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3話「紅い根性」

SCARLET3:紅い根性

・現在時刻は18時ジャスト。

規定通りインターバルに入る。

それを伝える相手は失神している。

俺は彼女を抱えてマットの上に寝かせた。

やはり体が軽い。

見たところ慎重は140センチ半ば。

体重はおよそ30キロ前半といったところか。

14歳にしては小柄だな。

腰まである髪をツーテールにして縛っている。

「・・・さて。」

普通失神した場合はマットのように柔らかいものに横にならせて

服を緩めて呼吸しやすいようにするのだが

これを会って二度目の少女にしていいものだろうか。

服を緩める際は帯をほどいて少し上着をはだけさせるのだが。

この子の場合は帯がない。

おまけに上着とズボンが一体化している。

一体どういう処置をとればいいんだ?

一応上着をはだけさせるか。

「っと。」

上着の下はアンダーシャツ。

なるほど。

汗で重くならずに吸収できるいい素材の上級品だ。

見ればこの真紅の道着も俺が来ている純白の道着と違って

硬さは変わらないのに思った以上に軽い。

まるで新しい空手アイテムのテストだな。

サポーターも俺のとは全然デザインが違う。

時刻は17時6分。

インターバルはあと4分間だが相手が寝ていてはな。

水でもぶっかけて無理やり起こすことも可能だが

まだ正式な生徒でないものにあまり暴挙はできない。

いや、正式な生徒でも失神して動かない相手にそんなことはできない。

残り時間が180秒になった時意識を取り戻した。

「・・・・私は・・・・」

「失神していた。今はインターバルだ。

そのはだけた上着は失神した際の応急処置だ。

他意はないことを先告する。」

「・・・了解です。」

そう言いながらも上着を正す。

「水を飲んでおけ。

コップ1杯飲むだけでも違うぞ。

特に失神した後は水分補給が必須だ。」

「ご教授感謝します。」

そう言って冷蔵庫にしまっていた2リットルのペットボトルを開けて

同じく冷蔵庫にしまっていたコップに水を汲み、平らげる。

冷蔵庫まで頼んだ覚えはないが会長が気を配ってくださったのか?

2リットルのペットボトルは冷蔵庫に5本もある。

電気の通った冷蔵庫だから腐ることはないだろう。

冷えた道場も暖房のおかげで温い。

「さて、続行の時間だが準備はいいか?」

「・・・はい。」

畳部屋の中央で構える二人。

「始めっ!」

号令をかけると同時に彼女はステップで俺の背後に回る。

なるほど。

移動は速いな。

けど。

俺は後ろを向いたまま裏拳を振るい、彼女の額を打つ。

「裏拳左右顔面打ち。基本だな。」

振り向けば彼女は後ずさっていた。

まあ、有効打ではあるが敵を倒せるほど威力のある技ではないから当然か。

すぐに彼女がガードをしたまま懐へと入ってくる。

俺の拳は条件反射のように彼女へと突き放たれた。

ガードの上からでも拳は遠慮なく突き刺さり、

彼女の小さな体が後方に吹き飛ぶ。

ガードした分威力は落ちただろう。

だが俺の拳はガードブレイクを想定してある。

ボディなどのやわらかい部分とは違い、腕などのかたい部分に当たると

無意識にねじ込む癖が付いている。

彼女は気絶こそしなかったがダメージで両腕が垂れていた。

上に上げるのもつらそうだった。

それでも前へと進んでいく。

不思議と、俺は笑っていた。

楽しい。

拳を打ち込んでも不屈の根性で向かってくる相手。

これが実戦の醍醐味。

「あ」

帰我した時、彼女は倒れていた。

拳の感覚からして2,3発どころじゃない。

10発ほど打ち込んだのだろうか。

杖が畳に倒れていた。

両腕を使っていた・・・?

