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第16話

「おっ、ここなんかいいんじゃないかな・・」

「キュルルルルル」


 あれから森の上空を魔導双眼鏡を持ちつつ飛び続けてしばらく、僕たちは森の奥の方にある窪地にいた。近くにはオーガも歩いていたし、ここに来ることもありえる。僕の体質ならば一日待たずとも会えるはずだ。

 そこはゆるやかなすり鉢状にくぼんでいて、ところどころに僕の背丈くらいの岩が転がっている。ここならば、上空からリーゼロッテに見てもらえれば、乱入してくるモンスターがいてもすぐにわかるだろう。

 そう思いつつ、僕たちが窪地の奥のほうに歩いていくと・・・


「ケ、ケ、ケケケ・・」

「カラカラカラ・・」


 辺りの地面が盛り上がり、白骨化した死骸が次々と湧いて出てきた。


「はあ・・・・さてと、それじゃあ掃除しようか。リーゼは一応上から強そうなのが来ないのか見張ってて。」

「ギャウ!」

「ケケケェェェェェェーー!!」


 リーゼロッテが飛び上がるのと同時に、おびただしい量のスケルトンが襲い掛かってきた。








 窪地に降りてからしばらく経った。


「ショックウェーブ!!」

「ケケ!?」


 僕は広範囲に衝撃波を放つ音魔法を使う。この魔法はインパクトよりも威力は低いが、弱い相手に囲まれたときに牽制するのにはちょうどいい魔法だ。今も、僕を囲んでいる元オークと思われるスケルトンたちの動きが止まった。


「フンッ!!」

「ガッ!?」


 僕は包囲を抜けるためにダッシュしながら皮鎧の腕部に着けている盾を構えて、体ごと後ろにいたスケルトンに突っ込んだ。魔法が効いていたのか、それとも元々脆くなっていたのか、スケルトンは僕のタックルを食らってバラバラになった。


「「「ケケケケ!!」」」


魔法の衝撃による一時的な麻痺が解けたのか、スケルトンたちは僕めがけて突っ込んできた。知性のない下級アンデッドのスケルトンゆえ、何も考えず、ひとまとまりになって走ってくる。


「インパクト!!」

「「「ゴゴォ!?」」」


 まとまっていたから、一発の魔法で全員巻き込めた。衝撃波を受けて、骨はボロボロに崩れて白い山ができた。それを見てホッと一息つくが・・・・


「ガァァァァァァァ!!!」

「おいおい、アレってトロールか?」


 猛烈な腐臭とともに大きな影が地面から這い出てきた。

 影は3メートルに達するかというほどの大きさの巨体で、だいぶ肉が腐り落ちてスリムになっているが、オーガにある角がないしトロールだろう。いや、死体だからトロールゾンビか。


「オオオオオオオオォォォォ!!!」

「く、臭い・・・・早く仕留めよう」


 正直鼻が曲がりそうだ。服に臭いがつかないか心配である。さっきのスケルトンを倒す前にもかなりの量を倒したし、トロールやオーガの骨は頑丈で、他のモンスターが武器替わりに持っていくことが多く、あまりこいつらのアンデッドは見かけない。このあたりのアンデッドはコイツが最後だろう。


「ガァァァァァァァ!!」

「うおっ!?」


 トロールゾンビが突撃してくる。さきほどはスリムになっていると思ったが、やはりその分早くなっているようだ。しかも死してなおその力は衰えていないようで、トロールが突っ込んだ場所にあった僕と同じくらいの大きさの岩が吹っ飛んでいった。まあ、元々の素早さが大したことないのでみすみす食らうことはない。僕は突っ込んできたトロールゾンビとすれ違うように避けつつ反撃する。


「インパクト!」

「ガッ!?」


 すれ違いざまに衝撃波を食らって、動きが止まる。やはり、むき出しの骨に直接衝撃波を食らうのは堪えたのだろう。トロールの注意すべき点は、その膂力と生半可な打撃を無効化してしまう脂肪の鎧だ。トロールゾンビはほんの少ししか上がらない素早さの代わりに、その脂肪の鎧を失っている。


「でも、致命傷にはならないか・・」

「グゥゥゥゥゥ!!」


 トロールゾンビは「よくもやってくれたな」というように僕をにらんでいるが、すぐにまた突撃の体勢になった。いくら僕が特化型でも中級モンスターの頑丈な骨に、下級魔法のインパクトでは効果が薄い。本格的にダメージを与えるにはこちらも中級クラスの魔法を使わなくてはならないだろう。

 音魔法下級インパクトの強化版、中級魔法クライ・インパクトは威力、範囲が増大するかわりに、溜めとそれなりの魔力が必要になる。しかし、先天的に音魔法に特化した僕の場合は溜めも短く、魔力消費も少なめなのだが・・・


「でも、あの魔法ってすごくうるさいんだよなぁ・・」


 威力は大きいが、轟音を伴うため「体質」抜きでも他のモンスターに気づかれやすい。音魔法の使い手があまりいない理由の一つでもある。一応、大音量を出さない中級攻撃魔法もあるが、あれはそれなりにタメ時間が長い。ともかく、今のところ厄介な乱入者には運よく遭遇していないし、僕としてもせっかく掃除が終わりそうなのだから余計なことはしたくない。


「よし、アレでいくか」

「ガァァァァァァァ!!!」


 知性のないアンデッド故か、今度の突撃も前と寸分違わない。ただ僕めがけて愚直に突っ込んでくるだけで、軌道の予測など考える必要もないくらいだ。あの突撃をモロに食らったら、防具が皮鎧程度の僕ではあの岩のように吹き飛ばされて粉々に砕けてしまうだろう。だが・・・


