21話「紅のスタートライン」
SCARLET21:紅のスタートライン
・交流試合は終了した。
5人の優勝者が決定した。
「・・・・・・。」
俺は今病院にいた。
赤羽美咲は馬場久遠寺の必殺の一撃・虎徹絶刀征を受けて倒れた。
久遠寺の言った通り一撃目で彼女の腰の骨は砕けていた。
そして2発目。
2発目の虎徹絶刀征は彼女の左足に叩き込まれた。
その猛烈な一撃は彼女の細い左足の骨を粉砕した。
「・・・・ふう、」
手術室から矢岸先生が出てきた。
「先生、彼女は!?」
「・・・とりあえず命に別状はないわ。
ただ腰と左足のダメージがひどいわね。」
「・・・・治りますか?」
「たぶん・・・ね。あの虎徹絶刀征という技が
見事に骨を粉砕してるのよ。骨だけをね。
だから骨さえなんとかすれば元通りの生活が可能よ。」
「・・・・その骨はどうするんですか?」
「・・・・・甲斐君、この話は他言無用よ。
大倉会長が三船と交渉したのよ。
美咲ちゃんの傷を治す代わりに今までの不祥事を帳消しにすると。
そして、彼らが行なっている非人道的な行為を黙認するようにと。」
「・・・・そう、ですか。
けど、三船になら骨を治せるということですか?」
「・・・三船にはクローン技術があるわ。
彼らが言うには美咲ちゃんのクローンも完成しているとのこと。
そのクローンの骨を移植するそうよ。」
「・・・・そう、ですか・・・・・。」
今は三船に頼るしかないのか・・・・・。
けど、俺のようにはならずに済みそうだな。
それだけは不幸中の幸いか・・・・・。
「・・・そう、落ち込まないで。
明日から面会ができるから明日また来てくれるかな?迎えは出すから。」
「・・・わかりました。彼女をよろしくお願いします。」
「・・・・ところでさ、ずっと気になってたんだけど。
あなたたちって師弟関係以外に何かあったりする?」
「?何かとは?」
「だってあなたたち互いに名前を呼ばないでしょ?
師弟関係としての絆が深いことは見ていてわかるけれど
プライベートな関係ってどうなのかなって。」
「・・・・・。」
考えたこともなかったな。
「俺たちにプライベートな関係なんて一切ありませんよ。
もし彼女が今日の試合に懲りて
もう二度と空手なんてしたくないっていうのでしたら
俺は彼女の担当指導員から解除されもう会うこともないでしょう。」
「・・・さびしい関係ね。
けどてっきり私はあなたたちは付き合ってるとも思ったのに。」
「付き合うって恋愛関係ってことですか?
まさか、そんなことありませんよ。
第一俺にはすでに共に生き果てようと誓った人がいます。」
「あら、そうなの?」
「・・・あの子を名前で呼ばないのもそれが原因かもしれませんね。」
しかし、彼女が無事なようで安心した。
しばらくは休ませてやろう。ちょうどそろそろ春休みだし。
「・・・ところで、馬場久遠寺ちゃんに対してはどうなの?」
「どうって?俺はロリコンじゃありませんよ?」
「いやそっちじゃなくて。なんでも物騒なこと言ってなかった?」
「・・・・そうですね。けどもう答えは決まってますから。」
久遠寺はあのまま勝利をおさめ優勝した。
だがその眼はどこか寂しげだった。
それに彼女にとどめを刺した時に発したあの言葉。
「・・・彼女によろしく伝えてください。」「わかったわ。」
そうして俺は近くの気配にまっすぐ向かっていった。
・「・・・・ふう、」
交流試合は終わった。私の初舞台が。
美咲ちゃんを倒して優勝できたけど。
まさか私の制空圏が破れるとは思わなかった。
たぶんお父様には怒られると思うけれど
私は制空圏を破ってくれてよかったと思う。
「・・美咲ちゃん、どうなったかな・・・・。」
私の虎徹は骨だけを砕く。
本当は誰にも使いたくなかった。
あれを使えばほぼ確実に相手を壊してしまうから。
2発目はともかく1発目は・・・・・。
「ごめんね、美咲ちゃん・・・・。」
「彼女なら許してくれるさ。」
「え?」
声の方を見る。そこには死神さんがいた。
「死神さん・・・・・私を壊しに来たんだね。
・・・いいよ、私はその義務がある。
ちょっと抵抗しちゃうかもだけどいいよ、死神さんなら。」
「誤解をするな。そして誤解をされそうなことを言うな。
俺はお前を壊したりはしない。」
「・・・・え?」
「まずあの子は心配いらない。砕けた骨はなんとかなりそうだ。」
「・・・・ほ、本当?」
「ああ。」
よかった・・・・・。本当に良かった・・・・・。
「あ、」
あれ・・・?どうして私泣いてる、の・・・・?
「・・・・ありがとう。彼女のことを思って泣いてくれて。」
「どうして・・・・?どうして私お礼言われてるの・・・・?
どうして・・・・私泣いてるの・・・・?」
「お前が優しいからだろう?
・・・明日、あの子のお見舞いに行く予定だ。お前も来い。」
「え、ええっ!?そしたら私美咲ちゃんに殺されちゃうよ!?」
「大丈夫だ。あの子はそんな子じゃない。」
「・・・・・死神さんやけに私にやさしくない?
