17話「3月12日」
SCARLET17:3月12日
・3月12日。今日はいよいよ交流試合の日だ。
彼女とともに会場へ到着する。
入場するとスタッフからトーナメント表が配られる。
参加人数は160人。当然彼女の名前もある。
10ブロックに分かれ、1ブロックは16人。
それぞれのブロックで4戦勝ち抜いたものが隣のブロックの
同じく4戦勝ち抜いたものと戦う。
そこで残った5人が全員優勝という扱いになる。
そのため運が良ければ強敵とぶつからずに終えることもできる。
優勝確率は32分の1。
この交流試合でベスト10に残れば
次のランクの大会に参加できるようになる。
もしくはベスト20を2回以上でも次のランクの大会に行ける。
今日は午前8時より始まって午前中までにベスト20まで決め、
午後にそれ以降の試合を行うというものだ。
「私はどこまでいけるでしょうか?」
「そうだな。よほど相手が悪くなければベスト20に行けないこともない。
経験則からすればベスト20までいけない確率が4割、
ベスト20で敗れる確率が4割、
ベスト10に残れる確率が2割だな。
残念ながら優勝はできないと思う。」
「・・・・ありがとうございます。」
・・・・だが現実はもっと厳しい。
初参戦同士はブロックが近いように設定してあるからか
馬場久遠寺が隣のブロックにいる。
奴の実力からすれば間違いなく4回勝てるだろう。
その場合もし彼女が4戦勝った場合は
馬場久遠寺と戦うことになってしまう。
幸か不幸か彼女のブロックには
それほど強いと聞いたことのある奴はいない。
この調子ならうまくいけばベスト10までいけるかもしれない。
「では、これより一回戦を始める。
全員指定された場所へ行くように。」
指示が出た。
「行って来い。初戦の相手はオレンジ帯で小学6年生だ。」
「・・・・はい。全力を尽くします。」
?気のせいか?やや顔色が悪い気がするが・・・・。
ともあれ男女差別制でもあるのか
この交流試合では女子は1つ年下として扱われる。
中学2年生の彼女はこの場にいる限り中学1年生として扱われる。
そのため小6男子、中1男子、中2女子が対戦相手の候補となる。
無論2戦目以降は年齢もバラバラになるためこの限りではない。
「さて、」
彼女の一戦目の相手はオレンジ帯小6男子の矢島。
彼女同様今回が初参戦。
彼女のことだから年下だからって油断はしないだろうから安心だが。
「あら、もう始まっちゃった?」
「ん?」
声とともに一人の女性が来た。
「あなたよね?赤羽美咲ちゃんのコーチは。」
「そうですが?」
「私は矢岸彩音って言ってあの子の主治医をしてるの。」
矢岸・・・・・牧島さんが言っていた人か。
「でもあの子大丈夫かしら?」
「?心配されるほどの組み合わせとは思えませんが?」
「いや、そうじゃなくてね。う~ん、言っちゃっていいのかな?」
「・・・彼女の体に何か問題が?もしかして薬の後遺症か何かですか?」
「いや、そういう重たいのじゃないんだけどね。
あ、でも重たいと言えば重たいのかな。」
「?」
なんだかはっきりしないな。
いったいこの人は何を言おうとしているんだ?
「まあ、この試合次第かな。」
「・・・はぁ。」
そして試合が始まった。
実戦経験がなかったとはいえ2年プレイヤーの彼女は
ほかの初参戦者とは動きがまるで違う。
全力状態でない普段のスピードでもほかの連中の2倍は速い。
パワーだってスピードタイプにしては上位だ。
はっきり言って初参戦者相手に負ける要素はない。
だが、確かに彼女の動きはどこかキレが悪かった。
「っ!」
得意のスピードプレイもいつもと比べて地味だからか
見切られてカウンターをもらってしまう。
「やっぱりきついみたいね。」
「教えてください。彼女の身に何が?」
「・・・・そうね。一言でいえば・・・・。」
そこで俺はとんでもないことを聞いてしまった。
「あの子、今日女の子の日なの。」
「・・・・・なんてこった。」
女の子の日。つまり生理痛。
詳しくはわからないけどきついときはかなりきついと聞く。
なるほど。通りで今日の彼女の動きは重いわけだ。
「一応痛み止めを持ってきてるんだけど間に合わなかったようね。」
「・・・あの子はこのことを知ってるんですよね?」
「もちろん。」
「くっ!」
決め手に欠けてキレのない動きばかりで
彼女は明らかに格下相手に押されてしまっている。
制空圏も乱れてほとんど機能していない。
残り時間はあと30秒弱。このままでは下手したら判定負けもあり得る。
1戦目の1ラウンド目から判定負けなんて滅多にないことだ。
どんな事情があれど彼女のメンツに傷をつけることになりかねない。
「ん?」彼女の動きが変わった。
わずかだが本来のスピードを取り戻し、
一瞬で距離を詰めて膝蹴りでひるませてから
飛び蹴りで一本を入手する。これで形勢逆転だ。
KOでもされない限り彼女の勝利は確立してるだろう。
そして予想通り判定で彼女は勝利を収めた。
「勝ちました・・・・。」
「・・・・・俺に言うことはないか?」
「え?」
彼女は呆けた顔をした後俺の後ろにいた矢岸先生の姿を見て表情を変えた。
「・・・・早く痛み止めをもらって来い。きついんだろう?」
「・・・・申し訳ありません。」
足早に彼女は矢岸先生とともに医務室の方へ向かっていった。
「あれ?美咲ちゃんどうかしたの?」
そこへ響く少女の声。
「お前には関係ないだろう?」
振り向けば馬場久遠寺。
「すっかり敵視されちゃってるし。
交流試合なんだからそんなピリピリしなくていいじゃん?」
「誰もがお前みたいな能天気じゃないんだ。」
「ひどいな、死神さんは。」
「・・・そうだ、ひとこと言い忘れていた。」
「何?」
いつも通りの久遠寺に俺は殺気の視線を向けた。
「もしお前が彼女と戦い、
彼女の未来まで壊したならば俺がお前の未来を殺す。」
「・・・・・っ!」
殺気に押されてか珍しく動揺と恐怖の顔をして後ずさる久遠寺。
「く、久遠ちゃんはただ美咲ちゃんとの試合を楽しみにしてるだけだもん。
よろしく言っといてね。じゃ、じゃあね!」
そう言って慌ただしく去って行った。
「・・・・・ふう、」
なにさっきの?あれが殺気っていう奴なの?
そー君やらい君とも違う・・・・。あれが死神の殺気・・・・。
あと少しで洩らしちゃうところだった・・・・。
私の制空圏は完ぺきでたぶん死神さんでも破れないとは思うけれど
美咲ちゃんを壊すのはやめた方がいいかもしれない。
あの状態で死神さんの攻撃をすべて防ぎきれる自信がない・・・・。
そして多分あの人の本気の攻撃を一撃でも食らったら・・・・・。
「考えるのやめよっ・・・・。」
次の試合の場所にいかないと。
それに、美咲ちゃんや死神さん以上に
注意しなくちゃいけない奴も見つけちゃったし。
「最強の白帯か・・・・。」
美咲ちゃん以外で今回唯一参加している三船道場出身の人・・・。
ブロックがまるで違うからどうやったって戦う機会はないけれど
あの人相手には私の制空圏も通じないような気がする。
今日は虎徹は使わずに済みそうかも。
唯一使いそうな相手が美咲ちゃんか。
無理だとは思うけどもしかしたら私の制空圏が破られるかもしれない、
その時は私の虎徹で・・・・・。