「来い!!」

「オオオオオオオ!!」


 僕は、あえて避けない。トロールゾンビに対して左腕の盾が正面に来るように構え、右足を半歩後ろに下げる。それと同時に体の中、魂から魔力を引き出し、練り上げる。避ける必要はない。あいつを倒すための武器を自分で持ってきてくれるのだから、僕はそれを受け取るだけだ。


「グゥゥゥゥアアアアアアアアア!!!」

反甲カウンター!!」

「グギャッ!?」


 ベキっという嫌な音とともにトロールゾンビの巨体が吹っ飛んだ。音からして骨が何本か折れたのだろう。中々立ち上がろうとしない。アンデッドには痛覚はないため、痛みでひるませることはできないが、知能や恐怖といった感情もなく身を守ろうとしないので、骨を折ったり、体の部位を斬り飛ばして構造的に動けないようにすることが比較的容易だ。

 僕はトロールゾンビの巨体が僕に触れる直前、魔技「反甲」を使い、僕を吹っ飛ばそうとする力、衝撃をすべて跳ね返したのだ。


「グ、グ、オォォォ・・・・」

「やっぱりまだ動けるのか、よし。打甲バッシュっ!!」

「ギィィィ・・・ア・・ゥ・」


 盾を叩きつけ、衝撃を「徹す」魔技を使って、頭の中を粉砕した。頭の中をミキサーにかけたようになったであろうトロールゾンビはうめき声をあげたが、そのうち動かなくなった。・・念のため魔技は使わずに四肢にも盾を丹念にぶつけて骨を折っておく。個人的なやり方だが、僕はアンデッドモンスターの頭を切り落とすのは好きではない。アンデッドの中には首を斬られても、頭だけもしくは体だけで動けるやつもいるからだ。


「ふぅ、音のこともそうだけど接近戦ならやっぱり魔技の方が使いやすいな」


 魔法は下級ならともかく中級以上だと接近してくる相手には間に合わないこともあり、自分がまきこまれることもある。魔技ならばそういった心配はあまりない。

 魔技とは、ある特定の構えなどに魔法的な意味を持たせ、射程や範囲を犠牲に高威力の魔法を詠唱無しで武器に乗せて放つ技だ。狭い範囲に詠唱なしで高威力の攻撃を叩きこむというコンセプトから、元になる魔法は中級以上になる。

 例えば、僕が使った「打甲」は「クライ・インパクト」が元になっており、威力も同程度だ。

 ちなみに狭い範囲に限定されるのはデメリットももちろんあるが、メリットもある。さっきの「打甲」であるならば相手に盾を直接当てなければならないが、音がほとんど発生しないのだ。他にも「反甲」は音や遠方からの投石や爆発物などの衝撃をある程度跳ね返す「ハイ・エコー」という中級防御魔法が元の魔法だが、独特の構えによって防御結界を盾に集中して張ることにより威力の高い攻撃も跳ね返せるようになっている。ただし、盾以外で受けたら骨がバキバキに折れていただろうが。


「さて、これで片付いたかな・・・リーゼ、様子はどうだい?」

「キュルルルル!!」


 大丈夫、というようにリーゼロッテは鳴いた。僕を乗せようと思ったのか、地上に降りてくる。

 僕の「体質」はモンスターを引き寄せるが、これが及ぶ範囲はそこまで広くはないらしい。前にリーゼロッテに上から見てもらった時には、僕の全力で出した声が聞こえるくらいくらいの距離にいるモンスターは襲い掛かってきたが、それよりも遠くにいるモンスターは僕に気が付かなかったようだ。まあ、超広範囲のモンスターを呼び寄せてしまうようなら、そもそも僕は町に住むことができていなかっただろうし、当たり前といえば当たり前だが。それに、ここは「鬼人の森」の奥だ。基本的にダンジョンと呼ばれる場所では浅いところほど弱くて数の多いモンスターが住み着き、奥に行くと数は少ないが強力なモンスターがうろつくようになる。だから、浅いところのようにモンスターにまとわりつかれるということはない。


「ま、死んだモンスターは別だけど」


 僕にとっては非常に厄介なことに、アンデッドモンスターはモンスターがうろつく場所ならば強さに関わらずどんなところにでも発生する可能性がある。トロールゾンビと交戦する前に倒したスケルトンの生前のオークだって、たまたま迷い込んで来たのが野垂れ死んだのか、オーガあたりが餌として持ち帰ったのかは分からないが、あまりオークを見かけることのないこの奥地でオークの死骸と戦うことになったのだ。逆に、浅い場所でオーガのゾンビかスケルトンと戦う羽目になることだってありうる。


「よし、じゃあ掃除も終わったし帰・・・・」

「!? グォォォォウ!!」


 帰ろうとした瞬間、リーゼロッテが警戒するように鳴いた。それを訝しく思う間もなく・・・


「ガアアアアアアアアアア!!」

「うわ・・・また出た。って、今度は生きてるやつか」


 今度はトロールゾンビではなく、生きたトロールが現れた。ドスンドスンと重そうな体を動かして、転がるように窪地を降りてくる。


「キュルルルル・・・」

「いや、大丈夫だよ」


 リーゼが地上に降りてきたから気づくのが遅れたのだろう。申し訳なさそうに愛竜は鳴いたが、僕は頭をなでて気にしていないと伝える。

 思えば一所に長くいすぎたかもしれないが、帰ろうとした瞬間にコレとは運がない。いや、まだマシか。トロールゾンビや他のアンデッドと戦っているときに出てこられたら、リーゼロッテに援護してもらいながら逃げるしかなかった。よし、切り替えていこう、考えてみればちょうどいい。ここは・・・


「予行練習ってことで・・・・エンチャント!」

「グオオオオ!!」

「行くよ!!」


僕は剣に魔法をかけると、咆哮するトロールに向かって駆け出した。




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