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23 別行動

 再び、アキバの街を歩き始めた二人。大通りから細い小道へと入っていく。

「せっかくアキバに来たっちゃけん、色々と探索してみたいな」

 隣を歩く南に綾香が笑いかける。大通りに比べて日陰が増えたためか、彼女は少し元気を取り戻していた。「メイド喫茶とか、フィギュアショップとか、けっこう楽しそうやない?」

「イベントが終わってからのんびり一人で回れ」

 突き放す南。「リハーサルやら、メイクやら、やることはいくらでもあるぞ。三時間なんてあっという間だ」

 イベントは五時からスタートの予定である。ちなみに綾香は六時からの登場だ。

「ケチ」

 ぷい、と綾香は顔を背けた。「一人でメイド喫茶なんか行ってどうするんよ」

 その台詞を言うと同時に、彼女は恋人である井本真一の顔を思い浮かべた。彼ならメイド喫茶にも興味を持つだろうな、という連想からである。

 そういえば、アイツ。今日、どうするっちゃろ。

 昨日、彼に「明日はいよいよ私のデビューイベントやけど、あんたも観に来る?」と電話で確認したときは「そんなもん誰が行くか」と高笑いしていたが……。

「本当に来んつもりとかいな……」

 思わず口に出してしまう。

「ん? 誰が来るって?」

 南のその声でハッと我に帰る綾香。ぎこちない笑顔で彼女は答える。

「い、いや……。友達がひょっとしたら、今日来れるかもしれないらしいんで」

「?」

 そんな彼女の慌てた様子を見て、南は不思議そうに眉をひそめた。

 実は恋人、井本真一の存在を、彼にはまだ伝えていなかったのだ。これからアイドルとしてデビューするわけなのだから『私の恋人はファンの皆さまです』でなければならないであろう。彼に真一の存在を知られたら、デビューの話もなかったことにされてしまうのではないか、と綾香は心配していたのだ。



 やがて南が「ここだ」と一つの商業ビルを指差す。そのビルは六階建てで、奥行きがどれぐらいあるのかは不明だが、正面から見た幅はかなり狭い。外観に、そこにテナントを持つのであろう、数々の店の看板が見えた。

「なんか……怪しいビルやね。大谷ビルと同じぐらい」

「黙っとけ。ここの地下に『秋葉原ポケットルーム』がある。カビリオンズはもう来てるらしいから、挨拶を済ませとけ」

「ええ!?」

 南の意外な言葉に驚く綾香。「あ、あんたは一緒に来んと?」

「後で行く」

 彼は既にその場を離れようとしていた。「今のうちにお前の衣装を買ってくるから。お前一人で先に入っとけ」

「ええー!?」

「じゃあな」

 困惑する綾香を気にもとめず、彼は片手を軽く上げ、あっという間に雑踏の中に消えていった。

 ポツン、と一人とり残される綾香。

 さ、先に一人で入っとけ、って……。

 南が去っていった方角から、ビルの入り口へと視線を移す。入り口の奥にある小さなエレベーターホールに、人の姿は全くなく、三時間後に、ここでトークショーが行われるなどとは到底思えない。

 しかし……。



「ん? これは」

 入り口付近に貼られたB4サイズのポスターの存在に気づく。そこには、なぜか上半身裸の男性二人おそらくカビリオンズが、こちらを睨みつけている写真が掲載されていた。その写真の横の、コピーを読んでみる。

 『カビリオンズ トークショー 昭和のアイドルを語り明かします 八月一日午後五時より開演』

 昭和のアイドルねえ……。

 彼女は今更ながら不安になった。井本真一に『まずはアキバの中年アイドルオタクを取り込んだる』と豪語したはいいものの、昭和のアイドルをこよなく愛するご年配の方々に、はたして自分が受け入れてもらえるのかどうか。

 あ……。

 その時、ポスターの右下隅あたりに、もう一つ文章を発見する。

 『サプライズゲストとして、今世紀最注目の新人アイドルが登場予定! 衝撃の瞬間を見逃すな!』

「今世紀最注目の新人アイドル……?」

 ぼんやりと文面を読み上げながら、彼女の顔から血の気が引いていった。

 ハ、ハードルが無駄に高い……。


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