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蛇足的な話、変わったよ!

タイトル通り、オマケ編開始です。

楽しんで頂けたら幸いです。

 あれからまた少し時は流れて。

 秋良が銀の鍵と同化して一年が経過していた。


「たまーに、コレが食べたくなるんだよねー。」


 リユがシキの姿になり、綿飴のような白くてフワフワしたものをモグモグと食べている。


「ソレって…」


 秋良がアード化した際、道端などで見かけるものだ。

 色は白と黒があり、それ以外の色は見ない。


「食べられる…のか?」


 普通なら道端に落ちてるものを食べようとは思わないだろう。

 だがリユは躊躇わずに綿飴っぽいものを拾い、美味しそうに食べている。


「うん。たまに食べると美味しいけど、頻繁に食べるのはツライなー、て感じかなあ?」

「リユにとってのラーメンって感じか?」

「あ、そうそう、そんな感じ。」


 秋良はなるほど、と頷く。

 以前リユとルフを連れて、ラーメン屋に入った時のこと。

 ルフは週に三回以上通うほどのハマりようを見せたが、リユは月に一回食べに行くか行かないかの頻度だ。

 ラーメンが苦手なのかと聞いてみると「美味しいけど、たまにでいいかなーって。」と答えたのだ。

 ちなみに二人の食の好みは、リユはフルーツやナッツが好みで、ルフは汁物が好みであると分かった。


 考えてみれば、リユ達とは随分と仲良くなった気がする。と秋良は思う。

 加えて、リユのキツネのような姿を知ってる為に人間の姿、女の子になっても付き合いたいなどの感情が湧かないのだ。

 可愛いとは思っているようだが。


(いつ頃だったかな…確か…)


 なんの気もなしに仲良くなったキッカケを思い出そうとする。



◆◇◆



 それはまだ、アード化出来るようになる前、緑のタヌと出会うほんの少し前の頃。


「ぬぉぉぉぉ…っ!」


 銀の鍵の影響のせいで、見たものや事象から少し連想しただけで変身する状態に辟易していた秋良。

 今日何度目になるかわからない変身から戻る為、リユの協力の元、痛みに堪えながら元に戻っていた。

 何に変身していたかは、本人の名誉の為に黙っておこう。


「痛い…痛すぎる…」

「まあ、しょうがないよ。」


 秋良の背中をポンポンと軽く叩きながらリユが慰めるように言うが、リユ自身にとっては他人事ではあるし、アードを貸し与えたら戻れる可能性がある事を理解してはいた。

 が、人間になるという願いがある以上は、鍵の争奪権利を譲る気も無かったのもあって黙っていた。


 気晴らしになりそうなものを探そうと、秋良が顔を上げると姉である春香御用達の和菓子屋。

 なぜか業務用まで取り揃えている店だ。


「十◯石饅頭でも買おう…」


 そう呟いてフラフラと店に入ると、和菓子特有の温かくてほのかに甘い香りが秋良の鼻をくすぐる。

 店の入り口に置かれたカゴを手に、何を買おうかと店内を物色し始めた。

 洋菓子に比べて地味なイメージが強い和菓子ではあるが、実際には洋菓子に負けない彩りと控え目でありながら華美ではないその存在感。

 ひと口食せばその口当たりは繊細で優しくまろやか、なにより甘くてヘルシーという、女性には嬉しいところもある。

 最近では洋菓子のような派手さを持つ和菓子も出てきている為、和菓子とは実に侮れないものであるのだ。


 ちなみにここまで和菓子推しするのは、決して語り部が好きだからではない。決して!


「饅頭と…団子食おうかね。」


 適当に見繕いながらも、二人の姉と両親の分も無意識で買い帰路につく。

 道中、秋良はまだ温かい饅頭の封を破り、頬張ろうとするとリユがジーッと見ているのに気付いた。

 リユとしてはどうやって食べるのか見ているだけなのだが、


「ジッと見られてると食い辛いんだけど?…なんなら食べる?」


 秋良には物欲しそうに見ていると思われたようだ。

 半分に割り、「はい」とリユに差し出す。


「え?だって秋良のものでしょ?」

「だから、見られてると食べ辛いんだって。」

「んー、じゃあ貰うね。」


 そう言って苦笑する秋良を見て、リユは差し出された饅頭を受け取ると、秋良は自分の手に残る饅頭を食べてみせた。

 そして見た目とその匂いを十分に堪能したリユは、全部を食べないよう少し囓りモグモグと味わう。

 咀嚼を終えるとリユの糸目がカッと見開く。

 秋良がビクッと驚いたが、リユは気づいていない。


「これはっ!皮に付いた小さなクルミでは物足りないと思わせておいて、餡の中に荒く砕いたクルミを入れる事によって異なる食感と満足感を!

