、オレも参考にさせてもらうぜ。そうだ、それなら鬼人の森ではどうしてんだ?」

「鬼人の森だと、リーゼに乗って上から行くから浅いところのモンスターはスルーしてるね。奥地でも上空から戦いやすそうな場所を見つけてそこで待ってる感じかな」

「あ~、そりゃ真似できねぇわ。まあ、竜がいれば弱いのも逃げてくしな。そこはもう竜持ちの特権ってやつか・・・」


 上空からの索敵や、素早い移動、弱小モンスターへの威圧など、竜のようなモンスターを連れるメリットは大きい。まあ、扱いにくいことも多いらしいが、リーゼロッテではそんなことはない。


「それは、まあ・・・。でも試験時間が短くなっちゃうし、木立の中には入れないから一長一短だと思うよ。なんなら、竜を連れていく人がマークした場所を拠点にするとかいいんじゃないかな。えっと、僕が目星をつけてるのはこのあたりだね」


 僕は地図を取り出して掃除した場所を指さした。


「それはよさそうだけど、いいのか、それ言って?」

「移動スピードが段違いだから、徒歩で来る人が着くくらいには多分終わってると思うから大丈夫だよ。」


 王都から鬼人の森の入り口までは馬や魔導バスを挟んだとしても半日はかかる。飛竜ならば奥地まで4時間、大地を高速移動できる地竜ならば6時間といったところだ。それだけ差があれば問題ないだろう。

 なにより、試験まで後二日だ。ロイさんがよからぬ何かを企んでいたとしても試験間近にも関わらず鬼人の森と王都を徒歩でとんぼ返りするのは現実的ではないと思う。移動だけで一日を費やすし、奥地に行くのも地上からでは簡単ではない。


「なるほどな。なら・・・・・・」

「ああ、それは・・・・・・・・」


それからしばらく、僕らは情報交換を続けるのだった。




「いやー、いい話が聞けて良かったぜ。あんがとな」

「こちらこそ、いいお店を教えてくれてありがとう。近いうちに行ってみるよ」


 僕とロイさんの情報交換は大変充実したものだったと思う。ロイさんからは主に王都での便利な店の情報や図鑑にあまり載っていないようなモンスターの習性の情報を仕入れ、僕からはモンスターの索敵や拠点確保、一対多の対処法などについて教えた。モンスター関係の情報はともかく、店関係のことなら宿の人か買取屋にでも聞けば裏がとれるだろう。


「よし、んじゃ、ほい」

「? これは?」


 ロイさんは僕に向かって手に乗せた5000アース紙幣を差し出した。


「何って、情報料さ。持ちかけたのはオレだし、鬼人の森の話とか、こんぐらいの金を払う価値は十分あったしな」


 僕としてはそんなに大したことを言った覚えはないのだが・・・・ふむ。母さんいわく、「うまい話には裏があるもんだからホイホイ乗っちゃだめよ」とのことだが、お互い信用できるか分からない情報のやり取りでこちらだけがお金をもらうのは気が引ける。何か思惑があるならひょっとするとマズいのではないだろうか。


「情報料はいいよ。言っちゃあ悪いけど、まだ完全に信用できる話じゃないでしょ。それなのにお金はもらえないよ。それに、僕だっていろいろ教えてもらえたしね。」

「へー・・・ま、そっちがそうならそれでもいいんだが・・・うん、ぶっちゃけ助かる」


 ロイさんは神妙な顔でお札を軽そうな財布に戻した。


「キュルルル」

「ん?」


 いつの間にか、地竜と話していたリーゼロッテが隣に来ていた。僕らが結構話していたから退屈だったんだろうか。


「さて、もう結構たつし、リーゼが退屈そうだから僕はそろそろ帰るけど、ロイさんは?」

「ん~そうだな・・・オレは少し腹が減ったからまたなんか買ってくるわ」


 あんなに串焼きを食べてたのにまだ食べるのか・・・・


「そっか。じゃあお先に・・・今度会うときは美味しい店について教えて欲しいな」

「おう、またな。次はいい店教えてやるよ。試験、頑張ろうぜ」

「うん、お互いね。・・・行くよ、リーゼ」

「グォウ」


 こうして、僕とリーゼロッテは広間の外に出た。





「デュオ・シンクね・・・さて、どこまで本当かね」


 さっきまでオレと話していたアイツ、デュオは最後まで警戒を解いていなかったようだ。とはいっても半信半疑というほどでもなかったろうが、こちらも嘘はついていない。教えた店に行けば、そこそこ信用はもらえるだろうか。オレとしても、デュオの話した情報は、アイツの身のこなしや竜との関係を見るに、まったくのデタラメではないように思える。しかし・・・


「やけにきっちりしてたが、アイツ、貴族か?」


 デュオは話し方もそうだが、話を聞く態度、こちらにモノを話すやり方に上品なものを感じた。こちとら常日頃訳あってやんごとない身の上のヤツと話しているからわかるのだ。


「にしちゃあ装備が微妙だったが・・・竜だって金で買ったヤツがあんなになつくとは思えねぇし」


 いわゆる訳アリというやつだろうか。

 鞘に納まっていた剣はよくわからないが、盾や鎧はそこらの店で売ってるものと大差ない。それに、竜は基本的にプライドの高い連中ばかりだから、例え貴族であろうとあんなになついた竜はそうそう用意できないだろう。金で買うというのは、竜にとっては雇われるということであり、大体がドライな関係になるものだ。それに、貴族によくある上から目線な物言いでもなかったし。少なくともお偉いさんに雇われた野郎でないことは見て取れた。


「なんにせよ、潰すのは止めとくか」


 デュオはオレと同じように魔装騎士を目指しているらしい。騎士試験では魔装騎士は飛びぬけて優秀でもない限り一人もなれないなんてことがザラだ。ライバルになるんだったら妨害の一つもしようかと思ったが・・・・・今日みたいにいろいろ嗅ぎまわったが、ライバルになりそうなのは今のところデュオ一人くらいしかいない。そのデュオも、竜持ちの上に、本人もモーレイ鉱山奥地でやすやすとスライムを大量に狩れるやつだ。多分オレと同程度には強いはずだ。潰すのにも手間がかかるだろう。なにより・・・


「アイツ、いい奴そうだったからな・・・・」


 ああいうのは何か企むタイプではないだろう。

 竜を連れて歩くアイツを見たときは、すわ、蹴落としておく野郎第一号の登場かと思ったが、話してみると案外普通に話せるヤツだった。こっちを少し警戒しているようだったが、初対面の相手と大事な騎士試験の話をするなら普通の反応だろう。そして、警戒しつつも初対面のオレに恐らくは本当のことを伝えてきた。こっちの金も受け取ろうとはしなかったし、アイツ一人くらいなら、まあいいんじゃねぇかなとも思う。盗みやらスリやら汚いことはそれなりにやってきたが、人ひとりの夢を台無しにするくらいのレベルを好んでやりたいとも思わない。オレの雇い主が警戒してる厄介な連中の一味だったらその限りじゃないが。


「んじゃ、オレもあのお転婆にどやされないよう頑張りますかね」


 あの、口汚いくせに見てくれはいい銀髪を思い出しながらひとりごちる。

 オレは座っていたベンチから立ち上がった。


「とりあえず、串焼き買いに行くか」


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