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「ねこ」との約束?

 とある住宅街の一角に住む『渡良わたり』家の四人。

 神代家の父親と渡良家の両親が幼馴染ということもあって、家族ぐるみでの付き合いとなり、両家の子供達も幼馴染以上に親しい関係が続いている。

 現に夏希と渡良家の長男『奏都かなと』は、両家両親公認の仲だ。


 渡良家は特別裕福ではなく、かといって生活に困る程の貧乏でもない、家族四人が慎ましく生活し、時折贅沢を出来るといった感じである。


 さて、そんな渡良家のリビングにて、クッションソファにもたれかかる少女は…いや、訂正。

 見た目こそ少女だが、間も無く二十歳になろうかという女性の名前は『音子おとね』。

 奏都の妹である。

 小さな頃は呼び方でからかわれたのは、言うまでもないだろう。


 音子はリビングで庭に近い窓辺、物憂げな表情で庭先を見つめている。

わりと整った容姿と腰に届きそうな長い黒髪、着ているワンピースから分かるやや控えめなスタイルは、シチュエーションが揃えば深窓の令嬢と称されてもおかしくはない。

 しかし、ゴロ寝スタイルでソファに座り、庭からは見えない後ろ姿はパンツが丸見え、更に庭には子供用の遊具が置いてあったりと色々台無しである。


「「「ねこおねーちゃん!」」」


 突然庭にやってきたのは5〜6才くらいの子供三人。

 男の子二人に女の子一人だ。


「おーっす。」


 変わらぬ姿勢のまま音子が手を軽く上げて挨拶をすると


「「「こんにちは!」」」


 三人は元気良く挨拶を返した。

 何故子供がやってきたかというなら、言うまでもなく近所に公園がない事と遊具目当てだ。

 少しませた男の子なら、音子目当てもあるだろう。

 親御さん達も音子の事情を知っており、面倒を見てくれるともあって、一種の託児所にもなっている。


「今日も遊ぶ前に、ねこと約束しよー。」


 ちなみに「ねこ」とは音子の事で、近所の子にそう呼ばせている。

 音子は人差し指を立てると


「このお庭にある物は?」

「「「もっていかなーい。」」」


 うんうんと頷き、中指を立ててピースになる。


「遊具で遊ぶ順番は?」

「「「まもるー!」」」


 今度は頷かないで、さらに薬指を立てた。


「ねこの見えない所に?」

「「「いかなーい」」」


 そして小指をたてて


「ケンカをしたら?」

「「「ねこおねーちゃんが怒るまえにあやまるー!」」」


 うんうん、と頷く音子は、親指を立ててこれが本命とばかりにニヤリと笑う。


「(英語による罵倒の為、自主規制)」

「「「サーイエッサー!」」」


 音子の言葉に子供三人、軍隊のようにピシッと背筋を伸ばして敬礼をした。


「よし、遊んどいでー。」


 その言葉に三人はキャーキャー言いながら遊具で遊び始める。


「子供になんつー事言うんだ、お前は…パンツ丸出しで。」


 兄、奏都が音子のワンピースの裾を引っ張ってパンツを隠しつつ、呆れた声を出す。


「にゃはは、アメリカ海兵式の気合の入れ方でさぁ。

 日本語だと、約束を守れなかった奴はさっさと帰ってママのおっぱいでも飲んでろ!って。」

「訳すなよ…」


 自主規制したのに台無しである。

 奏都は残念な娘になってしまった妹に溜め息を吐く。


「あ。」


 何かに気づいた音子は奏都の方に両腕を伸ばし


「兄上ー、だっこー」


 躊躇いもせずに言った。


「はいよ。」


 奏都も何を意図しているか分かっているので、同じく躊躇いもなく音子を抱き上げて立たせる。


「大丈夫か?」

「あんがとー(≧∇≦)」

「言葉で顔文字表現はヤメロ。」

「にゃは。子供達ちょと見ててねー。」


 そう言った音子は遅い、いやあまりに遅すぎる足取りでトイレへと向かっていった。

 その姿を悲痛な表情で見ていた奏都だが、音子が少しでも明るく振舞っているのに、自分が暗くなっても仕方ないとばかりに頭を振る。

 十五分程して戻って来た音子は、奏都の手を借りてゆっくりとソファに寝転ぶ。

 今度はパンツ丸出しではない。


「ありがとー、お兄ちゃん。」


 ふとしたキッカケで昔のように自分を呼ぶ妹に対してドキッとしてしまうのは、シスコンなのだろうか?と悩みそうになる奏都。


「ところで、気になったんだけろー?」


 とはいえ、音子の調子はすぐにいつものものに.


