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8 これが現実

「ん?」

 綾香はそこに現れた画像を凝視した。やがて、身体中から冷や汗が湧き出す。「こ、これって……」

「お? これは……」

 いつの間にか真一も、ディスプレイを覗き込んでいた。

「あ! あっち向いててって言ったのに」

「アースロマン企画じゃねえか」

 綾香の言葉を無視し、真一は続ける。「ここのAVけっこう良いよな」

 ディスプレイに映し出されたのは、『18禁』の文字と、女性が肌をあらわにし、あんなことやこんなこと、とにかく文章で表現できないほど過激な行為をしている画像であった。

「え、えーぶい?」

 驚いて真一の顔を見る綾香。彼は心なしか鼻の下を伸ばしているように見えた。

「ギャル系の専属女優がたくさんいてさあ、俺好みなんだよ。川嶋トマトちゃんとか、夢乃夢ちゃんとか、いつもお世話になって……うっ!」

 そこで彼の言葉が途切れる。綾香がまた真一の股間を攻撃したのだ。「ぬほおおおおお!」

 床を転げまわる真一。彼の姿を横目で見ながら綾香は考える。

 え、AVって……。 どうゆうこと? 佐々木さんはそんなこと一言も……。

 彼女はすぐに携帯電話を手に取った。


 

「ん? あー、綾香ちゃんね。どうしたの?

 え? うん、そうだよ、AVだよ。聞いてないって? なんだ、知らなかったの? けっこう有名なメーカーだからさ、わざわざ言わなくても分かるかなって。

 え? デビューを取り消したい? そんな、もったいない。綾香ちゃんならけっこうマニア層にも受けると思うんだけど……ちょ、ちょっとそんなに怒らないでよ。

 まあ、別にやめるのは君の自由だけどさ。

 え? てっきりアイドルの事務所だと思ったって? はっはっは、面白いこというね。アイドルにはアイドルの器ってもんがあるでしょ。一度鏡見てみなよ。君はどう見てもアイドルじゃなくってエーブ……」

 ガチャ、ツーツーツー。



「どこに電話してたんだ?」

 パソコンをいじりながら、真一は綾香に目を向けず、聞いた。綾香は黙って彼の背後に回り、ディスプレイを覗いてみた。彼はアースロマン企画公式サイトのサンプル動画を見ている。画像以上に過激である。

 綾香は怒る気にもなれず、彼にこんなことを聞いてみた。

「ねえ、真一。私がアイドルとしてデビューするってことになったら、どう思う?」

「世界が引っくり返ってもそんなこと起こらないから安心しろよ」

 綾香が拳を握ったのに気づき、真一はサッと両手でガードをする。

「じゃ、じゃあさ」

 なんとか怒りを静め、次の質問。「私がその、AV女優としてデビューするってことになったら」

「おお!」

 やたらと大きなリアクションを取る真一。「それなら有りうるじゃんか。お前ってけっこうマニア受けしそうだし、ヘビと絡んだりとか、そうゆう企画ばっかやってれば人気出そうじゃね?」

 次の瞬間、綾香の右ストレートがカードを突き抜け、真一の眉間に直撃した。本日三度目のKOである。床に倒れこんだ真一の胸倉を掴み、綾香は怒鳴る。

「あんた、それでも私の彼氏なん!? 誰のために学校やめたと思ってんの!?」



 真一が早稲田大学に通っているというのは大嘘で、実はただのフリーターであった。(ちなみに彼がマンションと言っていた場所はこのアパートである)それでも愛あらばと、綾香は彼との半同棲生活を始めたが、一ヶ月ほど前、彼がバイトをやめてしまい、彼の生活費までもを自分が負担することとなってしまったのだ。よって彼女は、バイトを週三日から六日に増やし、気づけば学校へもほとんど行かなくなってしまった。



「この状況をお父さんに知られてみ! 私もあんたも殺されるけんね」

 涙ながらに叫ぶ綾香。真一の上に乗っかったまま、再び拳を握る。

「わ、分かった。分かったから暴力はよそう」

 綾香の家族には、彼との半同棲生活のことも、退学のことも秘密にしてある。殺されるとまで行かなくとも、勘当されてしまうかもしれないし、それで仕送りを止められたら、生活は更に苦しくなる。

 そう、わずか半年で、綾香にとって憧れだった東京ライフは、ガタガタに崩壊してしまったのだ。


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