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4話「1月18日」

SCARLET4:1月18日


・朝。

午前8時39分。

いつもなら普通に遅刻の時間だが

あいにく修学旅行欠席のため遅刻とか関係ない。

9時半までに職員室に行って出席を報告。

課題は昨日すませたから多分図書室で3時間半待機するだけ。

なのでゆっくりと朝食を済ませ、制服に着替える。

今日は彼女との稽古はない。

月・水・金の週三日と決めた。

昨日のうちに彼女のメールアドレスを聞いた。

もし何か連絡があったら連絡するために。

だいぶ明るい性格になった・・・のか?

かつん・・・かつん・・・かつん・・・・

杖をつきながら学校の階段を上っていく。

俺も彼女につきっきりというわけにはいかない。

自分の生活があるからな。

今日は何をしようか。

この生活は今週一週間。

登校日にして今日含めてあと4日ある。

「ふう、」

長い階段を上り、4階まで上がる。

図書室の中にはだれもいなかった。

せいぜい司書さんくらいはいてもいいのだろうが席をはずしている。

トイレか、あるいは別の仕事か。

とりあえず席に着く。

課題はやり終えているから何をしようか。

自習をするほど俺は賢い生徒ではない。

成績はそれほど良くはないが悪いというわけでもない。

しかし問題として俺は空手の実力を気に入られて

スポーツ推薦で大学へ行くことになっていたのだが

この足でもそれが通用するのだろうか?

キャンセルにはならないよな・・・?

「うん?」

メールだ。

彼女ではないな。

性格からして向こうからかけてくることはないだろう。

それに現在午前9時47分。

向こうは授業中だ。

授業中にあまりかかわり合いのない先輩向けてメールをする

そんな少女でもなかった。

なのでメールを見てみると

沖縄に行っているクラスメイトからだった。

俺と同じ実戦空手にいたメンバー。

斎藤。

すでに現役を引退していて3年は経っている。

実力は当時の俺とほぼ互角。

現在は・・・鈍っていても彼女では手も足も出ないな。

今でも西武会優勝レベル程度はあるだろう。

文面を見る。

「甲斐、そっちはどうだ?残念だったな、足。

俺のほうは寒い沖縄で残念だ。

ったく教師の連中は沖縄の海の前にホテルだっつうのに

海に入るの禁止ってなんだよ!

こんな感じだ。そういえばお前なんかコーチやるようだな。

生徒を殴り殺すなよ?

おっと、集合がかかった。じゃ、またあとでな。」

という文面だった。

斎藤には俺がコーチをやることになったということだけ伝えてある。

彼女のことはまだ言っていない。

それと斎藤。

本当についうっかり殴り殺しそうになったぞ。

しっかし、暇だな。

結局俺には空手しかなかったのか。

空手をしないときに何をすればいいのか。

「・・・寝るか。」

そうだな。寝よう。


・次に目が覚めたのは2時間後。

時刻は11時55分。

少し早いが職員室に行って帰るか。

そしたら午後が暇だな。

「って、稽古がない日は病院だったな。」

一度職員室に行き報告をする。

そして下校。

制服のまま病院へと向かう。

医者の話によれば大体半年間くらいこのまま少しずつ治療をしていき

手術の準備ができ次第行うそうだ。

ところが今日の病院には変わった人がいた。

中国拳法の達人のフェイさんだ。

うちの道場のスポンサーの一人でもある。

俺も何回か会ったことがある。

しかも何故か今日から俺の担当医にフェイさんが加わるらしい。

フェイさんが言うには気功のつぼを突くことで治りが早くなるらしい。

気功のつぼか。

俺の場合は拳で相手の身体機能を破壊するときにしか使わないな。

こういう使い方もあるのか。

まあ、鍼治療みたいなものか。

ただ今のこの足はかなりデリケートな状態らしく

とても時間がかかる。

早いというのは時間でなく期間らしい。

治療が済めば時刻は午後16時半。

腹が減ったな。

病院を出てどこか店を探す。

美味いラーメン屋が確かこの近くにあったはず。

「うん?」

商店街。

そこで見慣れた顔が見えた。

女子中学生たちの集い。

そこに彼女もいた。

へえ、あの子友達の前じゃあんな元気なんだな。

しかし気にかかるのは

確実に俺に気づいているはずなのに声をかけないこと。

そりゃまあ、友達がいる中で

まだ2回しか会ったことがない年上の男に声をかけるのは

気が引けるかもしれないがな。

というか俺はまだあの子の本心がわかっていない。

一応俺に師事してはいる。

だけどそれはあくまでもコーチと生徒の関係。

俺と彼女はそれ以外にどんな関係が?

まあ、俺としては知り合ったばかりの少し変わった年下の女の子ってところか。

向こうは?

コーチとしてしか見ていないのか?

まあ、職場上それでもいいっちゃいいが、少し気になる。

とはいえ俺も男子高校生の身で女子中学生トリオに話しかける勇気なんてない。

つまるところ俺と彼女は道場でしか関わり合いがないってわけか。

「・・・さて、そろそろ行くか。」

俺は杖をついて商店街を歩く。


・1月19日水曜日。

それが今日の日付だ。

今週恒例の9時に登校して職員室へ行き、図書室へ行く。

だいぶ杖での歩きにも慣れてきた。

昨日のフェイさんのおかげか?

