31 夏の気配
投稿者:サダヲ(2009/6/13/17/15)
綾川チロリ 三万人の観衆に懺悔!?
六月十三日、福岡ドームにて行われたプロ野球交流戦、福岡ポークス対横浜ロブスターズ第一回戦デーゲームの始球式に人気アイドルの綾川チロリ(二十歳)が登場した。今月の始めに写真週刊誌によって出身地が実は福岡県博多ではなく長崎県佐世保であったことを暴露されてから初めての『凱旋』となる。
ドーム内にチロリの名前がアナウンスされると同時に観客たちはどよめき、やがてベンチ横の通路からポークスのユニフォームに身を包んだ彼女が姿を現した頃には、どよめきがブーイングへと変わった。しかし、それも一瞬のことだった。
「福岡の皆ー。佐世保出身の綾川チロリでーす。私、本当は佐世保出身やったけど、それでもやっぱり博多が好きやけん、歌わせてもらいます。『やっぱり博多が好きやけん』!」
チロリがそう宣言するとブーイングはたちまち歓声に変わり、直後に行われた『やっぱり博多が好きやけん』のミニライブではドームを埋めつくした三万人超の観客ほとんどが曲に合わせて手拍子をするなど大盛況であった。
肝心の始球式では、バッターボックスに立つロブスターズの外川聖二内野手にチロリンポーズ(左手を腰へ右手をチョキにして額へ当てる)を決め、彼に同ポーズを要求するも拒否されたり、投球ではボールを足元の地面に叩きつけてしまい、転がってですらキャッチャーミットに届かないなど散々に終わったが、チロリは最後まで変わらぬ笑顔を観客たちにふりまいていた。(文/高田範子)
日刊ウェブスポからの転載です。いやー、さすがはチロリちゃんって感じですね。
res1:アーモンド大使:チロリちゃんならやってくれると思ってましたよ。福岡の人もなかなか話が分かるね。来月の山笠も楽しみだな。(6/13/17/19)
res2:大家;サイト飛んでみ。チロリンのユニフォーム姿めっちゃ可愛いぞ。(6/13/17/33)
res3;チロリンの妹:やったー(^▽^)! スクープされちゃった時はどうなるかと思ったけど心配なかったね。新曲早く出ないかなー。(6/13/17/46)
res4:権兵衛:山笠の地元テレビ番組の出演は向こうの申し出でキャンセルになっちゃったみたいですよー><。>アーモンド大使さん。この記事を見て考え直してくれたらいいのになー。(6/13/17/49)
res5:ぼんきゅぼん:有料放送で中継やってましたよ。最初ブーイングされた時はヒヤヒヤしましたけど、チロリちゃんの明るさが会場の空気を一変させたって感じですね。福岡ローカルの中継ではゲスト解説にも加わったそうですけど、おーちゃんさん、どうでしたかー?(6/13/18/01)
res6:アーモンド大使:マジっスか。貴重な情報ありがとうございます。>権兵衛さん。本当に考え直して欲しいですよね。俺のところでも放送されるんで、チロリちゃんが出てたら絶対観るのにな。(6/13/18/14)
res7:匿名:不細工すぎ。テレビうつんな。(6/13/18/51)
res8:データカロチン:ちょっと、全然懺悔してないじゃん(笑)(6/13/19/11)
res9:おーちゃん:また変なのが湧いてますね……。俺は会場に直接観に行ったんで中継は見てませんが録画はしてます。明日観て感想を書こうと思います。>ぼんきゅぼんさん(6/13/19/16)
res10:権兵衛:ですよねー。でも、うちの地方じゃ観れ……。
えーっと、レス7とレス11とレス13を削除して、俺もなんかコメント書いとこうかな。
