38話「炎の切っ先」
SCARLET38:炎の切っ先
・全ての1回戦が終わって2回戦が始まる。
2回戦はシードを一人設けて62回戦行われる。
本来シード枠は一回戦での125番目の勝利者がなるわけだが
何故かマスターホワイトが選ばれた。
・・・そりゃあれだけの強さだ。
相手が弱ければ手加減して終わらせられるかもしれないが
相手がある程度強ければそれも出来ずに怪我人が出るかもしれない。
平和的な裏工作か。ありがたいといえばありがたいが。
三船の連中・・・気付かれるぞ・・・!
「いよいよ2回戦ですね。」
それから2回戦のトーナメントが発表された。
「・・・あれは・・・」
赤羽が声を上げた。
続けて赤羽の名前を探る。
7番目。そこに赤羽の名前があった。
しかしその対戦相手は、
「・・・遠山・・・」
「・・・リターンマッチしてきます。」
早速赤羽が7番ステージに向かう。
「死神さん、録画しておいてよ。」
「ん?」
「もう本当に選手になると冷静じゃなくなるんだから。」
久遠が指差す。その隣8番目のコートに久遠の名前があった。
赤羽と遠山がやる試合の隣で久遠も試合を行うのか。
「久遠ちゃんの方は応援も録画もいらないからさ。」
「・・・分かった。」
ハンドバッグからカメラを取り出す。
「死神、」
「ん?」
声。振り向くとそこに遠山がいた。
「遠山か。久しぶりだな。」
「ああ。今度はあんな情けない形じゃなくて確かな勝利をつかんでみせる。
そして、そのまま勝ち進んでお前にも勝ってみせる。」
「・・・楽しみにしておく。」
「・・・何だか嫌に肯定的だな。
あんた俺のこと嫌いじゃなかったのか?」
「・・・最初はそうだったさ。
だけど赤羽との試合そのものは正々堂々だった。
その後の態度も立派だった。今度も期待をしている。
そして強くなった彼女と全力で相手をしてやって欲しい。」
「・・・提督を疑うつもりじゃないが俺もあんたの弟子だったらな。」
「悪いが俺の弟子になった男は一日で3回は死ねるぞ。」
そうして治療間のベッドで眠る里桜を指差す。
「・・・死ぬほどスパルタってことか。
なるほど、だから伏見を蹴ったのか。自分の方がスパルタだからって。」
「いや、そういうわけじゃない。まあ、見ていけよ。」
「・・・そうさせてもらう。」
そうして遠山もコートに向かった。
思えば赤羽と遠山の試合は全ての始まりだった。
この1年間の始まりと終わりの組合。
この目でその成長を見させてもらう。
「では、これより第二回戦を始める!両者・前へ!」
審判が号令を出せば20人の選手がコートの中央に立つ。
「正面に礼!お互いに礼!構えて・はじめっ!!」
号令が掛かり20人全てが一斉に動き出す。
赤羽が走り遠山に迫る。
その速さは確かに俺でさえ目を見張るものだ。
だが、神速には程遠い。
彼女なりに速度を優先した結果だからか動きも単純。
それ故に遠山は軌道を見切り前蹴りで迎撃。
「っ!」
防御をするがギリギリで間に合わずに直撃を受けてしまい
彼女が後ずさってしまう。倒れる=失点することは避けられたが
ダメージは避けられておらず2秒ほど怯んだ。
そしてその2秒という長時間を逃すほど遠山は甘くはない。
両足のモモカンをカカトで穿ち左脇に廻し蹴りを叩き込む。
「くっ!」
スピードを駆使した足技が武器の彼女にとって
両足は最大の武器であると同時に命だと言ってもいい。
前回の試合でそれを完全に見抜いていた遠山だから出来る最善策。
「・・・のっ!!」
痛みに耐えながら彼女が跳躍して遠山の顔面に廻し蹴りを放つ。
が、そんな大げさで単純な攻撃が彼女よりも実力者である遠山に
通用するわけがない。
「ふん、」
回避や防御どころかカウンターでの後ろ回し蹴りを放たれて
彼女が叩き落とされてしまう。何とか着地できたが足を挫いてそうだった。
・・・そう言えば元々遠山はカウンタータイプだった。
つまり彼女との相性は最悪。そのうえ実力でも上では厳しい。
だが、彼女だってこの1年間で強くなっている。
「朱雀・・・」
「!?」
フェイントと変調を加えた高速連撃。
前の時にはなかった彼女の切札の1つ。
遠山も初見では破れないどころか対応すら難しいようで
面白いように次々と攻撃をもらっていく。
しかしそのままサンドバッグになってくれるほど
お人好しはここにはいない。
どんなに素早く動けても人体の大きさや太さの関係から
手足や頭部と違ってどんなに気を付けていても
ボディへの対応は限られてしまう。
そこへ集中攻撃を放てば多くは外されてしまうかもしれないが
それでも少しずつ攻撃は当たっていく。
そして攻撃を受けていけば体力も削られていく。
