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第10話

 モンスターを引き寄せる。

 一言でいえば、それが僕の体質だ。特に、アンデッド系のモンスターは顕著で、死体が目の前でアンデッド化することさえあった。最初にこの体質が現れたのは、僕が初めてグラン殿に会ったあのときだろう。町の近くのモンスターはだいたい駆除されていたし、アンデッド化を避けるために死体は火葬されるから、初めて気づいたのがあのときで、もしかしたら生まれたときからあったのかもしれない。

 それからもいろいろあった。グラン殿に助けられてからしばらくして、僕が騎士になりたいと思って剣術や魔法について勉強し始めたころからモンスターの発生が少しづつ増えていき、モンスターと会う機会も増えたせいか、あきらかにおかしいということが分かったのだ。

 こっそりと屋敷を抜けてモンスター退治のために剣や魔法の練習をしようと森に向かう度に、単独では決して襲いかかってこない臆病なコボルトが近づいて来たり、昼間なのにゴブリンゾンビが起き上がって襲ってきたりした。

 モンスターが現れて、討伐に向かっても必ず僕を狙ってくる。大規模な討伐はこちらも大人数で対応するから分かりにくいのだが、ゴブリンアーチャーの矢が毎度毎度僕目がけて飛んできたり、狼に乗ったゴブリンライダーの集団が僕のいる場所に突撃をかましてきたりと冷や汗が出るばかりだった。一応僕はそういう場所では大将役だったため、周りにいた人たちはモンスターもボスを狙う知恵をつけたのかと思っていたようだが、矢を放つタイミングも突撃するタイミングもてんでバラバラだったからそれは違うと思っている。

ちなみにあくまで引き寄せるというか見つかりやすいだけみたいで、必ずしも戦闘になるわけではない。コボルト1匹ならば僕を見つければ逃げていくし、木を傷つけなければ温厚なドリアードも遠巻きにこちらを見るにとどめ、人に協力する竜は物珍しそうに見てくるがそれだけだ。もっとも、凶暴なゴブリンやオーク、生者を無差別に襲うアンデッドは見つかる=戦闘なのでしょっちゅう戦うことになったが。


「多分、僕からモンスターを引き寄せるモノが出ていて、それでモンスターが近づいてくるんだと思うんですが・・」

「そうなんですか・・」


 シルフィさんは神妙な声でそう言った。


「あの、疑わないんですか? 実際にモンスターが寄ってくるところなんてお見せできないですが・・なんなら心を見てくれても・・・」

「信じますよ。デュオさんがここで嘘をつくような人じゃないっていうのは昨日でよくわかってますから」

「そ、そうですか」


 そういってもらえるとなんだかこそばゆい。それにこのことを誰かに話すのは僕も初めてだったから、長年言えなかったことを言えて胸がすくようだった。





 あれから、またこの「幻霧」のことについて話合ってしばらく経った。

 何が原因なのか、誰かの仕組んだことかも話し合ったが・・・・結局分からずじまい。当然、心当たりもなし。元々僕は戦闘に使う魔法以外の知識なんて素人同然だが、魔法理論に詳しそうなシルフィさんにもさっぱりだという。こんなことが起こるような原因としては、せいぜいが僕らの変わった特性くらいなのだが・・