「さて、」

今日は稽古の日だ。

17時から20時までの3時間。

一昨日で十分彼女のスタイルは分かった。

スピードタイプ。

だが実戦経験がないため基本技は理解はしているが実行ができない。

おそらくスピードタイプはショートレンジの殴り合いよりも

ミドルレンジからの足技のほうが

相性がいいということさえもわからないだろう。

いや、こういう名称すらわかっていないかもしれない。

「・・・そういえば」

今日は1月19日。

・・・あいつの誕生日か。

もうずいぶん経つか。

誕生日プレゼントなんて一度しかやったことがなかったっけな。

誕生日といえば彼女の誕生日はいつだ?

資料を見る。だが載っていない。

そういえばどうして彼女は俺にコーチを求めたんだ?

いくら実力があるとはいえろくにコーチをしたことがない俺より

指導が上手い人なんていくらでもいる。

いやおそらくコーチの中では俺は一番模範からは遠いだろう。

正式な指導員指導を受けていないからな。

それに彼女は2年間の経験がある。

その2年間は間違いなく俺よりうまい指導員が教えていただろう。

尤も2年間も組み手を教えなかったのはマイナスだがな。

そこも気がかりだな。

どうして2年間も組み手を教えなかった?

たとえ入塾したその日の初心者でも組み手のいろはくらいは教える。

それなのに基本稽古だけ。

基本稽古だけなら100点満点をあげられる。

謎だらけだな。

「こんなものか。」

とりあえずこれからのメニューを決める。

やはり基本通り3時間を三つに分けて

基本稽古、補強、組み手だな。

メニューを書いて俺は図書室を後にした。

まだ稽古まで4時間はある。

これからどうするかと学校を出て考えていると

「甲斐廉、来てもらおうか。」

黒服の男が二人来た。

肩章を見れば連盟だった。

「連盟のスタッフですか?何かご用でも?」

「Mr甲斐、伏見様がお待ちです。」

伏見・・・・、伏見隆一郎。空手連盟本部のお偉いさんか。

大倉会長と違ってスパルタで有名な・・・。

「わかりました。制服でよろしいですか?」

「構いません。」

俺は杖をつきながら車に乗った。

そのまま揺れること1時間。

伏見さんの事務所へときた。

「甲斐廉、失礼します。」

俺は一礼して中へと入る。

「よく来てくれた、拳の死神。」

いかにも会長室っぽい部屋。

そこに伏見隆一郎は座っていた。

「その足では正座は辛かろう。その椅子に座りたまえ。」

「失礼します。」

俺は僭越ながら椅子に座る。

「私に何か御用でございましょうか?伏見司令。」

「そうかしこまらなくてもいい。

先日の試合は残念だったな。

その足ではもう現役を引退するしかないのでは?」

「現役は引退するしかありません。

ですがまだこの世界から去るつもりはありません。」

「さすがは厚志の戦士。

君のような男はこの世界の希望といっていいだろう。」

「もったいなきお言葉、光栄に思います。」

「そこでだ。もしよければ私の道場で指導員をやらないか?」

伏見道場。実戦空手をやっていれば知らないやつはいないであろう。

最強の戦士を育てるための超道場。

指導員にとってはそこで働くことを目的にしているのが通例だという。

「何か不満でもあるのかね?」

「いえ、ただ私は正式な指導員の試験を受けてはおりません。

非常に恐縮です。

それに私には今やらねばならないことがあるのです。」

「それは何だね?」

「私は今大倉会長の勅命を受けてある生徒のコーチをしています。

その指導がない日には病院で治療を受けろとも厳命されています。」

「なるほど。大倉君からか。君自身はどうなのだ?

上司からの命令ならば自分の将来を捨ててもよいと?」

「お言葉ですが、司令。私は今の生活をマイナスとは考えてはおりません。

実戦ができない今指導をリハビリとして

体がなまらないよう心がけております。」

「その指導というのは私の道場でやっても同じではないのかね?

その足が原因で遠出ができないというのならスタッフに送迎をさせる。

それに正規社員として給料も出そう。」

「…恐縮ながら考える時間を下さりませんか?」

「・・・ふむ。稽古というのはいつ行うのかね?」

「今日行う予定にあります。」

「ならば今日その生徒と話し合うのだ。

そして明日返事を聞かせてほしい。

大倉君にも私から言っておこう。

君はあくまでも自分のことを真剣に考えたうえで決めればいい。」

「・・・承知いたしました。

ではこれにて甲斐廉、失礼します。」

一礼して退室する。

さっきの黒服のスタッフが来るまで家まで送ってくれる。

俺は、どうすればいい?

伏見道場。

同期で指導員を目指している奴に話をすれば確実に行けと言われるだろう。

いやおそらく給料も出ないたった一人の少女を相手に指導をすることと

比べたら給料も出て最高級の指導ができる設備の整った伏見道場へ

行けと言わないものなどこの世界にはいないだろう。

唯一人を除いて。

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