蛇足的な話、バッドエンドへ!
明けましておめでとうございます。
短編と同時投稿しようと思い、時間が掛かりました。
短編ショートストーリーズ「勇者幻夢譚」をよろしくお願いします。
秋良とリユ達の出会いから二十年近くが過ぎ、それぞれはそれぞれの生活に追われる日々を送り、互いに少し疎遠になりながらも親しい関係を築けていた。
「…てな訳さ。」
「それは不思議だねー。」
今やすっかりおじさんになった秋良が喫茶店でお茶を楽しむ相手は、一向に老ける気配のないリユとルフだ。
十代の若さのまま変わらず、二十年もの間人間社会で揉まれたリユは、不思議な魅力をたたえる『大人』になっていた。
その為リユに交際を申し込む者は後を絶たないが、年齢(一応40歳以上)を知ってショックを受ける者も少なくない。
「秋良はあの状態にはまだなるのか?」
言葉を発したのはリユの隣に座るイケメンマッチョ。
流二ことルフだ。
人間になった当時、子鹿のようにプルプルしていた彼は、なぜか土木作業と筋トレにハマったらしく、日々肉体がビルドアップされてるそうだ。
アッチの方々には好評のようで、ルフ自身も満更ではないらしく、彼の人生が不安である。
「あの状態にはならないけど、美月がなぁ…はぁ…」
「お姉ちゃん二人は普通で、美月ちゃんだけなら…多分」
「アレしかないなぁ。」
「やっぱりアレ、か。」
深いため息を吐く秋良を見て、リユとルフが当たりをつけるというか、秋良から話を聞く限りではアレ以外の可能性が思い当たらないのだ。
アレとは『銀の鍵』の事だ。
美月とは秋良の娘の名前で、なんと彼は結婚していた。
お相手はいつかの早希さんであり、色々な事情から婿入りして銀の性を名乗っている。
いつか月に行って以来、何かと『銀』の名前に縁がある事に不思議に思う秋良だったが、自分の名前すら銀になると分かった時は笑うしかなかったようだ。
そして三人の子に恵まれた訳だが、三女である美月に起きた銀の鍵の影響とは、秋良がアード化した時に変身する姿によく似ているのだ。
金の髪と瞳を持って産まれ、気づいた秋良以外の身内ではその為に色々な騒動が起きた。
秋良が『間違いなく自分の娘だ』と断言するも、不安に思った銀家の面々が密かに調べたようだが、その結果は秋良の言う通り二人の子供に間違いなかった。
その美月も現在は中学校入学間近な年齢であり、今の今までリユ達と話す機会が無かったのは秋良が婿入りした影響によるのだ。
銀家の仕来りではなく、確執に巻き込まれては解決する事に忙殺されていたのだ。
今ではそのツッコミスキルと相まって、銀家の良心又はツッコミ役として立場を盤石なものにした。
「ついでに言っておくと、美月はシキを見られないし、アレを持っている感じもないな。
少し前にワンがやってきたから、それで確認済みだ。」
コーヒーを一口飲み、秋良はさらに言葉を続ける。
「重要なのはここからだ。」
途端に表情が引き締まる。
「俺と美月で、同じ夢を見…いや、違うな。
共通点の多い夢…同じ舞台設定で違うシナリオ?
映画でいうならエピソード1と2のような。
そんな夢を見るんだ。」
「な?」
「その夢の共通点って、何かな?」
相変わらず難しい話になりそうになると話についていけないリユと、色々察してくれるルフ。
変わらないな、と思いつつ秋良は話を続けた。
「美月の方の夢を全部聞いた訳じゃないが、大人になった美月、空飛ぶ大陸、月にある城、だな共通点は。
詳しく聞けばもっとあるかもな。」
「大人になった美月ちゃん?アード化した秋良じゃなくて?」
「それならアード化の特徴が出るし、多分服装からして大人になった美月ちゃんなんだと思うよ、リユ。」
「なーるほど。」
「加えて言うなら、秋良は三人称視点、美月ちゃんは一人称視点で夢を見てる可能性もあるね。」
「美月のは知らないけど、俺のはそうだな。
美月を見てる感じだ。」
イケメンマッチョになっても知的なルフ。
「あ、ワンには聞いてみた?」
「予測で物を話せん、て言ってたな。
お前達の方がいい、とも。」
「なんでボク達?」
「多分僕等が人の性質を持ったからだと思うよ。
『知識』のシキは過去を語れるけど、予測とか不確定なものを語りにくいしね。」
ルフがオレンジジュースをコクリと飲み、話を続ける。
「でも人間は未来の希望とか未知のものに対して推測なんかを語れる、でも代わりとして未来に生きる為に過去が曖昧になる。
まあ、だから本とか写真とかに自分の過去、思い出を残そうとするんよ。」
「「なるほどー」」
ルフの説明に秋良とリユが同時に感心する。
「リユまで感心してどうすんのさ…。
俺の知識を引き出せるでしょ。」
「なはは。」
『生まれの同じシキ』であるリユとルフは、お互いが近くにいる場合に限り、お互いの能力を共有し行使する事が出来るのだ。
「まあ話を戻すとね、2人が見る夢は多分ただの夢じゃないと思う。
色々と分からない部分はあるけど、銀の鍵が関わってる可能性は大だね。」
ルフはひと呼吸おいて「何があるか分からないから、秋良が守ってやらないとね。」と付け足した。
彼の言葉に秋良は頷き、その後三人は談笑して過ごした。
そして…一週間後。
見知らぬ世界、見知った場所で。
どう見ても日本、地球のものではない建造物が天を貫き、遠くに見える浮かぶ大陸。
「キサマは、イラナイ。」
「ごぇっ!?」
バイザーで目を隠した黒いコートの人物が秋良を突き飛ばす。
「パ、パパッ!」
美月が手を伸ばし駆け出そうとする先には、ボロボロになって倒れる秋良の姿が。
しかし美月の体はコートの人物によって抱えられ、秋良に近寄ることができなくなる。
「や、は、放して!」
コートの人物から逃れようと暴れる美月を意にも介さず、コートの人物は倒れた秋良に視線を向けた。
「っ!!」
「っらぁ!!」
目前に迫った拳を直に受け、コートの人物の動きが止まる。
「み、美月を、返してもらう。」
肩で息をし、ボロボロの姿で、右腕が本来曲がらない方向へと向きながらも、コートの人物を殴った左手だけは秋良の意思を表すかのように力強い拳となっていた。
「キサマは、イラナイと言った。
レベル4エクステンド『スフィア』」
コートの人物は感情のない声で淡々と告げると、ゆっくりと掲げた掌の先に、小さな黒い球体が徐々に徐々に大きくなる。
ボロボロになった秋良では逃げる事も避ける事も出来ない程に球体が大きくなると、
「キエろ。」
振り下ろされた腕に合わせて、秋良へと迫っていった。
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話はまだ続きます。