見える?見えない?
ああ、これは夢だ。
眠っていて、そう感じる瞬間がある。
それは思い通りになるようで、思い通りにならない事が起こるからだ。
風のように走ろうとして、鉛のように重くて走れない。
空を自在に飛ぼうとして、トランポリンのように跳ねるだけ、など。
神代秋良は夢を見ていた。
夢だと認識したのは、目の前にいる人物のせいだろう。
その姿は、銀の鍵を使った秋良と同じ姿の女。
違うとすれば、アードの有無か。
風でなびく髪を右手で抑え秋良に…いや、その向こうに居る誰かに向かって左手を大きく振ると、振り返って眼下に広がる景色を眺め微笑みを浮かべていた。
どんな景色を見ているのか?
興味を惹かれた秋良は女の場所まで歩くものの、僅か数歩の距離が一向に縮まない。
ふと女に目を向ければ、その右隣には褐色肌に短い銀髪を逆立てた偉丈夫がいた。
女が先ほど手を振っていた相手だろう。
服装は女と似ている。
が、男の顔は秋良の位置からでは見えない。
ただ女が嬉しそうに男へと寄り添う姿を見て、恋人か夫婦なのだろうと、そんな風に秋良は感じた。
-場面が変わった。
先ほどの男がおぼつかない足取りで歩いている。
やはり顔は見えない。
キズだらけで血を流し、まるで生きてる気配のない男の手には金と銀の定規。いや、カード?
金の鍵と銀の鍵とよく似ている。
女の姿は見えない。
男が城のような建物に入ると、シキが…いや、シキによく似た『天使のようなもの』が沢山現れて、男の後を付いていった。
『天使のようなもの達』の顔と胴体は良く似ていて、人間の女の顔に胴体には乳房を持ち、その背に一対の翼があった。
他に二対や三対の翼を持つものも。
腕や下半身にあたる部分は異形で、頭に角を持つものや輪っかを持つものもいた。
それらは、フラフラと歩き続ける男の後を追いかけていく。
-また場面が変わった。
銀の鍵をアード化させた女が天空を舞っていた。
そのアードの形状は左手の先にある円錐状の物は同じだが、秋良との違いは全体的に整った軽装の鎧のようにも見える。
そして女の顔は無表情で、何も映しておらず、アードの鉾の先端からレーザーのような光線を大地に照射し、照射された場所は大爆発が起こす。
照射された先は町。女は町々を壊滅させていた。
今度は男の姿が見えない。
秋良が周りを見渡そうとしたとき、
「秋良!!」
不意に名前を呼ばれ、秋良は目を覚ました。
そこには見慣れた天井もなく、いつも眠るベットでもない。
キツネ姿のリユの顔と白い空が見えた。
顔を上げた視線の先には、真っ白なシキ。
夢で見たような、天使のような姿をしたシキがいた。
パッと見た感じでは、人形に翼を生やした感じだ。
途端にズキリと体に痛みが走る。
「っ!…イッテェ…!」
痛みとその姿を見て秋良は思い出した。
彼は今、白い天使のようなシキ『メト』との勝負中だった事を。
秋良の手には、何枚かのカード。
痛みを堪えながら、ヨロヨロと立ち上がる。
「ひとつ、いいか?」
秋良が言葉を発すると、メトは「どうぞ」と仕草で表した。
「今更だがな…、な・ん・で!メンコ勝負なんだぁぁぁぁ!!」
手に持ったカードを一枚地面に叩きつけると、地面に予め置かれていたカードが二枚ほど裏返った。
「むぐふっ!」
メトは痛みに耐えるかのような声を上げた。
そう、この勝負は手持ち一枚裏返しにされるたびにダメージを負う謎仕様のメンコ勝負。
しかも割と細かいルールがあって、本格的だったりする。
「よし、二枚めくり!」
「まさか、敗れむと思わなかったぞ…」
捲られた枚数を見てリユが喜ぶ。
二枚裏返った事でメトの置き札は無くなり、秋良の勝ちが確定した。
ダメージによる痛みを堪えつつ片膝をついたメトが、自らの敗北を宣言した。
(捲られたらダメ受ける、が無きゃ面白いかも知れないのに…)
初めてやってみたメンコに、秋良自身は少し面白く感じていた。
残念な部分に溜め息を吐いた。
「シュシュ、先手必勝!」
突如として聞こえたタヌの声。
とっさに上を見上げた秋良の目に飛び込んできたのは、緑色の狸の股にぶら下がってる……アレ。
そう、アレが目の前の僅か数センチ先にあり、迫ってくる。
ぴと。
ダイレクトに触れた。
「目がぁー!目があああぁぁぁっ!!」
どこぞの大佐のような台詞を言い放ちながら、秋良は両目を押さえて悶え転げる。
精神的ダメージは計り知れない?
そう、タヌはあれから秋良の事を観察し、自らが持ちうる手で効果的なものを考え続けていた。
それが信楽焼の狸の姿になったシキのタヌにぶら下がっている、アレ。
男であれば、他者のアレに触れるのは苦痛でしかないだろう。一部を除いて。
タヌはソコを突いたというか、押し付けた。
「タヌ、我らの勝負を汚したな。」
秋良の様子を見たメトが、静かに怒りを込める。
が、タヌの姿を見る事は出来ず、手投げ槍のようなアードを手に警戒している。
「シュッシュッシュ。コヤツしかワシが見えぬのに、どうやって見つけぬのだ、メトよ?」
「ところが残念!僕も見えるんだよね、っと!」
「もごぬっ!?」
優越感に浸るタヌに、リユが完全に死角からの掌底を打ち込んだ。
以前秋良が質問した「秋良だけタヌが見えた理由」。
そう、リユは一度人間の姿になる事でタヌの姿を直前まで確認し、掌底を打ち込む直前でシキとなったのだ。
秋良以外には見えない、そう思い込んでいたタヌのミスであった。
赤いキ◯ネと緑のタヌ◯、決着の瞬間だった。
タヌの姿がみるみる変貌していく。
「お、おぬれ〜!」
タヌから信楽焼の狸の特徴がなくなっていき、タガメでもタヌキでもない、短い足と大きな甲羅。
タヌはミドリガメに進化した!
「ふぃー。」
タヌを撃退したリユは一息吐き、
「それはタヌ、だな?リユ。」
突然現れた亀を見たメトが聞いてきた。
「うん、これでもう鍵の争奪には参戦できないね。」
リユはミドリガメになったタヌを拾うと「近くの川まで行ってくる」と、その場を離れた。
メトもそれを見送るとアードを収め、
「秋良よ、良い勝負であった。
次の勝負は鍵の争奪ではない時に願む。」
そっとその場を後にした。
ちなみに秋良は、未だ精神ダメージから復活できないで悶えていた。
好まれないジャンルかも知れませんが、他に執筆中の小説「救世主ゲーム」と関わるものになってます。
作品に対するご意見、ご感想お待ちしています。