表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/49

8話「「赤燐」

SCARLET8:赤燐


・「・・・朝か。」

目が覚める。

時刻は6時22分。

目的の時間よりやや早い。

見れば彼女はまだ眠っているようだ。

・・・よくよく考えれば俺は女子中学生と眠ったのか。

まあ、別に大丈夫だよな?何もしてないよな?

などと考えながら顔を洗い、胴衣に着替える。

畳部屋に戻ってくる頃には彼女は眼を覚ましていた。

「起きたか?」

「え・・・?」

まだ寝ぼけているようで固まっている。

髪も下ろしていて別人のようだ。

よく考えれば髪を下ろしているのを見るのは初めてか?

「・・・そういえば私は・・・」

「おいおい、寝ぼけているのか?」

「いえ、おはようございます。」

「ああ、おはよう。」

彼女が布団を畳み、更衣室に向かった。

その間に俺はパソコンを開き、メニューの確認をする。

午前中に基本稽古を終わらせよう。

午後にはあいつがくるからな。

やがて彼女がいつも通りツインテールで真紅な胴衣をまとってきた。

「今日もお願いします。」

「ああ。こちらこそよろしく頼む。」

礼から始まり二人で畳に上がる。

まずはいつも通り基本稽古から始める。

・・・いつも通りといっても

基本稽古から始めたことなんてこれで3回目なんだがな。

朝飯前の稽古のためあまり力が入らない。

それに文句を言っても仕方がないため

朝稽古は基本稽古と正拳突き300本で終わらせた。

時刻は7時45分。

意外と時間がかかるものだ。

一度私服に着替えて朝飯をとる。

「今日はある奴を呼んである。」

「誰ですか?」

「ああ、俺が昔一度だけ指導員をやった時に教えた一番弟子だ。」

「男性ですか?」

「ああ。年は俺の二つ下だから今は中学3年生、君より一つ上だな。」

「・・・その人はどのくらい強いんですか?」

「君より強いってことは保証するよ。

といっても若干問題があってな。」

「問題?」

「面倒くさがり屋で弱気。滅多にまともな勝負をしようとしない。

一応俺がひと夏かけて鍛えたからそれなりに強いはずなんだがな。」

「・・・そうですか。」

「午後に来るはずだからそれまでは

昨日と同じ白虎一蹴の練習をしてくれ。」

「わかりました。」

そして8時から技の特訓に入った。

昨日からの一朝一夕ではさすがに習得はできまい。

ましてや黒帯の敵を一撃で倒せるまではない。

だがセンスがあるのか、すでに形はできかかっていた。

やはり体が軽いからか。

それにもしかしたらこの技は

スピードタイプのほうが相性がいいのかもしれない。


・昼飯を食べ終わってしばらくしたら道場の扉が叩かれた。

「来たか。」

扉をあける。

しかし誰もいない。

「・・・・、里桜、出てこい。」

声をかけると、建物の蔭からやっと出てきた。

「やっぱりやらなきゃだめですかね?先輩。」

いつもの調子でこいつ、燐里桜が来た。

「ああ、言っただろう?サボったら百殴りだってな。」

「その人が?」

「ああ、一番弟子で出来の最悪な燐里桜だ。」

「え、先輩女の子教えてるんですか?」

「教えてなかったか?」

「知らないですよ!

