19話「赤と金の疾風」
SCARLET19:赤と金の疾風
・束の間の休憩時間を終えて3回戦目の時間となった。
「相手はリインハルトという外国人の少女。年齢は君と同じ。
そしてスタイルも同じスピードタイプだ。
そして俺の見目では彼女は君よりも速い。」
「・・・・頑張ります。」
前に出る彼女。
その前には長い金髪を一本に結んだ少女・リインハルトがいた。
背丈などは彼女とほぼ同じ。オレンジ帯には一本線が入っている。
「第三回戦、開始っ!」
号令がかかる。
同時に彼女とリインハルトが行動を開始する。
互いに自慢のスピードを生かした攻撃を仕掛けている。
恐らくこの交流試合に参加している中では最速の対決となるだろう。
「くっ、」
試合開始から10秒。
撃ち合いを終えた彼女がひざまずく。
撃ち合いを見たところリインハルトのスピードはかなりのものだ。
スピードだけなら既に上のランクだろう。
彼女のスピードを上回りその手数でダメージを与えていた。
幸い攻撃力はそこまで高くないのか彼女はすぐに立ち上がり行動に移る。
対するリインハルトはさっきまでの笑顔が消えていた。
恐らくリインハルトの予想以上に彼女の威力が高かったのだろう。
つまりスピードではリインハルトの方が上だが
パワーは彼女の方が上となる。
受けたダメージは互いにほぼ同じ。
それで彼女だけがひざまずいたところを見れば
タフネスはリインハルトの方が上か。
再び二人が戦場の中央でぶつかり合う。
彼女は制空圏を形成するもリインハルトのスピードがあまりにも速く
防ぎ切れていない。しかも後ろ手の攻撃が簡単に回避されているから
勝っている要素であるパワーを発揮できない。
リインハルトもすばやく互いの能力差に気付いたのか
手数で攻めてじわじわとなぶるスタイルに切り替えている。
それに、
「くっ!」
彼女が蹴躓いてしまい転倒する。
無理に相手のスピードに合わせようとして
足に負担がかかってしまっていたようだな。
何とか一本取られる前に立ち上がったからセーフだが・・・・。
足に負担がたまっているのは一目瞭然だ。
動きが鈍くなっている。リインハルトの方はまだ全然平気なようで
スピードが全く衰えていない。
彼女の行動を先手を取って潰しまわっている。
おかげで彼女は攻撃も防御もままならない。
それに前二つの戦いのダメージや疲労も残っている。
100%の力が出せずに圧倒されてしまっている。
「・・・・いや、」
確か前に彼女は肉体改造の影響で
常に100%の行動ができるようになってると言ったな。
3連戦を100%の力で行えば体への負担は大きいに決まっている。
「くっ!」
再び疲労で動きが止まったところに回し蹴りを受けて後ずさってしまう。
あれだけ速い相手だと送熱も当てられないだろう。
玄武もすでに破られている。残る白虎も当らないだろうが・・・・・。
「フィニッシュ!」
リインハルトが加速し、彼女の反応速度をはるかに超えたスピードで
彼女にパンチ連打を叩き込む。
が、
「しゅっ!」
「!?」
それを無視して彼女はリインハルトの右足にローキックを叩き込む。
「がっ・・・・!」
思わぬ打撃だったのかリインハルトは攻撃を止めて痛がってしまう。
そこへ彼女が2発目のローキックを打ち込む。
さらに暇を与えずにひるんだリインハルトの顔面を回し蹴りでひっぱたく。
「せっ!」
倒れたリインハルトの前で下段払いをして一本を奪う。
これで倒されない限りは判定で勝てる。
だが彼女のダメージもかなりのものだ。
残り45秒耐えきれるかどうか・・・・。
「・・・・シット!」
「え?」
いきなりリインハルトが立ち上がり、突撃する。
そのスピードのすべてを攻撃力に変えた拳を彼女の腹に打ち込む。
「くっ・・・・!」
「FIRE!!!!」
威力を殺さず拳を受けて折れ曲がった彼女の体を
拳の上に乗せたままステージの端までダッシュし、
彼女を壁にたたきつける。
「・・・・まずいな。」
満身創痍の彼女に無慈悲な破壊力抜群の攻撃が叩き込まれるなんて。
「・・・・くっ、」
彼女は壁に寄りかかったまま動かない。
「・・・・・・・・・・ううっ、」
気絶していたのか彼女が身動きを取り戻す。
が、今のは致命的なダメージだ。
壁に手を置きながら何とか立ち上がる。
対するリインハルトは今の技は負担が大きいのか
非常に疲労した様子だ。
「ふぃ、フィニッシュ・・・・!」
リインハルトが何とか走り出す。
とはいえそのスピードはさっきまでの半分以下だ。
それに気付いているのか彼女も走り出す。
あの構えはまさか・・・・。
リインハルトが彼女向けて飛び回し蹴りを繰り出す。
それを予測していたのか彼女も攻撃に合わせて
ジャンプして体を回転させる。
「白虎一蹴!」
今日は一度も使っていなかったいや、
あの戦い以来一度も使っていなかった白虎をこの場面で・・・!?
