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聞いてない?

「ここはいつも暗いの。」

「それ言うの何度目だよ。 おめぇは好き好んで居るんだろぅがよ。」


 空は漆黒でありながら大地は真っ白な場所に降り立った黄色くワラビーのようなケモノが愚痴をこぼすと、紫色の獅子のようなケモノがツッコミを入れた。


「うるさいの。そんな事知らないの。」

「へいへい、でよ、リユはどうしたよ?」

「銀の鍵使えないクセに強いの。逃げたの。」


 そう、秋良が商店街で見た「黄色い何か」はこのワラビーである。


「マジかよ。」

「マジなの。 リユはアード(・・・)を使いこなしてるの。」


 そう言ったワラビーは不満そうに自分の首にかけられてるネックレスを見る。


「イア、すぐ行くのかよ?」

「行かないの。 行きたいならアロが行けばいいの。」


 黄色いワラビー、イアはその場で丸くなると、目を閉じてすぐ寝息を立てた。


「リユがイアを疲れさせる、かよ。 すげえよ、リユ。」


 クックック、と笑いを堪える紫の獅子アロであった。



 ◆


「なんじゃこりゃぁぁぁ!!!!!」


 日曜日の爽やかな朝、神代家に秋良の叫びが響く。

 叫んだ後、自分の体を隠すように布団に包まった秋良の顔は真っ赤だ。

 そう、彼は今、女の子(・・・)に変身している。

 着替えようとして上着を脱いだ彼に待っていたのは、女性の胸。 そして絶叫に繋がる。


「大した変化じゃなくてよかったねー。」

「よくねぇ!」


 リユが欠伸をしながら呑気なことを言い、秋良が突っ込んだ。

 なお、リユの姿は神代家の面々に認識されず、家の中を自由に歩き回っている。休む時は秋良の部屋なので、こうした受け答えができる。


「どうすんだよ、これ!?」


 「不安定で変身する上に、心までそうなる」とは聞けば、実際変身した時の動揺は隠せない。

 ついでにいえば、その不安から女の子の体になっても、心まで女の子になってしまえば状況を楽しむなんてできないのだ。


「んじゃ、写真でもなんでもいいから、自分の姿イメージできるものを見てね?」

「写真?」


 リユの説明を聞いて、秋良はスマホの写メを見ると数日前に冗談で撮った自撮り写メ。


「えーと…っしゃ! あった!」

「準備オッケーならいくよ?」

「おう!」


 ぺシっとリユの肉球が額にあたる。


「ちょっと痛いかもだけど、ガマンしてね!っと!」


 バチン!という音と共に、リユの肉球から電気のような痛みが走る。

 それも、ちょっとどころではない激しい痛みが。 当然ガマンできるはずもなく…… 


「痛ってぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!!!!!!!!!!」


 秋良の叫びが再び神代家に響き渡った。

 無事男に戻れた秋良ではあるが、うるさいと叱られたのは言うまでもない。



 ◆



 神代家。 今更だが紹介しよう。

 大黒柱である父、その妻である母、双子の長女春香、双子の次女夏希、変態する長男の秋良の5人家族である。


「誰が変態だ!」


 語りにツッコミを入れる秋良。


「なにしてるんだい?」


 そんな秋良に首を傾げるリユ。

 さて、神社の裏でコソコソしている秋良は人目につかない林へと入って行く。


 理由は明白だ。


 目の前に幼女が通り過ぎれば幼女に変身し、ストリートファイトをしている老人を見れば老人に、新幹線に轢かれそうな犬を見ればヒーロー超人に、といった具合に「見て」「イメージして」「その姿が反映される」のだ。

