1
ジルは畑から帰ると今日もロジャーの家に行こうとしていた。
村長の友人らしく数年前からこの村に住み始めたロジャーはたくさんの本を持っている。その本が読みたくて畑仕事が終わるとしょっちゅう遊びに行っているのだ。
「今日はジルの大好きなシチューだから早く帰っておいで。」
レイナはヤギの乳を搾りながらそう言った。
すでに日が暮れてしまいそうだが一昨日借りた本を返してまた新しい本を借りるために村の外れにあるロジャーの家に走った。
着いてドアをノックする。しかし応答がない。ドアノブに手を掛けてみるがやはり鍵がかかっている。
「出かけてるのか…せっかく来たのに」
もしかすると村長のところにいるのかもしれない。
村長の村は帰り道の途中だ。寄ってみようと歩き出す。
村長の家に行く途中双子の兄が友人たちと遊んでいるのが見えて思わず身を隠した。
魔力が全く使えないジルは足手まといになるからと狩りに連れて行ってもらったことがない。
双子であるはずのロイは攻撃系の魔法が上手く狩りに行けばいつも獲物をしとめてくる。
ジルはと言えば畑や動物の世話など女の人がする仕事しかさせてもらえない。
人には得手不得手があるのでジルは何の疑問もないし、むしろ嫌いじゃないので何の不満もない。
野菜も手を掛けて成長するしていくのが嬉しいし、自分で作った野菜は格別だ。それに動物たちもジルのことをわかっているので懐いてくれていてとても可愛い。
だがそれを良しとしない人たちがいることも知っている。
今彼らに見つかればまたいろいろ言われそうだと思わず木の陰に身を隠したのだった。
小さくため息をつくが彼らがいなくなるまでここで隠れているわけにもいかない。仕方ない…諦めて木の陰から出ていくとすぐに見つかってしまった。
「ジルじゃないか?こんなところで何しているんだ?」
「畑仕事はどうした?狩りにいけないんだ。せめてそれくらいはしっかり働いてもらわないと。」
「働かざる者なんとやらだぜ。」
みんな口々にジルをからかってくる。ロイは何も言わないが顔に笑みを浮かべ自分も同じように思っていると言わんばかりだ。
「もう今日の仕事は終わった。」
早く立ち去ろうとぶっきらぼうに答えたところで声がした。
「こんなところで何をしとるんじゃ?」
アイクとロジャーが並んで歩きながら声を掛けてきた。
みんなは閉口してしまった。助かった。
「さっきロジャーさんの家に行ったんです。本を返そうと思って。」
手に持っている本を見せた。
「あぁすまなかったな。アイクの家に行っていたもんでな。すまないがこれから用がある、新しい本を借りたいならすまないが明日にしてもらえないか?」」
ジルは素直に頷くと明日行くことを伝えて家路に着いた。
見た目だけではどちらがどちらか区別がつかないほどにそっくりなジルとロイ。
だが間違われることはほんとない。それは魔力を持つ者と持たざる者。そして性格が全く違う。
ジルは穏やかで優しいが目立つのが苦手だ。
ロイは活発で思ったことはすぐ口に出す。だからこそ敵も味方も作りやすい。だがリーダーの素質はしっかり持っており、自分でもそれを自覚している。
昔はそこそこ仲が良かったがいつからかほとんど会話を交わすことがなくなってしまったのだ。