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91 謎の大逆転

 パイプ椅子の間を小動物のようにピョンピョンと跳ねながら逃げ回るチロリに向けて、ちえ美が幾度となく水鉄砲を発射するが、なかなか当たってはくれない。今のところ三発ほど命中したであろうか。ダメージポイントの差はまだまだ大きい。

「コラー! 止まれ、クソチロリー!」

 清純アイドルだと聞いていたが、とてもそうには見えない言葉を吐くちえ美。また引き金を引くも。

「やだよー! こっちおいでー!」

 あっさりとチロリにかわされてしまい、客席に座るミスコン参加者と見られる女性に誤爆。ちえ美が彼女に平謝りする間、チロリは余裕からか足を止める。意味不明なポーズを決める(おそらく挑発だ)。やがて、追いかけっこが再開する。

 橘川は「くそ」と唇を噛んだ。彼はミスコン会場の客席の後方にて、ちえ美の支援者たちに混じり、立ち尽くしていた。手には水の入ったペットボトル。しかし、水鉄砲の燃料よりも先に時間が尽きてしまう。

「残り二分ですね」

 またどこからか現れた貴美が無表情で言った。「チロリさんが転びでもしてくれない限り逆転は不可能ですよ。でも足をかけたりするのはもちろん反則だと思います。人道的に……」

「分かってるよ!」

 いつになく声を荒げてしまう橘川。そして、何か自分にできることはないかと考えるも、何も思いつかない。

 もう無理なのか。チロリちゃんの罰ゲームはあきらめるしかないのか。

「決まりですね」

 背後から優越感溢れる声。振り向いてみると、そこに藤岡が立っていた。手に水鉄砲を持っている。「一応水を入れてきましたけど、もうこれを手渡す必要はないでしょう」

 その時、客席からガタンと音がした。三人の秀英祭ツアー実行委員が同時に音がした場所を見る。二、三脚のパイプ椅子が倒れているのを認め、橘川は少し期待してしまう。

 こ、転んだのか?

 しかし、次の瞬間に期待は絶望へ。チロリは相変わらずピンピンと走り回っており、ちえ美は例のパイプ椅子が倒れた場所でひざまずいている。どうやら、転んだのは彼女らしい。



「藤岡さーん」

 あろうことかチロリがこちらにやってきたではないか。遠目でも薄らと確認できてはいたが、変装用なのか眼鏡をかけている。「水鉄砲貸してよ。私も攻撃したい」

「はあ? そんなことしなくても、もう決まりだろうが」

 うんざりとした口調で藤岡は言う。いつの間にか二人はタメ口で話す間柄になったようである。橘川はモヤモヤと湧き上がる嫉妬にかられた。

「そのとおりです」

 貴美がそう言って頷き、他の三人が彼女に注目する。「あと十秒ですね。今のところ、チロリさんのダメージポイントが十一、ちえ美さんは二十六……。あ、そんなことを報告してる間に……」

 キーンコーンカーン、とチャイムが鳴る。

《これにてサバイバルゲーム終了おお!》

 はあと溜息を吐き、うなだれる橘川。チロリが「えー、もう終わりー!?」と上空に向けて尋ねる。《はい、終わりです》

 聞こえてはいないはずなのだが。《只今ダメージポイントの集計中です。結果発表まで皆様、今しばらくお待ちください》

「集計するまでもないだろ」

 ふんと鼻を鳴らしてから、藤岡はチロリに向けて右手を差し出した。「とりあえずはやったな。なかなか楽しかったぜ」

「私も」

 チロリも右手を出し、二人はガッチリと握手を交わした。その光景を見て、橘川の心は更に落ち込んでいく。彼は助けを求めるようにちえ美に視線を移した。すると、先ほどまでちえ美がひざまずいていた場所に彼女の姿がない。

「橘川さん」

 名を呼ばれ、そちらに顔を向ける橘川。ちえ美もすぐそばにまで移動してきていた。彼女の様子を前に橘川は意外に思った。彼女が予想外に晴れやかな表情を浮かべていたからである。「負けちゃいましたけど、橘川さんとパートナーになれて良かったです。罰ゲームは……。なんとか頑張ります」

 ニコリと微笑むちえ美。

「ちえ美さん……」

 橘川は思った。内藤ちえ美……。彼女もまた魅力的なアイドルなんだなと。

 そして今日、彼女と力を合わせて戦ったことを一生忘れないでおこうと心に誓うのであった。



「お!」

 そう言って目を丸めたのは皆岡であった。隣にはちえ美と同じくまだビキニ姿の亜佐美が。亜佐美チームもこの場に来ていたらしい。「大田のやつ、予選突破したんだな」

 皆岡の目はミスコンのステージの上に向いていた。彼の視線を追う橘川。なるほど、三十名ほどの着飾った女子生徒が横並びに立っており、その中に早苗の姿も見える。彼女はこちらに向けて手を振っていた。おそらく、今壇上にいる生徒は予選を突破した者たちなのであろう。

 あちゃー……。明日も秀英祭ツアーのガイド確定か。

 早苗が予選落ちしたらガイドを代わってもらえるという条件であった。それでも橘川は嫌な顔をせず、手を振り返した。早苗の予選突破は覚悟していたのだ。いや、グランプリだってありえなくはないと思っている。

「あ、早苗ちゃんと知り合いなん?」

 チロリが言った。「いやー、この眼鏡、変装用に早苗ちゃんに借りたっちゃけど、私にピッタリなんよー。なんか返したくないなー、なんちゃって。ちゃんと返すよ」

 そういえばあれだけ動き回っていたのに眼鏡はほとんどずれていなかった。

「ふーん」

 同じく眼鏡をかける藤岡が、自身の物のフレームを持ち上げながら言った。「早苗に借りたのかー。サバイバルゲームのこと話した時、あいつめちゃくちゃ目輝かせてたからな。些細なことでも協力したかったんだろ……。ん……?」

 そこで真剣な顔つきになり、何やら考え込む。「き、協力……?」

「あっ!」

 ハッとした顔で皆岡が叫ぶ。藤岡と顔を見合わせ頷く。

 彼らの顔を交互に見る橘川。はっきりいって意味がわからない。何か問題でもあるのであろうか?

「どうしたん? 二人とも、様子がおかしいばい?」

 チロリ、そして他の二人のアイドルもキョロキョロと顔を動かす。彼女たちも橘川と同類のようだ。

 早苗ちゃんがチロリちゃんに協力……。それがいったい……。

「あっ!」

 ようやく橘川のもとにもそれは舞い降りてきた。それから反射的に貴美を見る。アイドルたちを含む他の者も、皆、貴美を注目していた。

「うん……。うん、じゃあそうゆうことで」

 貴美は携帯電話にて誰かと通話中であった。電話を終え、パタンと携帯を閉じる。彼女の一挙手一投足から目が離せない。「みなみちゃんに集計結果を伝えました。いや、私としてもこんな結果になるとは予想がつきませんでしたね」

 そう言ってニコリと笑う彼女。



 キーンコーンカーン。

《ただいま集計が終わりましたー! 最後の最後で大逆転ですよー。これだからサバイバルゲームってのは面白いですよねー》

 チロリがその放送を聞き、「ん?」と眉をひそめる。橘川は彼女の顔を見つめていた。《亜佐美さん三ポイント、ちえ美さん二十六ポイント、そしてチロリさん三十一ポイント。よって罰ゲームは綾川チロリさんに決定でーす!》

「な、な、な、な……」

 両方の手の平で頬を挟み込むチロリ。「なぜーええっ!?」

 ムンクの『叫び』になってしまう彼女であった。


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