「心を読むチカラとモンスターを引き寄せる体質か・・・」


 確かに普通の人にはない要素だとは思うが、


「しかし、いくら変わった体質だからってそれでこんなことが起きるものなのか?」


 僕は軽く伸びをしながらつぶやいた。

 空間の跳躍に魔法封印は最上級の難易度、伝説と言ってもいい。そうそう簡単に起こる現象だとはとても思えない。

 話し合いが煮詰まってもまったくわからないのを紛らわすような、それは思わず口を出た独り言だったのだが。


「ありえるかもしれませんよ」

「シルフィさん?」


 その独り言に答えるように、陰がこもったような暗い声で返事が来た。

 訝しむ僕を尻目に、シルフィさんはどこか自嘲するかのように続けた。


「私、今までずっと付きまとわれたけどこのチカラのことなんて全然わかりませんもん」

「わからないし、知りたくない。ずっとずっと早くなくなっちゃえって」

「だから、このチカラのせいでどんなに嫌なことが起きたって驚かないです」


 自嘲するかのように、憎むように、悲しそうに、そう言った。

 僕としては、いきなりの怒涛の内心に驚くばかりだ。会ってまだ2日目とはいえ、まさか、おとなしそうなシルフィさんからこんな言葉の濁流が来るとは。


「シルフィさん・・・・」


 僕は彼女のチカラを上辺でしか知らない。

 人の心が読めるというのはどういうものなのだろう。僕としては創作のように犯罪などに悪用しようとするヤツが出そうな便利な能力だと思うが。けれどもしも僕のようにコントロールができないのならば、彼女の言うように自分への悪意、敵意のようなマイナスも否応なく入ってくるのだろうか。僕はまだ18年しか生きていないが、それでも世の中には聖人君子の方が珍しいことは知っている。辺境伯とはいえ、貴族の身分である故に、父上に連れられていろいろな人に会ったことがある。笑顔で近づいて来るくせに、二枚舌の連中も見たことはある。彼女のチカラはそんな心の黒い部分も伝えてしまうのだろうか。だとすれば彼女のチカラは・・・


「デュオさんは、デュオさんもそうなんですか?」

「え?」


 僕がそんな風に考えていると、シルフィさんはそう聞いてきた。確かに僕も面倒な体質だけれど・・

 その言葉はドロドロと黒く粘るタールのようだった。僕には心を読む能力なんてないのに、その声音から、言葉に宿る想いから、彼女が期待するような、僕にもそうあって欲しいという心が伝わってくるようだった。


「デュオさん・・」

「僕は・・・・」


 僕も厄介な体質だから、彼女が言いたいことはなんとなくわかる。一時期はこんな体質は迷惑なだけだとも思ったし、なくなってしまえと思ったこともある。それに、体質のことを除いたって、自分が嫌いなものは自分以外の人にも嫌いでいてほしいという心理も分からなくはない。

 けれど、例え彼女のチカラがなくなっていても、この質問には正直に、同調するような答えじゃあなく、自分の想いを答えなければならないような気がした。いや、答えたい。シルフィさんはよく思わないかもしれないけど、僕はこの体質のおかげで得たモノもあって、この体質を否定することというのは得たモノに対する侮辱だ。


「僕もこの体質のせいでいろいろ苦労したことはあります。正直うっとうしく思ったことだって何回も。」

「それじゃあ・・・・」


 シルフィさんは嬉しそうに何かを言おうとするが、僕はそれを遮るように言った。


「けど、この体質のおかげで得たものもあります」

「デュオさん?」

 怪訝そうに僕の名を呼ぶが、僕は止まらない。僕は自分がさっき思ったように、思いのたけを口に出す。


「この体質があったから、僕は僕の相棒に会えて、いろんな経験ができました」

「・・・・・・・」


 そう、あの頼もしい僕の愛竜に。リーゼロッテがいなければ、今頃僕はモンスターの群れに食い殺されているだろう。逆に翼をやられたときには僕が盾になって時間を稼いだこともある。支えあう、持ちつ持たれつの大事な相棒だ。この体質のおかげで相棒に会えたのならば、この体質をなくなってしまえだなんて思えない。それは相棒をけなす行いに等しい。


「だから・・・・」

「・・・・やめてください」


 蚊の鳴くような声で、泣きそうな声で、今度はシルフィさんの方が僕の言葉を遮った。僕には、流石にそれ以上は続けられなかった。やはり、彼女を傷つけてしまっただろうか。


「・・・・・・」

「・・・・・・」


 お互いに何も言えない時間が続く。

 心を読まれるザワリという感覚はしなかったが、シルフィさんはいつでも僕の心を読める状況だ。この話の流れになった時点でこうなるのは決まっていたのかもしれないが、僕は正直に答えたかった。あそこで同調するような答えを出したら、なんだかダメな気がしたのだ。僕自身のこだわりもあるけれど、お節介なことに、シルフィさんのためにも。しかし、わがままな上に傲慢だが、説教臭いことを言って彼女を悲しませたくはなかった。


