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1話「死神と紅蓮と」

SCARLET1:死神と紅蓮と


・俺は甲斐廉。

実戦空手をやっている。

空手といっても俺の場合はほぼ総合格闘技だ。

非殺傷なら武器の使用も認められている。

体術も関節技、投げ技もありだ。

試合をしていれば病院送りの奴もいるがそれはまだ幸いだ。

下手すると半身不随になる奴や倒れて

そのまま起き上がることがなくなった奴までいる。

俺はそんな世界で10年間戦ってきた。

自分で言うのもなんだがかなり実力はあると思う。

巷じゃ拳の死神なんて

名誉なんだか不名誉なんだかわからない名前でささやかれている。


・2011年1月14日。この日は俺の17歳の誕生日だ。

同時に大会の日でもある。

俺は今までどおり大会に参加した。

結果は順調。午前の部を勝ち抜いて

午後の部=決勝トーナメントまで勝ち残った。

最近は年齢のせいか体が若干重くなっている。

それが原因かどうかは分からないが準決勝でそれは起きた。

相手の攻撃を受けた俺の右足が爛壊した。

重心移動の最中に右足のひざに腰回しを受けたのだ。

意識がおぼつかないまま俺は病院に運ばれた。

診察結果は右足の関節の粉砕。

杖がなければ碌に歩けない状態になってしまった。

当然もう大会には出られない。

俺は現役の引退を表明した。

この世界において現役を引退すれば残っているのは何もない。

そのままこの世界を去るしかない。

だが去ろうとする俺に空手連盟の会長が声をかけたのだ。

現役でなくとも活躍する方法は、君が生き残る道はある。と。

それは本当ですか?と聞くと

会長は明日来れるかと聞いてきた。

俺は肯定した。


・2011年1月15日。

俺は足に負担がかからないように特製のギプスをつけ

右手で杖をつきながら会長に指示された場所へと向かった。

そこは古ぼけた道場だった。

表札もない殺風景な、この季節には殺人的に寒い道場だった。

俺が中へ入るとそこに会長がいた。

「甲斐廉、ただ今まいりました。」

「うむ。甲斐君、君の実力をなくすには惜しい。

どうかまだこの世界に残ってくれないだろうか?」

「その気がなければここには来ていませんよ。」

「ありがとう。」

「それで、俺は何をすればいいんですか?スタッフですか?ジャッジですか?」

「いや、君にやってもらいたいのは彼女のコーチだ。」

会長の声がすると別室から一人の少女が入ってきた。

道着を着ている中学生くらいの少女。

その道着も変わっていて、真紅の道着だった。

今まで白い道着や黒い道着は

見たことがあったがここまで赤一色の道着は初めてだ。

「この子は?」

「赤羽美咲という。彼女のコーチをやってはくれまいか?」

「構いませんが、」

俺は会長のほうから視線を赤羽美咲へと移す。

「目的は、何だ?」

口調を変えて発する。

だがその少女は何も答えない。

「君の実力なら彼女のコーチができるはずだ。」

「…会長、この子は一体何なんですか?

