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それぞれの秘密?

「奏都さんがね、時々でいいから音子ちゃんの話し相手に遊びに来て欲しい、って。」


 夏希がそう言ってから一カ月が経過している。

 しかし秋良は秋良で、音子に対する苦手意識とリユとの出会いによって、会いに行けないでいた。


 タガメのタヌをタヌキにしてから一週間。


 秋良は見たものに変身する事はなくなり、強くイメージしたものに変身するようにはなったが、銀の鍵をアードとして使用し即解除する事で、元に戻れるようになっていた。

 変身後の秋良は幸い?にもシキのような状態で普通の人には見えず、加えて身体能力が高くなっている為、ちょっとした移動などに重宝していた。

 女の子の姿になるのは慣れていないが。


 一方で、リユが常時人間化した事により、衣食住の必要が出てしまった。

 人としての知識や常識は持っていたが、生活する為に必要なモノー特にお金ーが無かった。

 常にアードを展開していればシキのままいられるのだが、シキであっても睡眠は必要であり、眠ってしまえばアードの展開が出来ずに人間になってしまう。

まして、人間化したリユの外見は十五歳前後の少女。

 いきなり家に連れ込む訳にも、野宿等させる訳にもいかず、秋良は素直に両親に説得を試みた。

 嘘は無いが本当でも無い説得を。


「えぇと、この子は前に助けて貰った事があるんだけど…」


 つい先程だが、前は前だ。


「事情があって天涯孤独の身になったから、少しの間ウチに住まわせてあげられないかなー、と?」


 突拍子のない怪しい説得だと思ったが、スムーズに受け入れられた。

名前も『赤井理有』として馴染んだ。


「少しは捻れええぇぇぇ!!」


 秋良自身が考えた名前に、後で自分に突っ込んでいた。

 そしてリユに当てがわれた部屋の掃除、衣服の調達(春香と夏希のお古)、小物の買い出し、リユのバイト探しといった具合に落ち着く暇が無かった。


 これがタガメのタヌをタヌキにしてから一週間の主な出来事だ。


 渡良家、前。


 春香に用意して貰った見舞い品を手に、秋良は突っ込みを入れようか真剣に悩んでいた。

 リユも人間の姿で付いてきている。

 渡良家の玄関先でイチャついていたカップルは、秋良の姿を見て固まっていた。

 そう、両家公認カップル奏都と夏希だ。

 今日の逢瀬の別れを惜しむかのように長いキスをしていた二人に、リユの「あ、夏希がチューしてる。」と持ち前の明るさと無邪気さで場を凍てつかせた。

 気まずい雰囲気。

 見知らぬ他人ならともかく、身内に見られるのは気恥ずかしいものである。

 そして何かを諦めた秋良は、満面の笑みを浮かべてつつ、リユの手を引きそっとその場を後にした。

 真っ赤な顔をした二人に引き止められたのは言うまでも無い。


「はじめまして、赤井理有です。」


 渡良家のリビングにて、リユは自己紹介した。

 『事情』は既に説明済みだ。


「天涯孤独なんて、そうそうは…」


 常識人である奏都が言いかけて、ハッと何かに気付いた。


「ああ、いや、済まない。気にしないでくれ。」


 一人何かに納得したようだ。

 音子と奏都も続けて軽く自己紹介を済ませ、音子が人差し指で秋良の荷物を指摘する。


「ごめん、忘れてた。コレ、春姉ちゃんから。」


 バッグから出てきたのはやや大きめの水筒と大きなタッパーが二つ。

 いや、業務用サイズのタッパーと言ってもいいかも知れない。


「春ちゃん土産なら、冷茶と寒天ゼリーだねん。

 ハマっちょるし。」


 いつもの事なのだろう、音子がそう断言した。


「春ちゃん、和菓子好きだからね…」


 夏希は少し青い顔をしている。


「相変わらず、量が多いね。」


 奏都は苦笑している。


「春姉ちゃん結構食うしね。」


 秋良はいつも春香がタッパーいっぱいの寒天をペロリと食べるのを何時も見ているので、感覚が少しズレている。


「ま、残ったら父っちゃと母っちゃも食うべ。」


 音子の言葉に奏都は苦笑しつつ、もう一つのタッパーを冷蔵庫にしまい、人数分のとりわけ皿とグラスを用意する。


「てか秋良よ。」


 音子がビシッと秋良に指を差す。


「お兄様と夏ちゃんがチュッチュしとって、気まずくなかーたかい?」


 見ていない筈の音子に蒸し返されて、再び凍り付く奏都と夏希。


「そりゃあ、き…」

「んとに、もう、『夏希ー、夏希ー』って言いながら部屋で自家発電しとんのだから、サッサとにゃんにゃんして、子供でもつくりゃーえーのに。」


 秋良の言葉を待たずに音子が爆弾…それも核レベルの発言を投下した。


(もう止めて!?二人のHPは0よ!)


 秋良の頭の中にそんなログが流れた。


 三十分もすると音子に狙われ続けた奏都と夏希は、「用事」を思い出して逃げるように退散。

 火の粉が降りかからないよう黙っていた秋良と話についていけなかったリユは、音子の魔の手から逃げるのに失敗していた。


「さーて、そこの秋良くんやー。」


 その言葉でターゲットが自分に移った事を秋良は悟り、ビクリ身を震わせた。


「あ、ちゃう。」


 言ってすぐ違う、と身振りする音子に、何が違うのだろう、と秋良は不意に音子を見てしまう。


「そこの銀色のニューハーフくんと、赤井フォックス理有ちゃんや。」

「ニューハーフじゃねえぇぇぇっ!!」

「な?」


 突っ込んでから「しまった!」という表情をする秋良に、よく分かってないリユ。

 その様子を見て音子はニヤニヤと笑い、


「カツ丼、食うか?」


 と、優しく語りかけた。


「ほむほむ、なるほろねー。」


 うんうん、と頷く音子だが、カツ丼は出していない。


「まだ何も話してねーし…」


 どこから話そうと思っていた秋良は、力なく突っ込む。


「要は、銀の鍵ってやつのせいで変身体質になったけど、理有ちゃんのおかげでニューハーフになって変身しにくくなったって訳だしょ?」

「だからニューハーフじゃねえって……は?」


 話してもいない内容をスラスラ纏めた音子に秋良の目が点になった。


「にゃはは、コレだよコーレ。」


 ポケットから取り出したのは、規則正しく幾何学模様が刻まれた定規…だが、メモリはなく、色は金色。

 それに反応したのは…


「金の鍵!」


 リユだった。


「二カ月くらい前?これ見つけてから、色々聞こえるよーなって、うっさくてさー。

 先週かな?そん時は動く緑色の信楽焼のタヌキ見っけて、あれは笑ろーたね。」


 タヌだ…と二人が思うと、


「タヌって名前…にゃはは、そのまんまだね。」

「なあ、音姉ちゃん?もしかして、マジで?」

「金の鍵はね、銀の鍵と逆で、えーと」

「外部にある存在の内部表層の情報を読み取り、それに対する保護と防衛手段の確保、だしょ?」


 リユの持つ情報を読み取ったのか、音子が代わりに説明してみせた。


「銀の鍵ってのが、自身の内面情報を増幅し、放出し、変質する攻撃的手段の確保、な訳ねん。」


 聞いてはいないが、秋良が銀の鍵がどんなものか気になった為、音子が続けて説明してくれた。

 説明の苦手なリユは代わって説明してくれた音子に感動していた。



「お?金の鍵と銀の鍵が揃うと願いが叶う?」

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