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蛇足的な話、終わると物語が始まる!

本日2話目。

語られなかった美月の話になります。

これは夢。

かつて起きた出来事でありながら、これから起こる筈だった未来。

そう、銀の鍵の記憶。



◆◆◆



黒き者に母を殺された少女と、少女を救った黄金の鎧に身を包む青年の話。



青年の名前はエブカ。

黒き者と戦う天上神の1柱、武神エブカ。

それが彼の名だ。

そして、すでに彼以外の神は存在しない。


なぜか?


理由は簡単。

全ては黒き者がその命を奪ったに他ならない。

対する黒き者は虚空の彼方(つまり宇宙)より来訪した神であり、天上と地上に住む命を無作為に奪い続けた為に邪神とされた。


天上神達もただ見ていた訳ではない。

力ある神は黒き者を討ち倒さんとして戦いを挑み、地上に住む者達にも、対抗手段を模索するよう神託を授けた。

しかし、なんの成果も得られないまま時は過ぎ、天上神はエブカを残して命を落とし、それに従う聖霊達も100程にまで減った。

地上に住む者達も辛うじて数千万と残っていたが、知恵ある者で言えば数百万人しか残っていなかった。


つまり、この世界は今武神エブカ一人で守られてはいるが、邪神によって緩やかに滅びようとしている世界であった。


そして。

そのタイミングで、秋良と美月はやってきた。


側から見ればただの人間。

しかし、内在するその力はエブカと同じ。

いずれ脅威になると感じた邪神は、早々に殺す事を決め訪れるが、そこで面白いものを目にした。

二人の『()』は邪神たる自らが現れても能力を解放しない、それどころか内一人はそのまま立ち向かってきたのだ。

そして思いつく。

エブカに勝てないなら、エブカと同等の力を秘めた者を自らの器にしてしまえ、と。

年の若そうな方(美月)を選んだ邪神は、秋良を殺し、泣き喚く美月を気絶させた後にこの場を去ろうとするが…


「貴様、どれ程の命を奪えば気の済むのだ。

命とは尊く、儚く、慈しみ、育み、鍛えるものぞ!」


黄金の鎧に身を包む武神エブカが怒りを露わにして大地に降り立ち、その圧倒的な力で美月を保護して邪神を退けた。

その後の美月はエブカに連れられ天上界に住む事になるが、『()』を失ったショックからか、徐々に言動が乱暴になっていった。



ーー美月16歳。



知恵を持つ者が十万を切った頃、全ての生物を天上界へと送ったエブカが城へと戻る道中、天上界の淵に佇む美月を見つけて声を送る。

それに気づいた美月は振り向き、彼に手を振ると


「おうエブカ、おかえりー!」


彼の帰りを迎えた。

美月は荒れた自分を見捨てることなく側にいて、普段の口数が少なくても、言うべき事はハッキリ言ってくれるエブカに惹かれた。

対するエブカも乱暴は言葉を使う美月に戸惑い、当初は小言も言ったが今ではなりを潜め、乱暴なようで細やかな気遣いの出来る美月に惹かれた。

惹かれあった二人は当然のように添い遂げ、邪神の脅威に晒される中、暗く沈む人達への明るい話題ともなった。

そこ、エブカがロリコンなんて言っちゃいけない。


「ミツキ、何を見ていたんだ?」


エブカがミツキの隣に立つと、ミツキは彼の太い腕に抱きつきながら空いた左手で地上を指差し


「エブカが邪神を倒したらさ、城じゃなくてああいう島で二人っきりで過ごしてーなって思ってさ。

ああ、でも…」


そこまで言ってミツキは頬を赤らめ


「ここ、子供とか?増えるのもいいんじゃねーか?とか…」


声が裏返りながらも勢いで言い放ち、湯気が出るのでは?と思うほどに顔を真っ赤にした。

そんなミツキを見てエブカは柔らかな笑みを浮かべ


「そうだな。」


ただ一言囁いて、右手で美月の髪をそっと撫でた。


「お、おう!」


二人はこの約束が果たされるように、とそっと口付けを交わした。

幸せな二人を妬む影に気づかぬまま。



ーー美月19歳。



それはエブカが邪神と戦っている時に起こった。

ミツキは城の一角で身を隠し、『ソレ』が過ぎ去るのを待った。


「おい、居たか?」

「いや居ねえ。」

「チッ、こっちもだ!」


ソレ、とは人間だ。

彼らが探しているのはミツキ。

なぜか?


この数年終わる事のない邪神の脅威から目を背ける為、男は女を性の捌け口として物のように扱い、女は現状に絶望して天上界より身を投げたのだ。

残った女は老人や相手にされなかった醜女。

エブカの妻であるミツキのみだった。

その為、女を道具のように見てきた男達がどうするか、など火を見るより明らかだった。


ミツキを全ての男達の性の捌け口とする為。


ミツキが事態に気付いたのは直前のこと。

老婆が「男どもがお前さんを狙っている」と報せてくれたのだ。


(エブカの居ない時に狙うとか…ムカつく!!)