「うん?」

「今日は夏ちゃんに会う日ー?」

「そうだよ。何か伝言とかあったのか?」


 事情から外に出られない音子は、母に買い物を、奏都には伝言や母が買いに行きづらい物を頼んでいる。


「いやー、動けんくなってから春ちゃん以外に会っとらんなーって思うてさ。」

「あー、そうか…確かにそうだな…」


 自分達は節目やイベント毎に会っている為気づかなかったが、音子はすでに二年近くも神代家の人達に会っていないな、と奏都は考える。

 神代春香だけは、毎月一回か二回お見舞いと称して訪れていた。

 家族以外の接点は、春香と近所の子供達だけだった事に気付いた。


「ごめんな、暇があればお前ん所にも遊びに来いってそれとなく言っとくよ。」

「んにゃ、そうじゃねーけろ…まあいいか?」


 音子は自分が意図した事と違う解釈をした兄を否定しようとして、それはそれでアリだなーと思い直した。


 庭に目を向けると


 さらにやって来た五人の子供達が壁沿いに並び、最初の三人が面と向かい合うように並んでいる。

 そして、先程音子が言った五つの約束を復唱させられていた。

 「サーイエッサー!」だけ、軍隊張りの気合いの入った声を出している。

 その後子供達は気にする風でもなく、仲良く遊びだした。


「ひでぇわ。」


 頭を抱える奏都に対して、音子は満足気に頷くと


『ねぇねぇ、ねこともお話しよー?』


 流暢な英語で子供達に話しかける。

 英語を理解できた子供達の内四人は音子の側に近寄り、男の子の一人が


『ハッハッハ、ねこおねーちゃんはさみしがり屋だね。』


 同じく流暢な英語で喋り出した。


『だって、パパもママも居ないのよ?』


 音子の言葉で確かに今両親はいないな、と思うと同時に妙な芝居掛かっているセリフに苦悩する奏都。


『それは確かに寂しいね。』


 それに乗って続ける子供達。


『私もパパとママ居ないと寂しいわ!』

『オイオイ、皆さみしがり屋かい?』

『マイク、君は違うって言うのかい?』


 マイクって誰だ?と奏都は心で突っ込む。


『聞くだけ野暮だろ?当然、俺もさみしがり屋さ!

 そうとなれば、皆で慰め合おうじゃないか!!』

『ウフフ、楽しみね。』


 英語で妙な会話しだした音子と四人の子供達は、親御さんが迎えに来るまで話続けた。



夕食中。



「近所の親御さんがね、子供を将来の為に英会話教室通わせようとしたら、先生から通う必要が無いって言われたらしいわ。」


 実情を知らない渡良家の母の言葉。


「ほう?それだけ英会話が出来るって事か?親御さんも勉強熱心だなぁ。」


 続けて事情を知らない父の言葉。


「そうね、私も英会話習おうかしら?

 覚えておいて損はないもの。ね、音子ちゃん?」


 母が隣に座る音子に話題を振る。


「いえーす、あい、どぅー」

「ぶふっ」


 音子の投げやりとも取れる返事に、真相を知る奏都が食べかけた海老フライを思いっきり吹いた。


「おいおい、むせたのか?」


 父が奏都のグラスに水を注ぐ一方で、母は発射された海老フライを空中キャッチしていた。


「い、いや、ナンデモナイ…」


 その英会話を教えてるのが音子だと言っても、きっと恐らく信じないだろう事を奏都は感じていた。

渡良音子、別名ドラネコ登場です。

クラスメイトとか、他のシキ戦もありましたが、展開を早めることにしました。

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