そうする事に確実に動きは鈍くなっていく。
理詰めだが確実だ。戦いの中においても冷静な奴ほど強い。
「・・・くっ!」
彼女ではまだそこまでの領域に至っていない。
「そこまでっ!」
そして2分半が経過して第一ラウンドが終わった。
判定が行われこの時点で勝敗が決した場合はコートから去り、
次の試合が始まる。とは言えこの時点で勝敗が決するのはそう多くない。
「ん?」
1つ終わったようだ。
「久遠ちゃん大勝利ー!」
・・・久遠か。さすがだな。
というか年齢無制限のこの大会で小学生が
参加して余裕で2連勝ってのも流石というか・・・。
「延長戦を始める!構え・はじめっ!」
審判から号令が放たれ第二ラウンドが始まった。
今度は赤羽もスピードに頼った戦いをやめて冷静に状況を見計らっている。
しかしそうなれば逆に遠山の得意な領域になってしまう。
「せっ!」
遠山が正確に彼女のガードの隙を突きボディや足に攻撃を重ねていく。
と、
「玄武!」
「!?」
真正面に放たれた35発目の遠山の攻撃が防がれると同時に
「白虎!」
高速の飛び後ろ回し蹴りがその顔面に命中した。
「一本!!」
判定がくだされると同時に遠山が尻餅を搗く。
ヘッドギアの下にあるから分からないが
きっと意外な顔をしているに違いない。
朱雀や玄武はまだ遠山が知らない技だった。
だから初見で遠山に通用しても不思議ではない。
しかし白虎は前回の試合の時に既に見ていた。
いや、破ってもいた気がする。
その白虎が玄武との組み合わせがあったとは言え遠山に直撃して
一本まで奪えた。
遠山自身も決して侮っていたわけではないだろう。
ただ、彼女の成長が予想をはるかに上回っていた。
見たところ遠山は制空圏を使えない様子だから
玄武は有効のようだ。そしてそれはこの勝負において絶対の有利性を表す。
「・・・美咲ちゃん勝てそうだね。」
「・・・断言は出来ないがな。」
判定でも戦術においても有利に立つことは出来たが
この状況に持って行くまでに体力を消耗しすぎている。
僅かな判断ミスでいつひっくり返ってもおかしくはない。
それにどんな勝負だって有利に立ったと、
勝ったと思った瞬間が一番危ない。
「続行!」
続行が言い渡され残り時間56秒で試合が再開される。
この56秒で遠山が彼女から一本を奪えなかった場合
判定で彼女の勝利が決定する。
だからか遠山は若干焦っていた。無理のない範囲で攻勢に出ていた。
彼女の制空圏が狭い範囲でしか効果がないことを見切り
その両足に確かにダメージが残っていることも見破り
彼女がこの1年間足を集中的に鍛えていてパンチはカルビ大会に
出場出来るほどのレベルに達していないことを見計り
ステップで彼女の足を牽制していながら
パンチの打ち合いに持っていこうとしている。
彼女はそれを不利と見てか何とかこの状況を崩そうとしているのだが
足運びで完全に先回りされていて蹴れる状況ではない。
下手に足を出そうと思えばその間隙を打たれて逆転されてしまうと
分かっているだろうから強硬手段も取れない。
遠山の奴、自分が圧倒的に不利な状況で
よくここまで周到な戦略を組み立てられる。
「・・・・」
残り時間は20秒を切った。この30秒程度で遠山のパンチは
100発以上は彼女に命中している。
対して彼女のパンチは一発も当たっていない。
元々体力でもダメージでも負けている彼女はいつ倒れてもおかしくない。
だが、そこで彼女は構えを変えた。
一見すれば一般的な正拳突きの構え。しかし左手を胸の前に置いている。
「・・・あの構えって・・・」
そして、遠山がパンチを繰り出すのと同時に彼女も右拳を放つ。
その一撃は当然のように遠山によって
防がれ遠山のパンチが彼女の胸に突き刺さる。
が、同時に彼女の右足が遠山の下腹にぶち込まれた。
「!?」
「青龍倒天・・・!」
彼女が足を下ろすと同時に遠山は膝から崩れ落ちた。
「一本!合わせて二本!よって勝者は赤羽美咲!!」
「・・・ふう、」
彼女がヘッドギアを取る。
青龍一撃と同じように全体重を込めた正拳突き、
しかしそれとほぼ重なるようにして超至近距離で前蹴りを叩き込む・・・。
・・・何て奴だ。青龍までアレンジして自分のものにしやがった。
そして完全に格上の遠山を相手にTKO。
「・・・強くなりやがって・・・」
「あなたには感謝しています。あなたとの試合がなければ
私は今ここにいませんでした。ありがとうございます。」
コートの上で二人が握手をする。
「・・・どう?死神さん。美咲ちゃん強くなったでしょ?」
「・・・ああ。素直に驚いているよ。」
俺も負けていられないな。