憤りを感じつつも彼女が逃げようと思った先にあるのは、城の最上層にあるエブカの部屋であり、そこは彼に認められた者以外は入れない。

エブカに認められているミツキは、身を守る為に最上層まで一気にやって来たのだが、先にエブカの部屋の前にいた男達のせいで少し前の部屋で隠れる羽目になってしまった。


(クソ、もう少しだってのに!)


隙を見て駆け出したい所だが、ミツキの隠れている部屋からエブカの部屋までは、広間を通り、空中回廊を渡らなければならない。

距離にすれば200メートル程だが、広間には男が1人見張っており、駆け出そうにも追い付かれる可能性が高い。

何よりこのまま隠れていても見つかってしまうだろう。

ミツキは意を決して、広間にいる男がこちらを向いてない時に駆け出したが…


「ッ!!」

「あ…!?」


隣の部屋から出てきた男と遭遇する。

男がミツキを見つけたと叫び、ミツキは足を止めることなく広間を抜けて空中回廊へとたどり着く…事は出来ず、帯を掴まれバランスを崩す。

踏み出そうとした足は空中回廊から外れ、男は巻き込まれまいととっさに手を離した。

ミツキはそのまま…


エブカが城に戻ったのは夜だった。


彼の腕の中には、物言わぬ体となった美月。

ミツキの支えと、多くの仲間の犠牲の果てに邪神を討ち滅ぼし、ようやく平和な世界でミツキと共に過ごせる事を喜び勇んで戻ってくれば、その勝利も平和も全てを台無しにする惨状が待っていた。

彼は声もなく涙を流し、やがて夜が明けるとミツキを抱いたままフラリと立ち上がる。


「聖霊よ、私に続け。」


ただ一言の呟きで天使のような見た目をした聖霊達がエブカの後を追う。

そのエブカの手には金と銀のアードが握られていた。



ーー美月が生きていれば二十歳。



虚ろな目をしたエブカが鍵の間で壁を背に座り込み、ただ無為に過ごし虚空を見つめていた。

その虚空に朝焼けのような光が集まり、同じく朝焼けの髪をした少女が一糸まとわぬ姿を表す。


「やっぱ同じんなるかー。」


若草色の瞳が廃人のような姿のエブカを見下ろし、ため息を吐いた。


「おい、なーに呆けてるかね?

もーすぐ美月ちゃんの姿した金銀アードが、世界を滅ぼしにやってくんぞい。」


少女の言葉…というより、『美月』の単語に反応してエブカが少女を見る。


「ミツキ…?」

「そーそー。でもーて、アタシはイリューディストっつー名前なんだけろ、エレムネリっつった方が通じるよねん?」


彼女の名前を聞いてエブカはモゴモゴと少女エレムネリの名前を繰り返すと、何かに思い至ったのか、目を見開いて居住まいを正し、頭を地面に打ち付けるかのような勢いで土下座をした。


「救済の始祖神エレムネリ様でしたか!

見苦しい姿を晒し、恥ずかしい限り!!」

「救済の始祖神って…アタシそんな風に伝わっとんの?」


呆れたような声を出しつつも、エレムネリの表情は楽しげに指先で頬をかく。


「まあいーや。んでね、この星を破壊してでも美月ちゃんもろとも金銀アードを壊しちゃえ。」


声のトーンは変わらないが、エレムネリの言葉はエブカを絶句させるものだった。


「な、何故ミツキを…!」

「言わんでも分かるっしょー?

そもそも『お前が望んだ事』よん。」

「そ、…んな…元の世界に…」


思い当たる事があるエブカはガックリと項垂れ、拳を握りしめて床を叩いている。

エレムネリは両手を広げ


「願ったでしょー。

美月ちゃんが帰れますよーに、世界が滅びますよーにって。

だから金銀アードは叶えた。」


祈るような仕草、地団駄を踏むような仕草をした後、エブカの目の前で不機嫌そうに胡座をかいて頰肘をつく。


「美月ちゃんの身体を使って、美月ちゃんの世界とこの世界を滅ぼそう、と。」


盛大なため息を吐いた。


「アレはもう美月ちゃんと同化してっから、壊す以外には救われんだろーね。

願いを言うなら、正しく理解して言わんとダメダメよーん。」


その格好のまま、エレムネリはフワフワと浮き上がり


「ほらやって来るぞー?

さーん、にーい、いーち…」


ドオォォーーーーーンッ!!