もしかして私に惚れてるの?」
それは別の意味で美咲ちゃんに殺されそう・・・・。
「いや、俺はロリコンじゃないし彼女なら別にいる。」
「え!?そうなの!?」
ま、まあ、高校生だからいてもおかしくはないけれど・・・・。
このこと美咲ちゃんは知ってるのかな・・・?
「とにかく明日だ。あの子のことを思うならちゃんと
笑顔でお見舞いしてやれ。
分かったな、久遠。」
「え・・・・?」
死神さん、初めて私のこと久遠って呼んでくれた・・・・・。
「・・・・と、当然だよ。久遠ちゃんはいつだって笑顔笑顔笑顔ー!」
「・・・あの子を粉砕した時の笑顔はいただけないがな。」
「う、やっぱり死神さんひどい。」
私そんなえげつない子だったかな・・・?
けれど、不思議だな。明日が楽しみだ。
「じゃ、また明日ね、死神さん。」
「ああ、しっかり休めよ久遠。」
また明日、か。悪くないかもね。
・3月13日。俺は久遠とともに病院へ来た。
「入るぞ。」
「どうぞ。」
病室。ベッドの上に彼女はいた。
「ヤッホー、元気?美咲ちゃん。」
「・・・どうしてあなたが・・・・」
「俺が連れてきた。試合も終わったんだ。
妙な確執はそぎ落とした方がいいだろう。」
「・・・わかりました。」
「美咲ちゃんも私のこと久遠ちゃんって呼んでよ。」
「・・・恥ずかしいから嫌です。」
「体の具合はどうだ?」
「・・・・はい。今月中には治るそうです。」
「今月中か、早いな。」
尤も骨を治すのではなく移植するのだから当然と言えば当然か。
「ほれ、久遠。」
「あ、うん。あのね、美咲ちゃん。」
「なんですか?」
「今までごめんね、ひどいこと言ったりしたりして。」
「・・・・昨日のでチャラですよ。私の方が年上なのですから。」
「年上だっていうなら敬語をやめて普通に話したらどうだ?」
「それは・・・・。」
「美咲ちゃん、私美咲ちゃんと友達になりたい。
今まであんなことしてしかも
こんな怪我までさせておいて怒られるかもしれないけれど、
私、美咲ちゃんが好きだよ。」
「・・・・・同性に告白されても困ります。」
とはいえ照れてるぞ、おい。
けれど今日の彼女はやけに機嫌がいいというか
表情豊かというかなんというか。
きっと緊張の糸がほぐれたんだろう。
「今月は稽古は休みだ。次の稽古は4月1日の金曜日に行う。いいか?」
「はい。・・・・その、すみません。私負けてしまいました。」
「ベスト10まで残ったんだ。むしろ自慢していい。
間違いなく君は強いよ、俺が保証する。」
「・・・・ありがとうございます。」
「けど美咲ちゃんどうするの?
交流試合の次のランクの大会・清武会に参加するの?
それとももう一度交流試合に出るの?
私は来月の清武会に出る予定だけど。」
「私も出られるのですか?」
「まあ、ベスト10まで行ったから参加資格はあるだろう。
だが清武会は交流試合とはレベルが違う。
久遠、お前の制空圏も100%通用するとは思わない方がいい。」
「だいじょーぶ。久遠ちゃんは反省する子だから
もう自分の力を過信したりはしないよ。」
「お調子者なのは変わらずだがな。」
「・・・あの、いつからその人を愛称で呼ぶようになったのですか?」
「昨日からだ。久遠は本気で反省していた。
本気で君のことを思っていた。
ならば、敵対する必要はないだろう。
わざわざ本人が嫌っている名で呼ばなくてもいいだろう。」
「だからそんな嫉妬しなくていいよ、美咲ちゃん。」
「誰も嫉妬なんてしていません!」
・・・・この二人、いい友達関係になれそうだな。
「さて、私と美咲ちゃんの関係は無事消化したわけだけど。
今度は美咲ちゃんと死神さんの関係をはっきりさせようよ。」
「関係をはっきり?師弟関係があるだろう?」
「そうじゃなくて。
死神さんも美咲ちゃんも別にお互いのこと嫌いじゃないでしょ?
ならせめて彼女とかあの人とかそういう
他人行儀なのは辞めて名前で呼ぼうよ。」
「・・・・。」
まさか昨日矢岸さんから言われたことをここでも言われるとはな。
「だって二人が会って2か月くらい経つのに
お互いに名前を呼ばないなんておかしいよ。」
「・・・・私はあなたを何と呼べばいいのでしょうか?」
「・・・好きに呼べばいい。俺は君をどう呼べばいい?」
「私は別にかまいません。あなたに任せます。」
「あぁ~もう!そんなんじゃいつまでたっても師弟関係だけだよ?」
「・・・・わかったよ。」
ふと考える。下の名前・・・・は抵抗があるな。なら。
「赤羽、これでいいか?」
「・・・・はい、甲斐さん。」
「名字~?ま、今はいいかな。」
まったく・・・。
「赤羽、久遠のことも呼んでやれ。」
「はい。・・・・・久遠。」
「う~ん、ちゃん付けがよかったけどそれでもいいかな?
・・・えへへ。じゃみんなで呼び合おうよ。
ね、死神さん、美咲ちゃん。」
「はいはい、赤羽、久遠。」
「了解です。甲斐さん、久遠。」
今日この日を迎えて俺達3人は今までとは違った確かな絆を手に入れた。
そんなような気がした。
そう、今日ここからが本当のスタートラインだと。