 勿論、その都度痛い思いをして元に戻っている。

 そこで痛い目に合わずに元に戻れないか?と、リユに相談したところ「あるにはあるよ」と言われたのだ。

 人気もない林まで来たのは、変身後の姿を見られないようにする為と戻る時に痛みで叫ぶのをあまり聞かれないようにする為である。


「で?どうやるんだ、リユ?」

「うん、まずは下準備ー、と。」


 リユは秋良に見せるように両手を突き出すと、その両手首にはいつの間にか腕輪が装着されていた。


「それは?」


 その腕輪は、サビ色で何の飾り気もないが、外側にひとつだけ、少しくすんだ赤い宝石のようなものが取り付けられていた。


「ちょっと…待ってね… 」


 集中を乱したくないのか、リユはさらにチカラを込める。

 すると腕輪はサビ色から金色の装飾へと変化し、くすんでいた赤い宝石もルビーのような輝きを放つ。


「おぉー…」


 思わず感嘆の声を上げる秋良だが、腕輪の変化はまだ続いた。

 リユの拳?から肘までを守るように、透明なオレンジ色の細長い盾のようなものが現れた。

 宝石からは赤いオーラが噴き出し、リユの周りを漂いながらゆっくりと上昇し離れていく。リユを含め、その佇まいは神秘的だ。


「ふぅ。」


 リユが一息吐く。


「さてー、準備オッケーだけど、始める前に聞きたい事ある?」


 リユはその言葉の後に


「僕も分かんないところあるから、わかる範囲で、になるけどね。」


 後頭部を掻くような仕草をしながら、申し訳なさそうにリユは言った。


「じゃあ、その腕輪は?」


 昨日今日見た限りでは装着していなかった腕輪を指差し、秋良は最初の質問をする。


「これ?これはアードっていうもので、なんていったらイイかな?」


 リユが自分の腕輪を見て、更に言葉を続ける。


「えーとね?ちょっと長くなる、かな。上手く説明出来なかったらごめんねー。」

「オッケーだ。」


 秋良は即答しつつ頷き、リユはそれを見て説明を始めた。


「アードを説明する前にね、僕達シキの事をちょっと説明するね。」


 リユは一呼吸間をおくように黙ると、シキについて何かを思い出すかのように語り始めた。


「僕達は自分の事をシキって呼んでるけど、時々僕達を見る事が出来る人間からは、色々な呼び方されてるね。例えば、神様とか悪魔とか…日本だと鬼とか妖怪とか?」


 妖怪という単語で、秋良はリユを見て納得する。


「でね?」


 リユの説明が続いた。色々と説明出来ない事情もあるのか、途中何度か言葉に詰まっていた。

 リユが話せるシキについては以下の通りだ。


・シキ同士は基本的に仲が悪いが、生まれの近いもの同士は仲が良い傾向にある。

・相手の影響を受け易く、善意を受ければ神や天使のように、悪意を受ければ悪魔のように変異する。

・現在はふたつの鍵の継承者争い(ひとつは秋良の持つ銀の鍵)に躍起になっていて、全体的に雰囲気が悪い。


「シキについて話せるのはこんな所かな?」

「なるほど。」


深く理解してるわけでは無いが、「影響を受け易い」という部分を秋良は理解したようで、無意識に悪魔の如き変貌を遂げたリユを想像して身を震わせた。


「でね、アードの事を説明するけど、アードには大きく2種類あって、誰かの影響から護るアードと、影響をより与えるアードの2種類があるんだ。僕のは護るアードだね!」


 エッヘンと胸を張るリユ。説明を受ける際に微妙にリユの自慢も入って脱線はしたが、アードについては以下の通り。


・アードには他の影響から護る盾のアード、他に影響を与える鉾のアードがある。

・シキとしての能力が高いほどアードは弱くなり、逆に能力が弱いとアードは強くなる。

・アードを持っていても使いこなせるとは限らない。

・アードの形状は全て異なり、似たものはあっても一致しない。


「シキの能力の強弱っていうのが気になるな。」


 シキの説明で語られなかった部分を秋良は指摘する。


「ごめんねー。多分、というより、君の為にも知らない方がイイと思う。後々知っちゃうかもだけど、少なくとも今は、ね?」


 リユの表情は相変わらず分からないが、言葉に感情が乗っているので分かりやすい。演技だとしたら分からないが。


「他に聞きたい事あるー?」

「ん?ああ、そうだな、どうやってそれ(アード)で、痛い思いしないで戻るんだ?」


 秋良がリユのアードを指さし質問をする。


「うーんと、僕のアードの力を流し込んで、君にアードの力を与えてみようかなー、と。」

マジ(本当)か?」

「うん、マジマジ(本気本気)。銀の鍵があるから、たぶんだけど出来ると思うよ?」


 会話が微妙にかみ合っていないが、二人の話は進んでいく。

 見た限りいわゆる魔法のアイテムのような物に秋良は内心ワクワクするも、表面上では冷静に振る舞い、リユはリユで「成功するか分からない」と何度も話したが聞いてはいなかった。

 そして、なによりもその好奇心が勝っていて、「どうなるか?」などあまり考えていない事に思い至らなかった。


「じゃあ、よろしく頼む!」

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