「・・・・・・・」

「・・・・・・・」


 やはり、言葉はない。

・・・しっかりしろ、デュアルディオ・フォン・シークラント。シルフィさんのためにって、答えたいと思ったのはお前だろう。そう思ったのなら最後までやれよ。最高にナルシスト臭いし、タラシのようだが、このまま黙っているよりははるかにマシだろ。


 僕は腹をくくった。


「シルフィさん・・・」






 私はなんて矮小で醜いのだろう。

 今はチカラを抑えているから、デュオさんの「声」も感情も伝わってこない。その分、自分の心の声はよく聞こえた。

 私はこの忌々しいチカラのせいで人の醜い部分をいやおうなしに見せられてきて、あんな人たちみたいになりたくないと思ったけど、私も大して変わらないじゃないか。

 詳しくは分からないけど、今までの会話でデュオさんは嘘をついていないようだった。モンスターを引き寄せるだなんて私のチカラよりも自分を苦しませるようなチカラとしか思えないのに、逆にそのチカラのいいところを見つけて、受け入れているようだった。


 それに比べて私は何だ。


 汚いモノを見るのが嫌だから、チカラと向き合うのことも役立てようとすることからも逃げて、周りに迷惑をかけながら引きこもりだ。そのくせ、自分の都合のいいときだけは利用する。さっき、デュオさんの話を聞いているときもそうだった。

 自分も苦しんだんだからあなたも苦しんでほしい、私が嫌なモノはあなたも嫌ってほしい。

 そんなことを考えながら、その忌み嫌うチカラを使ってデュオさんの心を覗きながら、デュオさんの逃げ道を塞ぎながら、私は彼の言葉に期待したのだ。もしもデュオさんに私のチカラがあったのならば、軽蔑されているだろう。自分が自分で嫌になる。私がそんな自己嫌悪に浸っているときだった。あの少し変わった人は突然しゃべりだした。


「シルフィさん、僕は、この体質のおかげで相棒に会えたけど・・・」


 何だろう。これ以上どんなセリフが飛んでくるのか。ワクワクしていた昨日と違って今度は怖くてたまらなかった。また、私の心をえぐるような言葉が出てくるのだろうか。

 私はびくびくしながら、けれどもなぜか耳をふさぐこともできずに続きを待った。


「その、あ、あなたのような、か、かわいい子にも会えて、こうして話もできて・・・その、えっと、役得だと思ってます!!本当ですよ? なんなら、心を読んでくれたって構いません」

「・・・・へ?」


 予想だにしなかった言葉に、私のチカラの制御がゆるんだのだろうか。私の中に伝わってきたのは凄まじい羞恥だった。これほどまでに強いということは嘘ではないのだろう。

 というか、何を言っているのだろう、この人は。覚悟はしてたが、想像してたのと違う。こう、右から来るぞ、気を付けろと思っていたら真上から来たような・・・


「その、シ、シルフィさんは、僕とこうして出会って、話すのは、嫌ですか?」

「そ、そんなことないです!!」


 それは間違いなく私の本心だ。チカラがコントロールできるようになったのもあるのだろうが、こんなに気兼ねなく話せたのは突然土下座したり、今みたいに変なことを言ったりと、どこか変わったところがあるけど正直者でいい人なデュオさんだからだろう。例え完全にチカラを失っても城の大臣たちとはこんな風に話せることはないだろう。まだ出会って2日目だが、デュオさんと会えたことを嫌なことなんて思えるわけがない。


「そ、そうですか・・・よかった。な、なら、その、僕と会えたことを、そのチカラのいいところだって思うことは、えっと、で、出来たりしますか?」

「・・・・・・・・・・」


 今はノイズ混じりで心を一から十までは読めないけれど、もしかして、彼は・・・・


「あの、励ましてくれてるんですか?」

「え、まあ、その、はい、一応」


 伝わってくるのは猛烈な羞恥とわずかな後悔、そして思いやりの心だった。なんてことだ。彼は、こんなウジウジした私にすら気遣いができるのか。私はそのことに思わず驚く、そして・・・


