七月一日の月曜日から?
秋良メインの時は、基本的に土日や休日に話が進みます。
記載があったり、別キャラメインの時はその限りではありません。
七月一日。
秋良が学校から帰宅すると、彼宛に音子から手紙が届いていた。
嫌な予感しかしない手紙を恐る恐る開くと、なぜか誰でも知ってる『昔話』のあらすじが書いてあるだけだった。
「なんだ?なんの嫌がらせなんだ?」
始めからイタズラだと疑ってかかる秋良。
音子の意図が全く読めない秋良は、その日不安に思いながら過ごす事になった。
七月二日、三日、四日と音子からの『昔話のあらすじ』が書かれた手紙が一通づつ届いた。
どれも違う内容ではあったが、やはり誰でも知ってる昔話だった。
そして七月五日。
帰宅すると、やはり届いていた音子からの手紙。
若干ウンザリしながら開封し、秋良は律儀にも読む。
「は!?」
内容はそれまでと違っていた。
秋良はその日少ない時間で『昔話』を調べ、リユとルフに音子からの手紙について話を聞く事になった。
◆
七月六日、午後。
アードを発動させた秋良とリユ、そしてルフが神社の裏で集まっていた。
「これで音ねーちゃんのイタズラだったら、泣いていいよな?」
これから「向かう先」について早速弱音を吐く秋良。
「大丈夫大丈夫、死なないからさ。」
そう呑気な事を言いながら、リユは秋良の正面に抱き付く。
「鍵の争奪も終やってるし、途中襲われたりとかもないやよ?」
それフラグだから!と言いたくなる事を言って、ルフが秋良を羽交い締めにするように身体を固定させる。
それを確認した秋良は左手を天に掲げる。
掲げたその先にあるのは、人が目指してやまない場所。
(願いなんか決まってないけど…)
秋良自身に確たる願いはない。
(願いが叶うなら音ねーちゃんの為に使おう!)
その言葉に自らを奮い立たせ、秋良は脚だけの跳躍で木の上まで飛び跳ね、足にロケット噴射のイメージを取り出す。
そのイメージは『その通りに』変化して、秋良達を遥か上空へと運んでいく。
リユはアードの炎の噴射で、ルフは自前の飛行能力で秋良が飛ぶのをサポートする。
「地味にキツイやね。」
ルフが呑気に話し掛けた。
声を聞く限りでは、全くキツそうではない。
「いやー、僕としたら秋良のアード化した姿でさ、おっぱいが柔らかくてビックリだね!」
リユの言葉に動揺した秋良が少し体勢を崩す。
「な、んな時に変な事言うなよ!」
「なはー」
文句を言う秋良ではあるが、顔は赤かった。
実は、リユが抱き付いてから何度も胸に顔を埋めてくるので、秋良はなんとも言えない感覚にムズムズしていた。
ちなみに悠長に喋っている秋良達だが、実際の上昇速度は音速であって本来なら呼吸も難しい。
どうやって喋っているのか?
アードの伝達で喋っている訳ではない。
秋良はまだ伝達する方法を知らないからだ。
答えは、ルフのアードにある。
『ドリル』の形状をした鉾のアードであり、中を空洞化出来るのだ。
それを秋良のアードの先端から被せる。
ドリルは秋良の胸より少し下の位置までスッポリと入り、密着すればリユもルフもそのドリルの中に入れるのだ。
ちなみにアード使用時のリユの身長は、顔がちょうどアード化した秋良の胸の高さになる。
なので、リユが胸に顔を埋めるのは仕方ないだろう。
それにドリルの螺旋構造が空気抵抗を軽減してくれるので、上昇が少し楽にもなる。
さて、秋良達が向かう先を説明しよう。
彼等が向かう先は『月』だ。
何故、月に向かうのかといえば、音子の書いた手紙『昔話のあらすじ』から推察したのだ。
そして、五通目の手紙に書かれた内容はただ一言、
『どうやってシキは生まれるんだろーね?』
ただそれだけが書かれていた。
秋良は一も二もなく、リユとルフにどうやって生まれたかを聞いた。
リユは『トマト』でルフは『小川の小石』からと軽く衝撃でもあったが、同時に音子からの手紙にあった『昔話のあらすじ』の主人公達も同じだという事に気付いた。
昔話の主人公はどうやって生まれたか、だけではなく、その容姿や能力、登場人物に至るまで。
そしてそれはリユから以前聞いた事にも符合するのだ。
シキとの共通項が多く、人の影響を受けて『神や天使、悪魔にもなり得る』と。
だから秋良は考えた。
無い知恵を絞って。
そしてこう考えたのだ。
『昔はシキを見られる人が沢山いたのでは?』
そう思わずにはいられなかった。
そして、多くの昔話の中でも明確に『場所』を示しているのが『月』であり、場所を曖昧に濁している昔話も『乗り物』や『誰か』によって『そこ』へ到達し、主人公は願いを叶えていた。
もっとも、願いを叶えなかった昔話もあるが。
色々と確認を終えて、不安ながらも秋良はこうして月を目指した。
さて、秋良達が月を目指して数時間が経過。
間も無く月に到着するのだが、彼等はまだ気づいていない。
空気の問題?
いいえ、シキに呼吸は必要ありません。
風呂に入る時に、お湯の中で何分耐えられるか実証済みです。
正解は『ドリル』の中では『外』が見えない。
見えなければ、当然激突する。
ズドン!という轟音と共に入射角度も悪かったようで、ドリルが突き刺さったりせず、一度バウンドした後秋良達はゴロゴロと転がっていた。
秋良達はその衝撃によりしばらく動けなくなるものの、怪我などはなく、月の大地を踏み締めた。
全員が周囲を見渡す。
「…灰色の大地に黒い空、か。」
アード化してはいるが、生身で月にやって来たというのに、秋良のテンションは低い。
それも当然と言えるだろう。
目の前の『ソレ』が清々しいほどに絶望感を与えてくれる。
リユとルフの警戒も尋常ではない。
「つか…」
秋良の視界にもハッキリ映る、まるで海の怪物リヴァイアサンを模したかのような黒い巨体。
「デカすぎだろ…」
全長一万三千メートルの巨体を駆使して、ワンが秋良達の周りを取り囲んでいた。
「逃げようなぁどと、思わん事だぁ。」
その言葉に合わせ、ワンが両腕を大地に突き立てると、その大地を震わせた。
「ア、ア◯ゴくん!?」
秋良が似てないマ◯オさんの声マネをしてツッコミを入れた。
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