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うさばらし?

 アロがマーライオンになって三日が過ぎ、タヌがミドリガメとなった日。

 何処、とも言えない場所。


 『黒い空』を見上げるのは、ワラビーにも見える黄色のシキであるイア。


「はーあ、アロは馬鹿なの。」


 イアは知っていた。

 アロがワンに挑んだ事、そして勝てなかった事を。

 とはいえ、銀の鍵を持つリユを狙っていた事も知っていたので、何処にいるか分からないワンと『偶然』遭遇して挑む事になったのだろう、とイアは考えていた。


「でもねえ?」


 誰もいない場所で呟くイア。

 アロとは生まれが近い訳ではない。

 でもそれに近いほどに気が合う『仲間』だったのだ。


「ムカつくものは、ムカつくの!」


 大小九本の剣を出現させると、イアは凄まじいスピードで空を駆けていった。

 誰でもいい、ただ八つ当たりする為に。


 ◆


 タヌがミドリガメになった日の夜。


「なあ、今更思ったけどタヌのアードって姿を消すってやつなのか?」


 最近、家…特にリユの部屋に居着くようになったルフに疑問を投げかける秋良。

 タヌの痛恨の一撃からは復活していた。


「うーん、多分やけどね?保護膜だと思うよ。」

「保護膜?」

「そうそう。膜っぽいのがあったってリユが言ってたかや、大きく外れてないと思うけど。

 で、その保護膜に知識の力を張り合やせる感じかな?」

「んー?俺にはその膜は見えなかったな。」


 そう、ルフの考えはほぼ当たっている。

 タヌのアードは『気泡』であり、その気泡に知識の力を使って周囲の景色を張り合わせて透明に見せている。

 例え気泡に触れても破れることなく、相手に触れた事を感じさせず風船のように動くだけ。

 会話はアードを介して話し、攻撃は『気泡』が破裂した際に生じる『空気の衝撃』。

 防御に関しては強いが、攻撃は微妙。


 それがタヌのアードだ。


 もっとも、タヌの性格と能力も相まって相性の良いアードであるのは間違いなく、現にシキでは誰もタヌを見つける事が出来なかったのだから。


「リユも見えたんじゃなくて、近づいたやそれっぽいのがあったって話だかやね。

 ほぼ見えないんじゃない?」


 ルフの言葉になるほど、と秋良は相槌を打つ。

 秋良自身、タヌを見つけた時は何となく感じて見つけた。

 アレが膜だったか、といえば微妙ではあったが。


「さってと、オイラは出かけてくるやー。

 んじゃねー。」


 秋良の返事を待たず、ルフは窓から飛んでいく。

 神代家を後にしたルフはそのまま上空へと昇り、遠くを見渡す。

 気紛れでやっている訳ではない。

 ルフはシキ同士の戦いを感じて、見届けようとしているのだ。


(アッチかー。)


 ルフの視線の先には今にも昇らんとする真っ白な月の光に紛れて、黄色く発光する何か。

 それで誰なのかを理解してしまう。


(ぎえ…!イアがいるぅ…)


 イアはシキとしての能力は低い。

 低いが、アードの能力は過剰なほどに高い。

 加えて身体能力もソコソコある。

 互角に戦えるシキなど数少なく、その中で勝てる見込みがあるとすればメトかワンのみだろう、とルフは考えている。

 まして自分など問題外、と自身で思っている為、そこに見えるイアの戦いを近づいて見たいと思わない。


(よし、帰ろう!)


 どうせ勝つのはイアだ、とルフは思って神代家に引き返した。



 そのイアが戦う相手、不幸にも憂さ晴らしの相手にされたのは三体のシキ。

 それぞれ、橙色のカエル、灰色の孔雀、ショッキングピンクのプードルだ。


「弱いの、相手にもならないの。」


 イアは無慈悲にアードによる剣をシキ達に突き立て、別の生き物に変えた。

 格下でも全力で、それはリユとの戦いで学んだ事。

 商店街での戦いの時、リユは能力もアードも使えない格下だった。

 簡単に銀の鍵を奪えると思った。

 でも奪えなかった。

 リユが能力とアードを使いこなし、自分と互角に渡り合ったのだ。

 ムカついたけど面白かった。

 同時に自分自身にも強くなれる素養がある事を理解したのだから。


 でもどうやってやればいいか分からないから、とりあえず複数のシキに憂さ晴らしを兼ねて挑んでみた。


 でもシキ達は弱かった。


 否、灰色の孔雀とショッキングピンクのプードルはシキとして強かった。

 そう、イアは二つの事に気づけなかった。

 灰色とショッキングピンクのシキが強かったこと、自身のアードがより強化されていた事に。


「こうなればワンでもメトでも…」

『イアァ、やはり貴様ぁだったかぁぁ。』


 突然のワンの声に身構えたイアであったが、そのワンの姿が見えない。


「…見えないの、アードから話しかけるなんてムカつくの。」


 声をアードに乗せて言ってみるものの、周囲が揺らぐ感じはない。

 当然ワンの気配もない。

 とはいえ、目視範囲でなければアードを介した声は届かない。

 あんな巨体を隠せるほど、イアのいる場所は複雑な地形はしていない。

 逆に平地と砂浜、そして海が見えるだけであり、隠れるにしても無理があるのだ。


『貴様のぉ、憂さ晴らしに付き合う気はぁ、ないぃんでなぁ。』


 ワンの見透かしたような、いや、実際に見ていたかのような口振りにイラつきを隠さないイア。

 展開させたままのアード、九本の剣がイアの周囲を回っている。


「じゃあ何で話しかけたの。

 ムカつくからオマエ刺してやりたいの!」


 物騒なイアの言い分。


『ふぁはははは!残るシキはぁ既に決まり、争奪を続ける意味を成さんん。』


 ワンはイアを笑い、意味あり気な言葉と争う意味が無いと告げると、イアが何かに気づいたかのように冷静になった。

 そして九本の剣はペンダントの形へと戻す。


「それならアードも意味ないの。

 つまり金と銀の鍵が揃ってる、でも…」


 イアが自ら持っている「鍵の知識」に考えを巡らせる。

 同時に「鍵の知識」を持っているシキと持っていないシキ、「鍵の知識」を持っているシキが少ない事、その知識が「全く同じ」ではない事、「鍵の知識」を持つシキが争奪に脱落しても問題ない事、なにより「争奪の終了」の条件が「最後の一体になるまで」ではない事を。

 そしてイアだけが持つ「知識」とは、「鍵を使う場所」だ。


 アロもその場所を知ってはいたが、イアの隠れ家だと認識していた。


「ワン、オマエに鍵の知識を教えてやるの。

だから教えろ、オマエの知識の。」


 イアの言葉にワンは笑いながら「いいだろう」と答えた。

設定ガチガチな小説もひとつの楽しさだと思いますが、敢えて設定を見せないで想像を働かせる事の出来る小説も面白いと思うんです。

主人公強いのにバトル出来ないとかも。

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