彼女の言葉通りなのか、何かが地表に衝突するような衝撃音。


「ま、まさか、これが…!」


エブカが顔を青ざめながら城を出れば、天上界近くまで舞い上がった土埃と、その土埃から何かが飛び出る影があった。


「あれがミツキだと言うのか…!!」


姿は美月、ただし、その身体を構成する色は『金』と『銀』のみ。

美月を模した何か、と言っても間違いはないだろう。


「実体のないアタシはなんも出来んし、美月ちゃんをどーすっかはお前にしか出来んよ。」


いつの間にか横にいたエレムネリが、美月と戦うかどうかの選択肢を迫る。

こうしている間にも、美月は銀のアードの槍の先端部から光線を発射し、大地に破壊をもたらしている。

その破壊の跡は、街から街道をなぞり、その先にある街へと続く。

それはまるで、生き残った人々をジワリジワリと追い詰めて殺していくように…


「あれでは…邪神そのものではないか…!」


膝をつき、天上界の大地に拳を叩きつけ、エブカは美月のやっている事に嘆くが、すぐさま覚悟を決めた顔をして立ち上がる。


「おお?立ち直りはえー。」

「茶化さないでくだされ、エレムネリ様。

自らの過ちは我が手で正さねば、また同じ過ちを繰り返してしまう。

そして我に出来る事は、この手でどちらも救う道を切り拓く他ありません。」


エブカの言葉を聞いたエレムネリはニヤリ、と笑い「やってごらんよ。」とエブカの決意を促した。



◆◆◆



鍵の間でフワフワと浮くエレムネリの周囲には、砕けた金と銀のアードが彼女を中心に回っていた。

その内の金と銀のカケラをそれぞれ鍵の形へと変え、残ったカケラはエレムネリが作り出した黒い球体へと吸い込まれていった。


「はい終わりー。」


エレムネリの言葉に反応するかのように、多くの聖霊が彼女の元に集う。


「んじゃコレ、あとよろしゅー!」


彼女の言葉に頷いた聖霊は金と銀の鍵を受け取り、受け取った聖霊は驚きの表情を見せるものの、何かを理解したのか決意を込めた目でしっかりと頷いた。


「…にしてもねー。」


鍵の間から出て、そこから見える景色は星空。

上も下も、大地は無く空もない。

見えるのは星空のみ。

エレムネリは気にせず、大きく伸びをする。


「美月ちゃんとエブカは相打ち、余波で地上は崩壊。

その余波は天上界にも影響を受けて、球体状になって宇宙を彷徨う、と。」


言わなくても分かる事をわざわざ口に出して語る。


「んーでもって、『王の間』だけじゃにゃーて、具体的な行動したり、『秋良』とほぼ同年代に産まれんとね。

こんだけやりゃいいっしょー!」


ビシィッと効果音がつきそうな程、宇宙の彼方へ指を差し


「いざ、45億年前の『地球』へ!!」


それは物語となる舞台へ。

【ネタバレ】

・神代家→四季の名を持つ三人の兄弟姉妹で「冬」が居ないのは、春香が幼い頃重病を患った為に四人目を授かる余裕が無くなった為。


・シキとは?→元は万物に宿る聖霊であり、地球的には妖怪、妖精、天使、悪魔と呼称される。

食べ物を与える時は、与えた人の想いも食べてしまう為、注意が必要。


・カギの継承者争奪戦→エレムネリ(後述)が決めた100年に一度の争い。

七夕の日までに決着を付けよう。

ルールを守らない子は参加できません!


・アード→争奪戦へ参加する為に必要なもの。

三つ巴の性質があるけど、能力次第では覆せたりする。

全部で108個。コンプしよう!


・虹のアード→アードを造る為のアード。

同化も擬態もお手の物。

あらゆる意を汲んで願いを叶えるシステムも搭載。

理不尽が作った理不尽なアード。


・エレムネリ→本名はイリューディストらしい。

理不尽なアードを作ったり、様々な仕掛けを残しておきながら、自身の事については一切謎。

エレムネリという名を気に入っており、後世では救済の始祖神として知られていた。


・エブカ→異世界で武闘を司る神様…かと思えば、同じ宇宙の違う星の神様。

非常に仲間想いで、金のアードを使いこなしていた。

美月にべた惚れしてた。


・異世界→異世界と思わせておいて、地球と同じ宇宙の違う星だった。

天上界が後の地球の月となるが、太陽系に辿り着くまで人類の歴史よりも長い時間が必要。


・渡良音子→エレムネリの因子を持っていた子で、ある切っ掛けで因子を目覚めさせたが、性格はエレムネリになった残念な子。

超人的な能力に目覚めた代償に身体が耐え切れず、死を早めてしまった。

物語上の歴史では存在していなかった子。


・早希→実はヒロインだった。

リユが人間になれた事でリタイアし、アードを渡す予定だった。



ここまで読んで頂き、ありがとうございます。

「願いの鍵」はこの話で完結となります。

1年以上にもなる遅筆連載となりましたが、読んで頂いた皆様のお暇潰しになればと思います。

次の連載も考えておりますが、しばらくはショートストーリーズを書く予定ですので、興味があればそちらもよろしくお願いします。


最後に重ねて、ありがとうございました。

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