表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
15/49

15話「如月の末に」

SCARLET15:如月の末に


・2月21日月曜日。今月もあと一週間で終わりか。

俺も彼女も春を迎えてからは受験か。・・・気が進まないな。

「おう、甲斐。一昨日の試合は見させてもらったぜ。」

「そうか。負けちまったがまあいい試合だったと思う。」

「まあな。」

斉藤と話しながら退屈な授業を終わらせる。

馬場久遠寺。10歳。

オレンジ帯。道場に通いだしてからまだ半年の少女。

それなのに制空圏をマスターしている。

練度も凄まじく里桜でさえも完封負けさせるほど。

まあ、普通の試合ではないけど。

それにあの様子じゃ防御だけではなく攻撃の制空圏もかなりの練度だな。

だが肝心の攻撃と防御の技術はそれほどでもない。

どんな攻撃でも防げる楯とどんな楯でも打ち破る槍を持つが

楯の使い方も槍の使い方も未熟と言ったところか。

恐らくそこが唯一の突破点。

「ん?」

放課後。教室を出たところで奇妙な3人組を発見した。

3人が手に持ってるのは・・・・碁盤か?

碁盤・・・・・。そうか!その違いがあったか。

「おい、ちょっといいか?」

「あん?あんだ?」

「一日だけでいい。その十九路盤と碁石を貸してくれ。」

「・・・・?ああ、いいぜ。一日と言わず次の部活までなら貸してやる。」

「すまない。」

「それで、それはなんですか?」

道場。

いつものように真紅の胴衣をまとった彼女は碁盤の前で立ち往生していた。

「制空圏ってのがどういうものなのかを理解するのには一番囲碁が適任だ。

ルールはわかるか?」

「・・・・・いえ。」

「なら、それもちょうどいい。」

「あの、今日空手はやらないのですか?」

「そう言うな。こればかりは頭で理解しないと意味がないんだ。」

「・・・・はあ。」

あまり乗り気ではないようだが構わず囲碁のルールを教える。

「碁石の一つ一つはすべて同価値だ。持つ力も同じ。

そしてその力が及ぼす範囲はすべて同じだ。

しかし互いの領域がぶつかり合うと互いに領域が変動する。

場合によっては全く殺されてしまう領域も存在する。」

「・・・それはまさか・・・」

「そう、空手でも同じことが言える。

自分が100%の力を発揮できる領域というものがある。

制空圏というのはその領域内に入ってきた自分以外のものを遮断し、

また、相手の領域の隙を見切りそこに

自分の石を置いて敵領域を奪うことにある。

囲碁と空手はよく似ているんだ。・・・納得できたか?」

「・・・わかりました。指示に従います。」

その後は互いに畳の上で胴衣を着たまま対局をしていた。

しかし、十九路盤は少し長いな。

これじゃいまいち一騎打ちでの制空圏の取り合いがわかりづらいかもな。

臨場感を出すには九路盤の方がよかったか?