空中で二人の回し蹴りが激突する。
「つっ!」
「ううっ!」
二人同時に着地できずに畳の上に倒れてしまう。
そこで同時に時間が来てしまう。
「大丈夫か!?」
急いで彼女の下へ行き、体を起こす。
「・・・け、結果は・・・・?」
彼女がジャッジの方に顔を向ける。
俺もジャッジの方を向く。結果は引き分けだった。
「・・・延長戦、やれるか?」
「・・・・言ったはずです。私は全力を尽くします。」
彼女が何とか立ち上がる。
足元もおぼつかずにいつ倒れてもおかしくない様子だ。
対するリインハルトもかなりのダメージが入っているのか満身創痍だ。
だが、彼女に比べるとまだ余裕がありそうだ。
「延長戦を始める。開始っ!」
号令がかかる。
しかし両者ともに立ったまま動かない。
互いにもう撃てるのが一発だけだと悟っているのだろう。
そしてその一発で片づけられるならリインハルトの方が有利。
リインハルトは30秒過ぎたあたりで動き出す。
どこから出しているのかそのスピードはさっきまでよりもさらに速い。
一瞬で彼女の目前までたどり着き、拳を腹にぶち込む。
「ぐっ・・・・・・!!!」
彼女の体が宙に浮かぶ。
が、その浮かんだまま彼女はボロボロの足をふるい
リインハルトの顔面をひっぱたく。
威力は弱々しいが
満身創痍のリインハルトにとどめを刺すのには十分だった。
「・・・・う、」
リインハルトは後ろ向きに倒れそのまま意識を失った。
「・・・・せ、せっ!」
彼女は着地して一本を決める。
先ほどの一本と合わせて2本が確定した。
「勝者・赤羽美咲!」
ジャッジが下る。同時に彼女も倒れてしまった。
「・・・・よくやった。」
意識を失った彼女を背負い、控室まで運んでいく。
ベスト20に進出できたか。
だが、この状態じゃ次のブロック決勝戦は・・・・・。
「・・・・・はあ、」
控室に到着し、彼女を下して横にさせる。
ブロック決勝戦はすべての第三回戦目が終わった20分後に開始される。
どうやら今の試合が第三回戦目のラストだったみたいで
20分後にはもうブロック決勝戦が始まってしまう。
「・・・・ん?」
ふと電子掲示板に映っているトーナメント表の違和感に気付く。
彼女の次の対戦相手がいない・・・・?どういうことだ・・・?
「おめでとう、ベスト10に進めたわね。」
矢岸先生が来る。
「あの、どういうことですか?」
「あら?知らないの?美咲ちゃんが次に戦うはずの相手は
さっきの試合で骨折してこの試合を辞退して病院に運ばれていったわよ。」
「・・・・それって・・・・」
「そう。だから美咲ちゃんはベスト10入りを果たしたのよ。」
「・・・・・・。」
ラッキーだな。まさかこんな奇跡が起こるとは。
「ベスト10の試合は午後3時からだからあと2時間以上休めるわね。
ゆっくり休ませてあげるといいわよ。」
「・・・・・はい。」
願ってもない幸運。だが、これは本当に幸運なのだろうか・・・・。
なにせ、次の対戦相手は十中八九・・・
「馬場久遠寺か・・・・。」
その名を呼ぶ。
当然馬場久遠寺はブロックを勝ち進んでいた。
戦績を見ればどれも30秒以内にKOして勝利している。
恐らくすべての攻撃を制空圏で防がれた挙句
一撃必殺で粉砕されたのだろう。
「・・・・あの化け物め。」
そうつぶやくのであった。