午前零時過ぎ。入浴を済ませたばかりの井本真一は、今や日課となった『チロリンルーム』の管理作業に追われているところであった。上は白ティーシャツ、下はグレーのスウェットという姿である。肩ひざを立てて椅子に座り、中指のみを使う慣れない手つきでカタカタとキーボードを打ち込んでいく。
写真週刊誌なんかには負けずに、これからもチロリンには頑張ってもらいたいですね、と。
レスを送信し終え、ふうと一息吐く。それから、ひざを下ろし背もたれに寄りかかると、真一は両手を頭の後ろで組み静かに目を閉じた。
何も考えずにぼうっとする。リビングと隣り合う寝室の窓から流れ込む夜風が風呂上りの金髪を優しく撫でる。外ではシトシトと今朝からの小雨が降り続けているが、前回の雨の日よりも気温はだいぶ暖かく、密かに夏の訪れを予感させる。
「夏か……」
夏と聞いて真一がまず頭に思い描いたものは、現在福岡に出張中の彼の恋人、綾川チロリこと池田綾香の常人離れした汗の量であった。綾香が本格的にデビューしたのは昨年の九月で、世間に名が知れるようになった頃はかなり涼しくなっていたはずだ。『チロリンルーム』の掲示板に書き込んでいくファンたちの中で、綾香があれほどの汗っかきだということを知る人間はどのぐらいいるのだろうなと彼は想像し、苦笑いを浮かべた。
「……」
今日はあいつ福岡に泊まりだろうし、最後にエロサイトでも堪能しとくか。愛しの小村涼香ちゃん(AV女優)、待ってろよー。
ところが、鼻の下を伸ばして真一がマウスを操作しようとした瞬間、玄関からガタンと音がした。しゅんと何もかもを萎えさせてしまう彼であった。
「帰ったばーい」
両手に紙袋を提げた綾香がドスドスと足音を立ててリビングへ入ってきた。福岡ポークスの野球帽を深くかぶり、ピンクのノースリーブのシャツと白いハーフパンツを着用している。「おっと、もう夜中やったね。しー」
真一に向かって人差し指を立てる。真一はパソコンデスクの椅子から立ち上がり、ソファへと身を移しながら「お前だよ」とかったるそうに言った。
「明日は休みやけん、福岡に泊まってこようかなーって思っとったけど、あんたが寂しがろうけん、戻ってきたっちゃん」
ダイニングのテーブルの上に紙袋を置きながら綾香は微笑む。「長浜ラーメンと明太子たっくさん買ってきたけんねー」
リビングへ戻ってきた綾香の服を真一はまじまじと見つめた。
「夏の風物詩だな。お前のシャツ、汗でビショビショじゃねえか」
「ん?」とあごを下げる綾香。再び視線を真一に戻し左右に首を振る。
「違うよ」
プイと顔を背ける。「小雨やったけん、傘差さんで帰って来たっちゃもん」
「ほう」
綾香の側に近づき野球帽を脱がせると、真一は彼女の耳元にふっと息を吹きかけた。「わっ」と驚き、目をつむる綾香。「ならそんなシャツさっさと脱いじまいな。脱がねえなら俺が脱がせてやるぜ」
びしょ濡れの綾香を見て、先ほど萎えてしまった真一の性欲が一気に再燃したのである。
「えー」
綾香は恥ずかしそうに頬を染め、チラッと真一を一瞥した。「シャワー浴びるけん、ちょっと待ってよー」
「いいじゃねえかよー」
ニヤニヤと口もとを曲げながら、綾香のシャツに手をかける真一。「涼香ー。愛してるぜー」
あ……。
彼の顔色が変わる。
「涼香?」
綾香の目の色も変わる。「今、涼香って言ったばいね」
彼女にギロリと睨みつけられた真一は青ざめた顔で「い、いや」と弁明しようとするも、その後の言葉が出てこずに、口をただパクパクと動かすのみに留まった。
数秒後、吉祥寺中に真一の「ぬほおおおおお!」という叫び声が響き渡ったということについては言うまでもない。