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縁も場所も遠い戦い?

 群島のとある場所、切り立った崖の上から眼下に広がる灰色の海を見つめる獅子がいた。

 いや、獅子と呼ぶには少し異様な姿と巨躯、異なる体色をしている。

 アロだ。


「ゴァァァ!!」


 紫の獅子アロが雄叫びを上げて海中へと突っ込んでいく。


「ガハァァァッ」


 が、わずか数秒もしないうちに海中の「何か」に弾き飛ばされていた。

 吹き飛ばされたアロは、勢いそのままに近くの島の木にしがみつき、木の上に上ってから海を睨む。

 やがて海中の「何か」はゆっくり浮上し、顔だけを見せる。

 その顔はクジラのようにも見えるが、海中に見える影はクジラなどよりもずっと長く、手のようなものも見える。

 なお、その身体の色は黒だ。


「アァァロォォォ」

「クッソ、相変わらず規格外よな!」


 そう、この黒いクジラこそ


「ワン!」


 なのである。


「オメェの持つ『鍵の情報』寄越しやがれよ!」

「無ぅ駄だぁぁ!貴様にぃぃ、理ぃ解などぉぉ、出来ぃんん!!」

「ぐおぉぉ?!」


 ワンの言葉の直後、アロは海面へと叩きつけられた。

 アロ自身油断なくワンを見据えて、攻撃に転じる瞬間を狙っていた。

 それにも関わらずワンの巨体は木の上にいたアロの頭上へと移動し、アロよりも巨大な拳振るって海面に叩きつけた。

 ワンの攻撃はそれだけにとどまらず、叩きつけられ衝撃で弾かれたアロ目掛けて巨体を生かしたボディプレスで押し潰す。

 更に驚くべきは、そこまでしてもワンの全体像が見えないことだろう。

 見えている部分だけでも既に二千メートル以上あるだろうか。


「貴様はなぁぁ、力にぃぃ振りぃ回されてるだけにすぎんん!」

「おのれ!生まれて何年もしねぇシキが!」


 なんとか這い出したアロだが、ダメージを受けたと思しき箇所には魚のようなウロコやヒレがついていた。

 容赦なくワンは攻撃を続けていく。

 その全ての攻撃をアロは避ける事も出来ずに受け続けていた。

 いや、避けようとしているのだ。

 それでもその先に、ワンの攻撃が待ち構えており、まるでアロが避けずにワンの攻撃を受けているように見えるのだ。


「もう諦めよ。貴様はぁ本質をぉ、見誤ったにすぎんん。」


 そう、ワンの持っている『鍵に関わる情報』は、そのまま『シキとしての強さ』であり、それ故に理不尽なまでの強さを誇っている。

 それに対するアロ自身、能力『払拭』を遺憾なく発揮し、『盾』のアードも使いこなす強者であり、イアと同等の実力を持つ。

 それが手加減されながらの一方的な戦いを強いられ、アロは哀れな姿へと変じていく。


「アァロよぉぉ、その姿が貴様の敗因ん。

 半魚としてぇ、生ぃき恥を晒せんん!」


 紫の獅子アロは、マーライオン(生物)に進化した!


 そのままアロは海の中へと逃げ、二度とシキへと戻れないまま一生を過ごす事になる。


 シキ同士の戦い。


 『知識』のシキが知識を押し付ける。

 『空想』のシキが認識を掻き乱す。

 『払拭』のシキが虚偽を取り払う。


 知識は空想に、空想は払拭に、払拭は知識に、それぞれ相性が悪い。

 そこにアードがあれば覆す事は可能だが、限度はある。


 シキ同士の戦いとは、相手をシキ以外に変じさせる事で決着とする。

 そういった意味ではリユもそうだが、シキとしての姿を持てる点ではまだシキであると言える。


「残るシキはぁ、後僅かぁぁ。

 鍵をぉ使うに値するぅ、シキは未だ現れぇんかぁ。」


 アロが消えた先を見てワンが呟くと、その眼を遠くに向ける。


「イィレギュラーのアァキラァ、貴様にもぉ理解出来ぬぅん。

 さぁぁ、誰が残らんとするぅぅ?」


 秋良の名はタヌが言いふらしていたのを聞いた訳ではなく、それより前ワンが予め調べて知っていた。

 シキではないのに、シキとしての本質を持つ何か。

 故にイレギュラーと称した。


 ワンはそっと眼を閉じ、海中奥深くへと潜っていく。

 次、がやってくるのを待つ為に。



 ◆



 日曜日の穏やかな朝には程遠い


「ふおぉぉぉ!!」


 秋良の叫びが聞こえる神代家。

 最近の風物詩でもある。

 春香の夢を見たせいか、着替え始めるまで変身している事に気付かなかった秋良の叫びだ。

 とっさに戻りはしたものの、姉である人のアレコレを見るのは忍びない。

 特に先週の夏希と奏都のアレとかも。

 正確には、見せられても困るが。


「時々心臓に悪いな、この状態…」


 着替え終わった秋良が呟く。

 安易に変身しなくはなったが、夢を見たり、何かに熱中すると変身する。

 なかなか面倒な状態の中で救いなのは、家族の前や学校にいる時はまだ変身していない事だろう。

 特に学校では寝る訳にもいかなくなったので、少し勉強が理解できるようになったのは嬉しいような嬉しくないような複雑な状態だ。


「ん?学校といや、なんか忘れてるような?」


 ふと、学校でなにかあった事を思い出そうとする秋良だが、軽くノックをして入って来た春香に思考を遮られた。


「秋ちゃーん、お昼前に羊羹買いに行くけど、秋ちゃんも食べるよね?」

「あ?うん、いや、俺も一緒に行くよ。」


 当然の事のように一緒に行くと言った秋良に対し、春香は嬉しそうな顔を浮かべて言葉を続けた。


「ありがと。それなら理有ちゃんも一緒に誘ってみんなでお出掛けしましょうか。

 そうそう、理有ちゃんにも伝えないとね。」


 両手の平をポンと合わせた後、春香は部屋を出てリユの部屋へと向かった。


 その後、商店街では春香が羊羹の一枚流し『業務用』を人数分買おうとするのを止める秋良が目撃された。

ワンの声は、あの人のイメージです。

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