・・・やっぱり帰ろうかな?」

「今すぐ千叩きにしてやろうか?」

「・・・わかりましたよ。組み手をすればいいんですよね?」

「ああ。・・・燐里桜だ。よろしく。」

「赤羽美咲です。よろしくお願いします。」

握手を済ませ、里桜は更衣室に向かう。

「いいか?白虎一蹴の一撃で倒すんだ。」

「え?」

「相手は対戦相手の遠山と同じく君より格上だ。」

「・・・わかりました。」

「それと遠慮はいらない。容赦なく殺すつもりでかかっていいぞ。」

「・・・仲悪いんですか?」

「・・・さてね。」

ごまかし、着替えが終わった里桜が畳部屋に来る。

「うはっ、胴衣なんて来るの久々だな。」

「あ?お前空手行ってないのか?」

「まあ、受験生ですしね。」

「付き合わせてしまってすみません。」

「「いや、君が気にすることはない。」」

「・・・先輩、どうして先輩が言うんですか?」

「お前の人権のすべては俺が握っているからだ。

さ、無駄話はここまでにして組み手を開始するぞ。

ルールは公式試合と同じく1ラウンド2分30秒の3ラウンド制だ。」

畳部屋。左右に分かれて二人が構える。

「正面に礼!お互いに礼!構えて!始めっ!!」

一度やってみたかったジャッジ。

ジャッジと同時に彼女が走りだす。

里桜との距離はおよそ3メートル。

彼女なら1秒もかからない。

里桜が構えるよりも速く懐に入り、白虎一蹴を繰り出す。

わずか二日間で物にしたか。

「!?」

だが、里桜はとっさに反応をして受け止めた。

「え・・・!?」

「白虎一蹴・・・!?先輩は本気で俺を殺す気かよ?

けどまだこの程度なら・・・!」

里桜は受け止めた足をつかんで

彼女を天井まで投げ飛ばす。

「直上正拳突きぃぃぃぃぃぃ!!!」

里桜の拳が落下してくる彼女に直撃した。

「そ、そんな・・・・!?」

彼女は畳にたたきつけられて体をくの字に曲げて悶えている。

里桜の奴、なまってると思ったが意外とやるじゃねえか。

彼女の白虎一蹴がまだ不完全だったとしても、

・・・少しあいつを見くびりすぎていたか?

「・・・・うう、」

彼女が立ち上がる。

さすがにこの一週間で正拳突きを何発もくらったからか

もう慣れただろう。

「おいおい、タフだな。

今のなら骨が砕けていてもおかしくなかったのに、」

「おい里桜。お前他人の唯一のかわいい弟子を殺す気か?」

「一応俺もあなたのかわいい弟子なんですがね。」

「心配しないでください。私なら平気です。」

彼女が構える。


・組み手開始から25秒。

直上正拳突きから回復した彼女が構える。

さて、どうする?

白虎一蹴はもう通用しないぞ?

「…お願いします。」

「・・・やれやれ。今度は何が出てくるのやら。」

里桜も構える。

彼女は再び走る。

さっきよりもスピードが速い。

2発目の白虎一蹴か!?

