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2話「拳を握る前にすること」

甲斐廉は赤羽美咲に稽古を付ける前に

1つの注意と条件を出した。

SCARLET2:拳を握る前にすること

・現在時刻3時45分。

俺は道場に来た。

鍵は俺が持っているため仮に彼女が先に来ていたとしても中には入れない。

俺が来た時にはまだ彼女の姿はなく、道場も閉まっていた。

俺は鍵を開け、靴を脱いで一礼をして道場に入る。

この道場はせまいが更衣室くらいはあるようだ。

学校の教室くらいの大きさの畳部屋。

個室トイレが一つ。

広さは基本的。

更衣室は教室の3分の1程度の広さ。

その奥にシャワー室があるようだ。

のぞいてみれば本当に狭い。

トイレと同じくらいの広さのシャワー室だ。

昨日改修工事をしたのか、畳部屋と更衣室にクーラーが取り付けられていた。

トイレには空調も。

よくもまあ一日でここまでできたものだ。

俺は左手で持ったショルダーバックから道着を出して着替える。

相変わらず杖は離せないがな。

着替え終わって畳部屋に行くとちょうど彼女が入ってきた。

「・・・・。」

一礼して畳部屋に入る。

この辺の礼儀はできているようだが声もかけずに更衣室へ向かおうとする。

「待て。」

引き留める。

彼女は無表情のままこちらを振り向く。

「お前は礼儀がなっていない。習わなかったのか?

武道は礼に始まって礼に終わる。

それが出来ない限りはどんなに強くたってお前は素人だ。

俺を敬えとは言わないがせめて声をかけるくらいはしろ。」

少し厳しく言う。

以前数人後輩を相手に指導していた時期がある。

本来指導員コーチになるためには正式な試験があるのだが

俺はその試験を免除して合格した。

だからコーチの基本的なことは分からない。

もしかしたら俺の指導には大きな穴があるのかもしれない。

だがせめて武人としての礼儀くらいは分かっているつもりだ。

「・・・申し訳ありません。

赤羽美咲、更衣をしてもよろしいでしょうか?」

彼女は頭を下げてこういう。

意外とかわいらしいソプラノな声だった。

「よし、それでいい。行っていいぞ。」

「失礼します。」

彼女は再度礼をして更衣室へと入って行った。

あの制服、俺の卒業した中学のだったな。

資料には書かれていなかったが近場に住んでいるのか?

などと考えていると道着に着替えて出てきた。

相変わらず見たこともないほど赤い道着だ。

気がついたがこの道着には帯がない。

俺が少々無神経にじろじろと見ると

「女性の服をまじまじと見るのは失礼ではないのですか?」

と切り返されてしまった。

「・・・失礼。珍しい道着だったからな。さて、今日の稽古を始めるぞ。」

俺は杖に挟んでいた紙を取り出す。

さっき図書室で書いた問題用紙だ。

「本来ならば3時間あるのであれば休憩を含めて1時間ずつ分けて

基本稽古、補強、実戦訓練とするのが基本だ。

だが今日は初稽古ということで特別メニューを書いた。」

俺が紙を裏返して彼女に見せると一目散に彼女の表情が変わる。

紙にはこう書いたのだ。

俺に一本入れてみろ、と。

「・・・いいのですか?私は手加減の仕方を知りませんよ?」

「俺も手加減の仕方を知らないのでな。

年下の女子なんてのは戦いには関係ない。

この3時間の間に俺に一本入れてみろ。

それができなければいくら連盟の指示とはいえ

適性試験に合格できないとしてコーチを降りる。

正式な手続きとしての否定ならば連盟も受け止めてくれるはずだからな。」

「・・・了解です。」

彼女が構える。

なるほど。

左足を前にしている。

右利きの組み手立ちか。

肩幅に足を開いているし重心も左右均等。

誰が教えたのかは分からないが基本は完ぺきだな。

さて、やるか。


・1月17日。

現在時刻は午後17時9分。

「制限時間は午後20時まで。

ただし18時、19時からそれぞれ10分間ずつ休憩をはさむ。

実戦らしくどんな攻撃をしてもいい。

ただし場所はこの畳部屋だ。

用意はいいか?」

「・・・・いつでも。」

彼女は構えを崩さない。

俺はメニューの紙を机の上に置き、彼女の前に立つ。

彼女が来るまでに俺が即興で立てた杖を持ったままでも十分に戦える構えだ。

時計の秒針が頂きで重なる。

「始めっ!」

号令をかけると同時に彼女が踏み込んできた。

原理原則通りの前屈立ちからの正拳突き。

だけど、遅すぎる。

俺は軽くかわして杖を持っていない左手で彼女を殴り倒す。

彼女は畳にたたきつけられてなかなか起きてこない。

「どうした?もうあきらめるのか?

実戦は初めてだからという言い訳を自分に勝たせてもいいのか?」

わざと挑発じみたことを言う。

挑発に乗ったのか、彼女は見たことないほど激した感情を顔色に染めて

俺をにらみながら立ち上がる。

再び彼女が原理原則通り前屈立ちからの正拳突きを放つ。

同じように俺は流して彼女の腹に拳を撃ち入れる。

スピードを上げるためなのかそれとも最近の女子校生に流行な

ダイエットなのか体重は思った以上に軽かった。

彼女の体が宙に浮き、後方に倒れた。

なるほど。

スピード重視か。

最もメジャーだが俺のタイプとは相性が悪いな。

だがこの勝負だったらスピードタイプのほうが有利だ。

なぜなら一撃入れるだけで勝ちなんだ。

威力なんて関係ない。

しかし、それでも。

「っ!」

再び彼女の体が畳にたたきつけられる。

今まで俺の拳は敵の体の機能を破壊するためのものだった。

さすがに今はそうはせずにあくまでもただの拳だ。

そのただの拳とはいえ実戦経験0の少女が3発喰らった。

実戦を繰り返している男でも運が良ければ一撃で終わる。

現に一撃で倒した奴は10人以上いる。

TKOまで持ち込ませたことはほとんどない。

秒針を見る。

拳を振るってから20秒が経過している。

彼女は起き上がってこない。

戦いにおいて手加減は無礼に当たる。

指導員が生徒と組み手をするときは制限をかける。

足技を使わない、ガードのみなど。

今回の俺は足技が使えないためそれが制限となっている。

パンチは急所を突いたり機能破壊をしないようにしているとはいえ

力は抜いていない。

秒針が180度を過ぎた。

実戦でここまで立たないと敗北決定だ。

今の状態で俺と同格の奴と実戦をしたら3回は負けていることになる。

やがて彼女は立ちあがった。

しかし足元がおぼつかない。

どうやら倒れた際に頭を打ったようだ。

「脳震盪か?休みにするか?」

「・・・大丈夫です。続行を。」

「・・・わかった。だが脳震盪などの頭へのダメージは危険だ。

実戦で脳震盪になったら棄権をしたほうがいい。」

「・・・ご教授感謝します。」

「・・・よし、続行っ!」

号令をかければ彼女は瞬発力で俺との距離を詰める。

なるほど。

一気に距離を詰めて連打でもしようものなら一撃くらいはあてられるだろう。

だけどその考えは甘いぜ。

「っ!?」

彼女の体に3発拳が叩き込まれ、彼女は崩れ落ちた。

俺の間合いに入ったからだ。

不意を突かれたからか彼女がさっき以上に動く気配がない。

まあ、居合拳は相手が歴戦の勇士でもひるませるほどの威力だ。

無理もないか。

現在時刻は17時55分。

あと5分で休憩だが果たして立てるかどうか。

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