 しかし、それだけでは説明のつかない、口の中いっぱいに広がるこの香りは…そうか!

 餡の中には二種類、荒砕きのクルミと粉末にされたクルミが入っているのか!

 これほどまでのクルミ尽くし、こう言わずにはいられない!!」


 謎のテンションのままに語るリユは大きく息を吸い込み、


「うーまーいーぞーーーーっっ!!」


 空に向かって某味皇のような事を叫んだ。

 その様は口からなにやら光線が出ているようにも見えた。

 横で見ていた秋良はドン引きである。

 誰しも違う一面があるのは当然であり仕方ないが、あまりに違い過ぎれば他者は困惑するしかない。


「美味しかったー、ありがとう秋良!」

「あー…うん?喜んで貰えてよかった…よ?」


 いつも通り、というより少し距離感が近く感じる喋り方に嬉しく思う秋良だが、先ほどのインパクトのせいで素直に喜べないでいた。


 その日の夜、リユから銀の鍵をアードとして代用する方法を教えて貰う事になった。



◆◇◆



 そして今に至り…


(考えてみれば、あん時からだな。

 あとリユだけかと思ったけど、ルフも…)


 ラーメンを食べたルフが海◯雄山のごとく、悠然と語る様を思い出して吹き出しそうになる。

 もっとも、リユもルフもリアクションしたのは最初だけで、その後は普通だった。

 イアやメト達もどんなリアクションするか興味をそそられる所ではあるが、ルフ曰く「興味本位ならやめてほしい」と言われ秋良も納得した。

 シキにとって人から食べ物を貰う行為は『人の想い』を直接取り込む事になる為、下手に食べ物を施せばそれこそ『悪魔のように』変じてシキではなくなってしまうとのことらしい。

 それを聞いた秋良は、リユがそうならなくて良かったと安堵すると共に、『あの時』どうして変じたりしなかったのかが気になった。


「…なあ、リユ。」

「なに、どうしたの?」


 すでに綿飴っぽいものを食べ終えて、人間の姿になったリユが首を傾げて秋良を見つめる。


「前に…」


 聞こうとして言い淀む。

 秋良が迷っていると、リユが秋良の向こうに見える店を見つけて、目を輝かす。


「前?おお、あんなところに和菓子屋さん!

 ちょっと待ってて、クルミ饅頭買ってくるから!」


 言うが早いか、リユは返事を待たずに和菓子屋へと走り出していた。

 それを見て苦笑する秋良だが、同時に「リユはリユだ」とどうでもよくなった。


 ちなみに…


 シキが人から食べ物を貰う行為は、「お供え」をいただくに近い行為である。

 つまり、ただ食べるだけではなく「その人の気持ち」も一緒に食べる事となり、多くの人の想いだけで変化するシキにとってその影響は大きいものとなる。


 これを踏まえて、秋良はリユに自分の物を分け与えた。


 秋良はこの時、特に考えていなかったかも知れないが、直前に家族の分を買っており、偶然にもそれに近い感情をもってリユに渡している。

 それを食べたリユは、当然変化を起こした。

 外見上の変化ではない。

 内面には人間になりうる素養を持つ事になり、ルフ程ではないにしても、秋良に親愛の情を抱く事になった。


 かつてあった話。


 それは昔むかしのお話。

 団子ひとつで、鬼退治を手伝った三匹の動物たち。

 その動物たちは本当にただの「動物」で、団子を渡しただけで、鬼の退治を申し出るものなのか?

 そして鬼は、本当に「鬼」だったのか?


 もしかしたら、変化をしたシキと鍵の継承者争奪の一幕をお伽話のようにみせたもの…なのかもしれない。

オマケのスタイルは、本編終了後と本編中、又は本編より以前の話を混ぜていく感じになります。

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