「・・・まずいな。」

杖を拾って様子を見る。

彼女はピクリとも動かない。

時刻は18時30分、まだ半分程度。

そうか・・・俺は無意識に敵を殴り倒す楽しみを抱いていたのか・・・。

それが拳の死神と言われていた原因・・・。

不安だ。

もし、もし彼女が死んでしまったら・・・。

ここは大会の会場でもないし試合でなくただの組み手。

リング禍としては認められないただの殺人だ。

立ってくれよ、真紅の戦士。

時計を見ればそれから5分が立っていた。

彼女は立ちあがった。

「大丈夫だったか?悪い、つい・・・」

「・・・私は大丈夫です。けれどそちらは大丈夫ですか?」

「え?」

「杖、落してしまったようですけれど。」

「・・・まさか杖を落としたのか・・・?」

「・・・覚えていないのですか?私の一撃で杖を落としたんですよ。

でもそのあとに両腕のパンチラッシュを受けて私は倒れました。

・・・すみません。足を支える杖を殴ってしまって・・・。」

・・・なんてことだ。俺は一矢報いられていたのか。

「・・・続行いいですか?」

彼女が聞いてくる。

俺の答えは決まっている。

「その必要はない。」

「え?」

「俺は一本入れろと言ったが俺の体にとは言っていない。

俺の杖を殴り飛ばしたというのならお前の勝ちだ。」

「・・・では?」

「ああ。認めるよ。俺はお前のコーチを続ける。構えをおろせ。」

俺が言ったところで彼女は構えをおろす。

息は整ってはいるがダメージはかなりたまっているようだ。

不動立ちしているつもりだろうがかなり揺れ動いている。

それに右腕で左腕を抑えている。

「見せてみろ。」

「え?」

「左腕。痛むのか?」

「・・・・はい。」

観念して彼女は上着を脱ぐ。

あの道着ではどうやら袖をまくれないようだ。

恥ずかしそうにアンダーシャツ姿で俺の前に立っている。

左腕を見る。

肘と手首の間らへんが赤く腫れていた。

折れてはいないだろうが打撲している。

「治療する。そのままじっとしていろ。」

そう言って冷凍庫から氷を出して布に包んで患部にあてる。

「っ!」

沁みたのか痛んだのか声にならない声がきこえる。

「・・・少し休憩だ。」


・打撲をした彼女。

打撲の治療法は前に習った。

まず患部を冷やす。

次に痛みが治まったら今度は熱湿布で温める。

後は自然に治るはずだ。

習った通り治療をする。

「よし、これで。」

彼女の患部に熱湿布を貼る。

「ありがとうございます。」

「よし、つぎだ。」

「はい?」

「腹を見せろ。さんざん殴ったんだ。

打撲もしているかもしれない。」

説明するが彼女は躊躇している。

どうしたのだ?

「・・・このアンダーシャツ、下とつながっているんです。」

・・・・つまり腹を見せるためには

トップレスにならなきゃいけないってことか。

なるほど。

男相手にそれは解せんわな。

なら自分でしてくれ、そう言おうとしたが。

「でも、指示には従います。」

そう言って肩ひもをほどいてアンダーシャツをおろした。

あまりまじまじとは見られないが思わず見てしまった。

彼女は恥ずかしそうに腕を組む。

胸の大きさはまあまあか。

俺も年ごろ。仕方ないだろう。

さて、胸ではなく腹を見るとしよう。

限界まで下げてくれたためへそ下の丹田まで見える。

やはりところどころ打撲していた。

俺は同様の手順で治療をする。

「あとは体を温めろ。そうだな、」

時計を見る。18時47分。

「あと23分以内にできるならシャワーを浴びてこい。

19時10分から50分間は基本稽古を行う。」

「・・・了解です。」

いつも通り彼女は短く答えて更衣室に入って行った。

シャワー室は一室。

俺も浴びたいのだが女子中学生と混浴するのはさすがにまずい。

なので椅子にすわり、水を飲む。

彼女はスピードタイプ。

ステップでの距離を詰める速度は速い。

だが肝心の攻撃はさほどの速度はない。

「そういえば・・・」

彼女はスピードタイプでありながら足技を使わなかった。

どうしてだ?

まさか足が使えない俺に対しての敬意・・・?

考えすぎとは言えないな。

一昨日見た基本稽古を見る限り足技は苦手ではないはず。

基本稽古では足技を中心に進めるか。

そうこう考えているうちに彼女が出てきた。

さっきと同じ真紅の道着をまとわせて。

唯一の違いはいいにおいがすることだ。

さすが年ごろの女の子といったところか。

「さて、では基本稽古だ。

一昨日と同じく三戦立ちからの正拳、裏拳、手刀、受け

平行立ちからの足技、前屈立ち下段払い、後屈立ち手刀受け。

壁稽古で足刀横蹴上げ、足刀横蹴をやれ。

20分で終わるはずだ。」

「…了解です。」

指示をした途端に始めだす。

生真面目というか柔順だな。

俺のほうは机でパソコンをいじる。

当然今後についての検討だ。

連盟のHPにアクセスする。

3月11日に一番規模が小さい大会が開催される。

だれしもが必ず一度は参加したことがある初心者向けの大会。

交流試合という名前だ。

名の通り交流がメインであり

初心者が集う大会だ。

とはいえ決勝戦ともあればなかなかのてだれがいる。

交流試合の次のレベルの大会・西武会はかなりの格差がある。

西武会で5冠王くらいできれば俺のいた実戦の最前線の大会でも

1,2回戦くらいは通用するレベルだ。

今の彼女のレベルでは西武会には行けないだろう。

交流試合で2,3回戦いけるかどうかってくらいか。

カレンダーで見ればあと22回稽古ができる。

3時間だから66時間。

普通の奴なら一回1時間で週に3回。

大体4,5カ月分くらいか。

とはいえ入塾から半年間はイベントには出られない。

交流試合といえど参加する奴はみな1年近くやっている連中だ。

経験値だけで言っても彼女の3倍近く。

一応彼女は2年間の実績がある。

参加資格はある。

資料を見れば基本稽古は完ぺき。

週に3回1時間ずつで2年間。

・・・妙だな。どうして2年間試合に出なかったんだ?

「あの、終わりました。」

声をかけてくる。

「ああ。」

タイマーを見れば18分経過している。

2分浮いたな。

残り32分。

よし。

「ならサンドバッグだ。1ラウンド5分でインターバルは40秒。

これを4回行う。これでちょうど32分だ。かかれっ!」

号令をすると彼女はサンドバッグに打ち込み始めた。

するとどうだ。

やはり彼女に実戦経験はなく、打ち込みがめちゃくちゃだ。

つまり彼女まだ自分のスタイルを見つけていない。

さっき足技を使わなかったのは俺への配慮だけでなく

実用に堪えなかったのだろう。

あと22回の稽古。66時間でやれるところまではやる。

今日はそのサンドバッグが終わると稽古も終わらせた。

彼女はすぐに制服に着替えて退室した。

結局笑顔は見せなかったが声を聞けただけでも十分な進歩だ。

俺としては女子中学生のトップレスが見れたのは一番の進歩になるかな。

などと考えつつ俺も着替えて道場のカギを締めて帰宅した。

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