「・・っ!」

しかしやはり里桜は反応し、背中に迫るスピンキックをガードする。

タイミングとしてはギリギリで、里桜は二歩三歩と後ずさった。

「ちっ、もっと速くなっていやがる・・・!」

「・・・まだです!」

彼女は着地と同時にお得意のスピード戦術に切り替えた。

なかなかのスピードだ。

スピードだけなら清部会でもトップクラス以上だろう。

少しずつだが着実に里桜にキックが命中していく。

「なめるなよ?赤少女。」

だがさすが俺が鍛えただけあって里桜は彼女以上にタフだ。

カウンタータイプに変更して彼女のキックにカウンターをかける。

足は里桜のほうが長く、キックのスピードなら里桜のほうが上のため、

里桜のキックのほうが先に彼女に命中する。

「そんな・・・!」

「俺も一応あの人の弟子なんでね。」

里桜は攻撃へと移る。

彼女は回避行動に出るが里桜にすべて先読みされて

手痛い一撃を受けてしまった。

彼女の体が後方に吹き飛ぶ。

倒れる暇を与えずに里桜が追い打ちをかける。

しかし、

「そこまで!時間だ!」

時間なので里桜を止める。

「30秒のインターバルだ。」

両者が左右に分かれる。

里桜のほうは大してダメージを受けておらず息も上がっていない。

対して彼女のほうは戦えないほどではないが結構ダメージが大きい。

おそらく3ラウンド目はないだろう。

一撃必殺の白虎一蹴も破れ、お得意のスピードも完全に見切られている。

どうする?赤羽美咲。

「インターバルを終える。両者、構えを。」

号令をかけて二人が構える。

「始めっ!」

号令と同時に彼女が再び走る。

「くどいぞ。」

里桜は彼女の軌道を見切り、足払いで接近前に転倒させた。

「くっ!」

彼女は受け身をとりすばやく起き上がる。

すると今度は壁に向かって走り出す。

「なら距離を詰める!」

里桜が追う。

彼女は壁に向かってジャンプする。

そして空中で宙返りをして壁を蹴る。

「!?」

そして追ってきた里桜めがけてドロップキックを放った。

まるでミサイルのようなキックだな。

さすがの里桜も意表を突かれたのか後方に吹き飛ぶ。

スピードをパワーに変える反転ミサイルキックといったところか。

「・・ちっ、」

里桜はすぐに立ち上がる。

ダメージはそこそこ与えたがさすがにそうそう倒れる奴じゃないか。

続いて彼女は大ジャンプをする。

特訓の成果で地面から2メートル以上も上空に上がり、

飛び蹴りを繰り出す。

「おいおい、飛びすぎだろ!?」

そう言いながらも里桜はガードする。

彼女は着地と同時に里桜の右足にローキックを打ち込んだ。

「くっ!」

うまいな。下段は地味だが確実にダメージが溜まる攻撃だ。

ある意味飛び蹴りよりも破壊力は大きい。

今度は彼女が追い詰めているのか。

だが最初からそんなに飛ばしてると持たないぞ…?

「はあ、はあ、」

彼女のスピードも見るからに落ちている。

足技はパワーがある代わりにスタミナを消耗しやすいからな。

それを見切った里桜は彼女の足をねらってきた。

彼女はうまくかわそうとするが、フェイントも含んだ里桜の足技で

翻弄されて転んでしまう。

まだまだ技量は里桜の足元にも及ばないか。

基本は里桜よりもできてると思うんだがな。

「ううっ!」

またフェイントに引っ掛かり、彼女は転倒してしまう。

里桜の奴フェイントなんて使う柄じゃないのに。

心情的に追い詰められているようだな。

しかし、このままでは彼女は判定負けだな。

「・・・はあ、はあ、」

彼女は距離をとる。

まさかまた白虎一蹴を?

3度も破られているのに。

それどころか3発目は妨害されて成功すらしていない。

危険すぎるが、それは彼女も分かっているはず。

追い詰められたからといって錯乱する性格でもない。

・・・何か作戦でもあるのか?

彼女が走る。

そして里桜の前で大ジャンプする。

天井近くまでジャンプをした。

そして天井を蹴って、猛スピードで落下してくる。

「直下正拳突き!」

里桜の方に拳を叩き込む。

「くっ!」

なるほど、これがねらいだったのか?

彼女にしては珍しい拳技。

意表も突ける。

とはいえ、里桜は慣れてるからな。この技。

「え・・・!?」

「・・・驚いた。けど、もう倒れておけ。」

里桜は彼女の拳をつかみ、彼女を地面にたたきつける。

そして自身は彼女の背中を踏み台にしてジャンプする。

「直下正拳突きぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!」

そしておかえしの直下正拳突きが彼女に命中した。

「・・・!?」

彼女はそのまま畳に倒れて動かなくなった。

「そこまでだ。KO。里桜、お前の勝ちだ。」

「ふう、なかなかヤバかったかも。」

「・・・大丈夫か?」

「は、はい・・・。でも、すごく強い・・・。」

「いや、俺の方が驚いた。

先輩からの話じゃ素人って聞いてたけど

交流試合優勝レベルじゃないのか?」

里桜が汗を拭きながら言う。

「・・・そうだな、そうだ里桜。

お前、伏見道場の遠山ってやつ知ってるか?」

「伏見の遠山?こないだの清武会で優勝した奴っすか?」

「ああ。そいつとお前どっちが強い?」

「・・・そうっすね。若干俺の方が上だと思います。

けど、油断をしたら軽くやられそうですよ。」

「・・・そうか。」

「・・まさか彼女の相手って!?」

「ああ。伏見の遠山だ。」

「おいおい待ってくださいよ。

どう考えたって勝てっこないじゃないっすか!

一か月ないんすよね!?」

「・・・ああ。」

「・・・いいたかないっすけどね、諦めた方がいい。

俺も弟弟子、いや、妹弟子になるのか?

まあいい、妹弟子を危険な目にあわせたかないっすよ。

棄権した方がいいっすよ。

何なら俺が代わりにやりましょうか?」

「・・・君の意見は?」

「私は、あなたを信じます。」

「・・・。」

・・・確かに里桜の言うとおりだ。

「・・・考えたい。少し休みを取ろう。着替えてこい。」

そう言ってパソコンに向かう。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