確かに俺は指導員免許もありますからコーチができますが

それでも生徒の素性がわからなければ何もできません。」

「・・すまない、甲斐君。私の口からは言えないんだ。

だが、赤羽君は決して悪い子ではないよ。これが資料だ。」

会長から渡された資料。

赤羽美咲 14歳 性別:女 中学2年生

実戦経験なし 大会未参加 空手経験期間:2年間。

ほかにもいろいろ書いてあったが素人というわけではないらしい。

連盟の認証もある。俺がどうこうしても意味はなさそうだ。

「わかりました。甲斐廉、引き受けます。」

「ありがとう。こんな道場しかないが自由に使ってくれ。

必要なものがあったら言ってくれ。」

必要なもの…か。とりあえずミット、サンドバッグ、それからクーラーが必要かな。

「では、ミット、サンドバッグ、クーラーをお願いします。」

「わかった。それらのものは既に予約してあるから明日ごろには整うはずだ。」

「ありがとうございます。今のところほかには必要ありません。」

俺が言う。

その少女はさっきからピクリとも動かずに不動立ちをしている。

いい心がけだ。この寒い中よくやる。

早速稽古をつけてやるか。

「赤羽美咲。まずは君の程度を見たい。

基本稽古から始める。

三戦立ちからの正拳、裏拳、手刀、受け。平行立ちからの足技。

前屈立ち下段払い、後屈立ち手刀受け。

補強として拳立て20、腹筋20、背筋20、スクワット20、これを3セットやってもらう。

全部合わせて30分以内にやってくれ。」

指示をすればその子は有無を言わずに取り掛かる。

その間に俺は資料を読む。

なるほど。基本は完ぺき。型も平安ピーヤンまでは完ぺきか。

だが唯一の弱点があるようだな。

この日の稽古はこの程度確認で終わった。


・「・・・朝か。」

俺は目を覚ましてベッドから起き上がる。

肌寒い今日は日曜日。現在10時半。

まあ、高校生の朝にしては普通だろう。

俺はまだ瞼を半開きにしながら立ち上がると

「っ!」

そのまま倒れてしまった。忘れていた。

今右足動かないんだったな。

ベッドに手を置いて立ち上がり、杖を拾って歩き出す。

トイレから帰ってきて着替えた俺は昨日のことを思い出す。

赤羽美咲。昨日から俺が受け持つことになった少女。

昨日は1時間ほどの軽い力試し程度だったが彼女の声を聞くことはなかった。

昨日決めたことは毎週月・水・金曜日にあの道場で稽古をすること。

時間は学校が終わってからだから5時から3時間。

しかし、頼まれた以上やるしかないが俺はあの子のことが分からない。

無口というわけではなさそうだが昨日は全く声を発さなかった。

体を動かす基本はできていそうだが、心構えの基本はできていないようだ。

今日は彼女と逢う予定は入っていないし彼女との連絡手段はない。

あの道場のカギは俺が持っているから道場に行って自主トレということもないだろう。

俺はあの日から病院に通院することとなった。

この足は今手術すると逆に悪化するらしい。

だから少しずつ治療をしてから手術に映るらしい。

まあ、詳しいことは俺には分からないが専門医が言うには本当なのだろう。

しかし今まで戦ってきて相手を病院送りにしたことはあった。

あまり思い出したくはないが死なせてしまったこともあった。

リング禍というこの事件。試合中に選手が死んでしまった場合は

殺人としては見られずあくまでも試合中の事故として見られる。

事実上殺してしまった俺に罪はない。

とはいえ殺してしまった以上罪悪感はある。

それを今どうこうは言わないがまさか自分がこんな状態になるとは思わなかった。

手術しても治る確証はない。

仮に治っても現役復帰はあまり望めない。

もはや空手界から去るしかなかったときに差し込んだ希望の光。

それがあの不愛想な少女のコーチとはな。

悪くはないが、どうもな。

明日確認してみよう。


・そして月曜日。

本来俺の学年は修学旅行だったのだが

俺の脚がこんな状態のためドタキャンした。

修学旅行に行かなかった生徒は図書室で課題をすることとなっていた。

図書室は4階にある。

普段はちょっと階段が長いなと思う程度だったが

今はそれどころではない。

「はあ・・はあ・・・」

汗が流れてきた。

まさかここまでつらいとは思わなった。

障害者見くびってたぜ。

5分かけてようやく図書室に到着。

中に入る。

同学年は俺しかいない。

俺は席に座って課題に取り掛かる。

課題をこなしながら俺は今日の稽古について考えていた。

時間は3時間。基本稽古に1時間。補強に1時間。

実戦実習に1時間か。

普通だったらこう組む。

だが今日は違う。

俺は課題の提出用紙に課題の回答を書き、

提出しないであろう問題用紙の裏にメニューを書く。

「・・・よし。」

時計を見れば12時。

ここへ来たのが9時半だからざっと2時間半。

課題を終えたためほかの奴らが

沖縄に行っている一週間俺は何もやることがなくなった。

さて、小娘。

俺がここまで手をかけてやっているんだ。

せいぜい俺の手で踊ってもらうぜ?

俺は再び地獄のような階段を数分かけて降り、

職員室に課題を提出すると下校した。


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