「やっぱり、デュオさんはいい人なんですね・・・」

「え?」


 やっぱりデュオさんは本当に底抜けのいい人だ。私みたいなの相手に心をさらけ出して、恥ずかしがりながらも励まそうとしてくれる。世間知らずな私だが、城の人間を知っていると、それは中々できることではないだろうと思う。間違いなく、褒められるべき行いなのだろう。けれど、それは私にとっては・・それは私を・・・


「私、自分が嫌いです」


 かえって自分がみじめだった。私は励ましてくれる人に何を言っているんだろうか。心は読めても霧で顔が見えないからこんな風に言えるんだろうか。


「デュオさんはすごいですよ。モンスターを引き寄せるなんて害にしかならなそうなのに、そのチカラを受け入れて、それなのに私はチカラから逃げて引きこもって人と関わらないようにするのが精いっぱいで」

「・・・・・・・」


 デュオさんは何も言わないが、私は止まらなかった。止まれなかった。


「私、さっきまで、デュオさんが、私とおんなじような人だったらいいなって思ってたんです。私と同じように自分のチカラも周りの人も嫌いで・・・・でもデュオさんはやっぱりいい人で、こんな嫌なことを考える私なんかを励ましてくれて・・・・私、自分がみじめで醜くて、嫌いです!!」


 もう泣きそうだった。泣いていないのは奇跡だろう。悲しいことには耐性がついているのかもしれない。


「・・・・・・・・・・」


デュオさんは何も言わないが、私には伝わってくる。その想いは・・・・


「え?」


 安堵だった。


「よかった、シルフィさんもいい人ですよ」

「なんで・・・・」


 意味が分からない。


「本当に醜い人だとかダメな人はそんなことは多分いいませんよ。自分はそんなんじゃないって怒るか、開き直って何にも感じないとか、そういう反応になると思います。」

「でも、私はデュオさんみたいにチカラと向き合えなくて・・・」

「それって、悪用もしなかったってことですよね?」

「え、えっ、違いますよ。私はただ他の人の「声」を聴かされるのが嫌だっただけで・・」


 それが真実だ。私はただ逃げただけ。臆病なだけだ。


「それでもです。僕にはあなたが受けてきた苦しみは分からないけど、心を読むチカラなんて悪用しようと思えばいくらでもできたはずです。欲のために人を殺せる人だっているんだから、悪人ならば一体それでどれくらいのことができるか・・・僕だって何かやらかすかもしれない」


 私にはデュオさんがそんなことをするとはとても思えないが、確かにこのチカラは悪用しようと思えばいくらでもできるだろう。私に取り入ろうとした他人のことなど気にしそうにない連中ならば、この国のトップに立てたかもしれない。


「というか、そもそも僕の体質とシルフィさんのチカラじゃあいろいろ違いますよ。僕の場合は人たくさんが住んでる町ならモンスターが寄ってきませんし、僕自身何かが起こってるのかそうでないか分からないときもあるくらいで、比べるのが間違ってます」

「デュオさん・・・・」


 今度はデュオさんが私の逃げ道を塞いでいくようだった。けれども、心の底から温かい何かが湧いてくる。嬉しかった。この忌々しいチカラを知っているのに、正直に、嫌がらずに、憎まずに、蔑まずに、こんな風に誰かに励ましてもらったのは生まれて初めてだ。お父様すら、私のチカラは知らないハズだし、知っていても今まで私には何の干渉もしてこなかったのだから。


「だから、その、僕はなんというか、偉そうなことを言うようだけど、シルフィさんにそういうことで卑屈にならないで欲しいんです」

「デュオさん・・・」


 本当に、この人は変わった人だ。会って間もない他人相手に、こんな風にお話ししてくるなんて。

 でも・・・・


「ありがとうございます」


 でも、やっぱりデュオさんは優しい人だ。

 顔は見えてないだろうけど、私は笑顔でそう返した。





「デュオさん・・・ありがとうございます」


 シルフィさんは笑ったような声でそう返してくれた。

 よかった。どうやら僕の上から目線の説教はうまくいったらしい。しかし・・・


「いえいえ、どういたしまして。ところで・・・・」

「ところで?」

「どうしてこんな話になったんでしたっけ?」

「え?あれ?」


 こうして僕らはまた振り出しに戻るのだった。

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