「ルールはわかったか?」

「はい。ですが、全然勝てません。」

「まあ、俺も囲碁やってたからな。

最初のうちは容量さえつかめばいいさ。」

「・・・・囲碁をやれば馬場久遠寺さんに勝てるのでしょうか?」

「思うがあの餓鬼は囲碁をやったことがない。

何らかの理由で制空圏をマスターした。

だが奴の制空圏が発動されている領域は恐らくかなり狭い。

その分制御力はかなり高いがな。」

「・・・そうですか。」

「ああ。だから君は・・・・。」

俺は彼女にあることを伝えた。

「・・・・私にできるのでしょうか?」

「できるかどうかは君次第だ。今日はもう少し続けるぞ。」

「・・・了解です。」

その後時間ぎりぎりまで対局を続けた。

結局今日は一度も稽古ができなかったが

下手な稽古をするよりかは彼女にとって大きなプラスになったはずだ。

馬場久遠寺は確かに天才だ。だが、まだ小学生だ。

中学生と小学生の違いで奴の制空圏を破ってみせる。


・囲碁をやりながら迎えた2月27日の審査会。

彼女とともに大倉道場の審査室に向かった。

そこには大倉会長と幹部である佐久間さんがいた。

「佐久間さん、お久しぶりです。」

「甲斐か。まさか残ってくれるとは思わなかったぞ。」

「お知り合いで?」

「ああ。俺が中学時代に世話になった人だ。」

「その子が赤羽美咲か。

俺はこないだの試合は見れなかったがいい試合をしたと聞いている。

今日君の審査をする佐久間暁久だ。」「よろしくお願いします。」

今日行う審査はいたって簡単なものだ。

基本稽古・基礎訓練そして組手の三つで判断する。

本来はここに普段の稽古態度が加わって

25点×4の100点満点で計算されるが、

今回はカウントしない。よって75点満点で50点以上取れれば合格だ。

彼女は実戦こそ先週のが初めてだったが

基礎稽古などは三船にいた2年で万全にまで身に付けていた。

よって基本稽古と基礎訓練はともに満点で

既に合格点である50点をとれていた。

「組手って相手は誰ですか?」

「もう呼んである。」

佐久間さんが言うと一人の少年が入室した。

彼女と同じオレンジ帯の名前は入谷。

「彼は前回の審査で1点足らずに不合格になったからな。

組手の部分だけ再審査ってわけだ。」

「なるほど。」データを見る。入谷恭一、14歳。経歴は8か月か。

「組手を始める。1ラウンド3分のものだ。

スパーリングと同じものだから互いに手は抜かずに

且つけがをさせぬように行え。始めっ!!」

号令と同時に二人が構える。

素早く彼女が接近し、入谷の左足にローキックを打ち込む。

入谷は苦痛の表情をするがひるまずに

ローキックのクイックカウンターで彼女の左足をたたく。

逆にひるんでしまった彼女へ距離を詰めて拳を叩き込んでいく入谷。

ようやく態勢を整えた彼女が鋭い前蹴りを繰り出すが防がれてしまう。

が、予想以上の威力だったのか入谷が防いだ腕を抑えて後ずさる。

その隙を逃さずに彼女の飛び上段が入谷の顔面をひっぱたく。

「くっ!」

入谷はぎりぎりでガードしたため直撃を避ける。

そして着地と同時に彼女の足を払って転倒させる。

残り時間は2分。まだまだ余裕はある。

「・・・・・・」

「ん?」

彼女の気配が変わった?

彼女は立ち上がると同時に一瞬で距離を取る。

「・・・まさか・・・・」

俺の予感は当たった。

彼女はスパーリングで白虎を使った。

「ひっ!!」

入谷の目には赤一色が映る。距離を取ったと同時に超スピードで彼女が

目前に迫り、超高速の飛び後ろ回し蹴りが入谷の顔面にたたきこまれた。

今度はガードどころか反応すらできずに入谷の体が宙に浮かび、

妙な態勢のまま地面に落下した。

「そこまで!!」

急いで佐久間さんがスパーリングを止めた。

「え・・・?」

驚く彼女にゆっくりと近づく。

「少しやりすぎだ。」

「・・・・・。」

彼女は今まで格上としか相手をしたことがない。

だから手加減が一切できない。

そして今までの組手では圧倒的実力差を埋めるために

白虎による一撃必殺を狙ってきた。上級者相手に少しでも近づくために。

実質彼女の白虎は教えた時と比べて別格にうまくなっていた。

それが仇となった。

「救急車を呼びます!!」

佐久間さんの判断はこうなった。

見れば入谷は歯が何本も砕けていた。

目は虚ろで間違いなく失神している。

やがて救急車が来て入谷は運ばれていった。

「・・・私は・・・・」

「君はどんな一線でも全力で戦っている。

それはいいことだ。だが、常にいいこととは限らない。」

白車を見送りながらそう声をかけることしかできなかった。


・2月28日。月曜日。昨日の審査結果が発表される。

対戦相手だった入谷恭一の容体は不明。

恐らくそれも今日言われるだろう。

「それはまた一気に難しくなったな。」

「ああ。問題なく試合に出られると思ったんだがこのままじゃな・・・。」

なにせ彼女は格下の相手を無事に

倒すことができないということが判明してしまったのだから。

この問題を解決できないうちは試合に参加させてはもらえないだろう。

そして放課後。

道場へ向かうと既に鍵が開いていて中には

彼女と大倉会長と佐久間さんがいた。

「すみません、遅れたみたいで・・・。」

「いや、高校生だから仕方ない。まあ、甲斐も座れ。」

「はい・・・・。」

佐久間さんに指示を受けて彼女の隣に座る。

「・・・・。」

彼女はまだ制服姿だ。何も言わずにうつむいている。

「まず審査の結果だ。基本稽古と基礎訓練は25点25点の50点。

組手に関しては7点だ。よって合計は57点。一応審査は合格となる。」

「・・・それで相手の方は?」

「やはりそこか。あの後病院で手術が行われた。

歯を6本粉砕されていてあごの骨にもひびが入っていた。

が、幸い命にも脳にも異常はない。」

「・・・よかった。」

とりあえず死んではいないか。

「しかし君もわかってのとおり彼女の力は危険だ。

よってここに検査を行う。」

「検査、ですか?」

「そうだ。赤羽美咲の力が安心を持てるものかどうか。」

よく見れば佐久間さんの後ろに胴衣を着た少年がいた。

「俺の弟の巧だ。13歳の中学1年生。

オレンジ帯。こいつと戦ってもらう。」

「佐久間巧です、よろしく。」

「・・・・・。」

昨日とほぼ同じ条件で・・・・。

「赤羽美咲、俺の弟に勝って見せろ。

ただし昨日のようなことがあった場合は勝ったとしても

試合への参加は認められない。いいな?」

「・・・・了解です。」

彼女が更衣室へと向かっていった。

「佐久間さん、そいつは・・・・」

「ああ。前回の交流試合に参加している。2戦目で負けたがな。」

「けど俺は相手が強ければ強い奴ほど燃えます。

相手が女の子であっても手加減はしません。」

そう言う巧。やがて彼女が真紅の胴衣を身に付けてやってきた。

馬場久遠寺に引き裂かれたアンダーシャツは

不器用に刺繍がされてふさがっている。

「ルールは交流試合と同じく1ラウンド2分30秒の3ラウンドだ。

では、始めっ!!」

号令と同時に巧が突撃してくる。

彼女は身構えたまま迎撃態勢。

「せっ!!」

突撃と同時に拳を繰り出す。

思った以上のパワーで彼女のか細い体が後方に吹き飛ぶ。

「くっ!」

彼女は着地し、鋭い前蹴りを繰り出す。

「ぬっ!」

巧はそれを気合いを以て受け止めた。

そして間髪入れずに彼女の鳩尾に膝蹴りを打ち込む。

巧はパワータイプだな。あまり攻撃をよけずに耐えるタイプ。

・・・佐久間さんも人が悪い。

ただでさえ相性があまり良くないのに不利な条件を付けるとは。

けど、安全を確かめるのにはふさわしいか。

「せっ!!」

巧の力任せなブローが彼女のガードした腕をはじく。

そしてノーガードとなったボディに2発目のブローを打ち込む。

後ずさる彼女の内股にローキックを打ち込む。

彼女はほとんど攻撃も迎撃もできていない。

昨日のがよほど堪えているのか・・・・!

確かにそれでは相手にけがさせることはないが、勝利はできないぞ・・・・!

「せっ!」

再び巧のブローがガードの上から彼女にダメージを与える。

残り時間はあと30秒。

これで有効打を与えないと判定で負けてしまう。

「・・・・・」

彼女の雰囲気が変わる。そして巧のブローの軌道をそらす。

「あれは・・・・」

制空圏?果てしなく不恰好だが制空圏の効果を発動できている。

どうやら一撃しか無力化できないみたいだな。

が、完全に無力化されて巧に隙ができた一瞬に彼女は拳を打ち込む。

送熱か・・・・。拳から熱が送り込まれる。

「あ、熱い!熱い!」

巧が暴れだす。彼女はそこで距離を取り、飛蹴りを打ち込む。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